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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第二章:海封図書学園ダンタリオン

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第三一一話:潜るほど上がる、蔵書の質

 例の本を燃やす燃やさないと、なおも議論を繰り広げた後、俺たちはようやく下層へと再出発した。


 降るに従って本棚は増える一方と推測していたのだが、思っていたのとは逆に本棚が減り、格子状の階段が増えていく。

 正確には階段の長さが伸びているのだが、それにより、相対的に本棚が減っているようであった。

 その代わりに——。


「敵が……大型化しているな」


 俺の身長の二倍くらいの甲冑を模した自動人形を見上げて、俺。

 通路も広くなっているので、そうではないかと思っていたのだが。案の定だった。


「困りましたね……マリウス艦長とニーゴさん、ユーリエさんは魔法の威力をあげるだけで対応できますが、私とアリスさんはそうもいきません」


 クリスが唸り声に似た声で、そんなことを言う。


「それでしたら——」


 ユーリエが、両手杖を振るった。

 途端、クリスの長銃、アリスの拳銃に、小さく紫電が走る。


「おふたりの銃に雷の魔法を付与しました。これで普通の弾丸を込めても発射時弾丸に雷属性が付与されます」

「ありがとうございます……すごいですね」


 剣に付与することは俺もやったし、弾丸にあらかじめ魔法を込めることもやっていたが、銃本体に付与して装填される弾丸に適用するという考えはなかった。

 やはり、俺が封印されている間、南半球では魔法の理論がだいぶ進歩しているらしい。


「……マリウス卿? どうかなされましたか?」

「いや、なんでもない——とはいいがたいな。後で話すから、とりあえずいまは目の前の敵を駆逐しよう」

「ではいきます!」


 クリスの号令の許、俺たちは戦闘を開始した。

 アリスの雷属性の弾丸が直撃し動きが鈍ったところで俺が右脚を、ニーゴが左脚を斬り落とし、倒れたところで槍のように光の穂先を展開させたユーリエが胴体中央を貫く。

 これがトドメになったのだろう。

 大型の甲冑型自動人形は、光の粒に還っていった。


「今思ったんですが、魔法で仮想的に作った機械に対しても、雷は効くんですね」


 今回は指揮に徹していたクリスが、一息つきながらそう指摘する。


「はい。仮想化しても元の属性は変わりません。だから雷の魔法を付与したのです」

「なるほど。他の属性に変更するのは難しいのですか?」

「そうですね……できなくはないですか、余計な魔法の構造式を組み込むことになりますから、本来の性能が低下します」

「なる……ほど?」


 クリスが首を傾げる。


「仮に雷が弱点ではなく火が弱点の自動人形を作ったとしよう。すると本来の設計によけいなものを加えることになるので

本来の性能が低下するということだ」

「いっていることはわかりますが、ちょっと想像が——」

「戦艦を潜水可能にしたら、その分大型化するか、本来の装備を減らす必要があるだろう?」

「……ああ! そういうことですか。それならわかります」


 さすがはクリス、まったくおぼえのない魔法のことでも自分の分野に置き換えるとすぐに理解できたようである。


「こうしてみると、魔法ってなんでもありというわけではないんですね」

「ええ。魔法は歴代の古典魔王から連綿と受け継がれてきた、いわばひとつの大きな技術大系です」

「技術ですか。魔族の方にとってはそういう風にみえるんですね」

「はい……ですから、この図書館塔は、それ自体が巨大な知の集積体なのです……」


 ユーリエほどではないが、俺もその気持ちはよくわかる。

 色々と知識の方面が暴走することもあるが、それでもその蓄積は、とても貴重なものなのだ。


「先ほどの本を燃やすという提言を撤回します。申し訳ありませんでした、ユーリエさん」

「いえ……おきになさらず。少々刺激が強いものでしたので」


 ぺこりとクリスとユーリエが頭をさげあう。

 そしてそんなふたりを微笑ましげに眺めているアリスであった。


「話を戻します。この階層あたりからこのように、罠や保安装置の質と量があがっています……そしてマリウス卿が参加されているため、さらに強化されているようでして」


 今戦った大型の自動人形も、本来はもっと動きが鈍いのだという。


「ただし、その分本棚の蔵書の質は大幅にあがります」


 なるほど。たしかに本棚の作りからして質実剛健な造りになっている。

 本の厚みも普通の厚さになっており、その装丁も随分と丁寧なものになっていた。

 そして紙にかけられた魔法も複雑なものになっている。

 具体的には湿気避け、虫除け、そして経年劣化の防止といったところか。


「たとえば、このように……」

 

 そういって、ユーリエは一冊の本を取り出し、俺に渡してくれた。


「どうぞ」

「これは……!」


 その内容に、目を見開く。

 いま、俺にとって知りたい情報のひとつであったからだ。

 本の題名は、『四大竜について』

 それは、あの常識はずれの高出力、高威力を誇る轟竜(ごうりゅう)をはじめとする竜についての本であった。



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