第三〇八話:探索・図書館塔! ――浅層編
海封図書学園ダンタリオン最上階となる五階。
そこは現生徒会長——図書館魔王ユーリエ・フランゼスカの居室である。
大元からここは、生徒会長専用の部屋であったらしい。
そのひとつ下の四階は生徒会役員用の居室、三階は生徒会以下の各委員会の執行機関として事務室があり、二階は大食堂、そして一階は各委員会関係者の共同居室であったらしい。
「ここにきた時に見た感じでは、全て図書室のようであったが」
「はい。いまは誰も使っていないので、海面より下の階から、私が気になった本を回収してそこに貯蔵しているのです」
なるほど。
つまり現在四階から一階はユーリエの蒐集品貯蔵庫を兼ねているらしい。
そして海面下一階以降が——。
「先ほども話しましたが、私はまだ最下層の階に到達しておりません。そのため便宜的にそう呼んでいるだけですが、それほど深くない階を浅層、本棚の質・量ともに急上昇した階からを中層、各階の罠が巧妙かつ悪辣になった階からを深層と呼んでいます。今日は浅層から中層、調子が良ければ深層の一部まで行ってみようと思います」
「前にいきなり最新部がどうのといっていたが、転移の魔法をしかけてあるのか?」
「はい。十階ごとにしかけてあります。階段を降りるのはともかく、登り続けるのは骨ですので」
たしかに、その通りだった。
「それでは、皆さん準備は、よろしいですね? では、参ります……」
ユーリエが一階の——俺たちがはじめてきた時に上に登るか下に降りるか選んだ場所だ——取手も錠前もない大きな扉に手をかざす。
すると、扉の表面に魔法陣が浮かび上がり、右に二回、左に三回回転してから、ゆっくりと開いたのであった。
どうやら、生徒会長の権限がないと、開かない仕様らしい。
「明かりは自動で点灯しますが、かなり暗いです。お気をつけください……」
両手杖を構えたまま、先頭をユーリエ、すぐ後ろを俺、アリス、クリスが続き、殿をニーゴが引き受ける。
螺旋状の階段を一回転分降ると——。
「わぁー……!」
アリスが歓声を上げた。
「なっ——!」
ほぼ同時に、クリスが驚愕の声を上げる。
「これは……すごいな」
どちらも、無理のないことだった。
目の前の壁が硝子に代わり、外の様子がはっきりと見えたからだ。
既に海中となっているそこは陽の光によってゆらゆらと輝き、上を見上げれば桟橋と、それに横付けしている雷光号の様子がみえる。
「ど、どうなっているんですか。まさか硝子でできた塔——ではありませんよね?」
「はい。クリスさんのおっしゃるとおり、硝子ではありません。構造材は海上とおなじく魔法でつくられた合成石材です。この光景は、魔法によって壁を透明にみせかけているんですよ」
「なるほど……」
仕組みがわかると、風景を楽しむ余裕が出てきたらしい。
アリスと一緒に、周辺の様子を興味深げに眺めるクリスであった。
「ここは……観測室かなにかか?」
「いいえ。もとはお城でいう玄関のようなものであったようです。ここから先、数階分は一般生徒用の設備が続きますので」
ユーリエの説明通りだった。
天井の高い海面下一階は特に何もなく、続いて海面下二階から五階は一般生徒用の居室、いわゆる学生寮になっていた。
当然ながら、現在は誰もいない。
その割にホコリなどで汚れていないのは、定期的に風の魔法が吹き込まれているからだという。
そして海面下六階から九階が教室、そして十階が——。
「う、運動場!? どうなっているんですかこれ!」
「空間を魔法で広げているんだ」
円筒状だったはずの塔内が、急に広大な立方体となっていた。
中から想像する限りでは途中で塔が太くなっているように感じるが、おそらく外見状の変化はないのだろう。
「いまさらですが、魔法って本当になんでもありですね……しかもこんなに身近なものに使えるなんて」
「いえ、この規模のものは、かなり珍しいです……」
ユーリエがそう解説する。
どうやら俺が封印されている間に、魔法の出力量や規模に対する大きな進化はなかったらしい。
とはいえ、仮想的な竜を作成し、使役するなどその使い方は大きく変化している。
そのことは、決して侮ってはならなかった。
「こちらです」
ユーリエが運動場の隅を指差す。
そこにはひとりぐらいなら屈んで通れそうな門の絵が立てかけてあった。
「ここから、海面上一階の空き部屋に繋がっています」
「これが十階ごとに設置してあると」
「はい。急な襲撃や帰還する時は、これを利用しています」
「なるほどな……」
「探査中に気分が悪くなったり、疲れた方がいましたら、早めにおしらせください。最寄りの門に寄りますので」
全員が頷いて答えた。
「では、ここからが海封図書学園ダンタリオンの真髄……無限図書館になります。いままではなにもありませんでしたが、ここからは所蔵している図書の防護装置や罠が、対象を無制限にした状態で設置してあります。十分注意してください」
「ユーリエ卿が生徒会長なのに——か?」
そういうものは、普通支配下にあるものだと思うのだが。
「私の数代前の生徒会長が、生徒数減少を理由に閉鎖を決断したようです。そのときの資料は現在解読中なのですが、いまのところ解除には至っておりませんので……」
「なるほど」
つまり廃校にしてしまうのなら、封印してしまおうと思ったらしい。
「最初は些細なものですが、深く降りていくと同時に致命傷を負いかねないものも出てきます。十分ご注意ください。特に罠の類は、嫌らしいものが多いです……」
「嫌らしい罠ですか。呼吸困難を引き起こす薬品を吹きかけたり、幻覚症状を引き起こす気体を発散させたり——とかですか?」
クリスが物騒なことを言う。
たしかにそれは、嫌らしい……。
「いえ、開くと服だけを溶かす粘液を吹きかけたり、全身を舐め回す触手が絡みついたりしたりする本とかです」
別の意味で、いやらしかった。
「あの……もしかしてなんですけど」
アリスが恐る恐るといった様子で、ユーリエに聞く。
「ユーリエさん、ひっかかったことが?」
ユーリエの瞳から、光が消える。
「……はい。三日三晩、寝込みました。精神的な意味で」
クリスが長銃の安全装置を解除した。
ほぼ同時にアリスが腰の拳銃を引き抜いて、待機状態で構え、ニーゴが剣帯から光帯剣を外し手に持つ。
「わかった。慎重に進もう」
「一応いままでひっかかったものはすべて地図に記載してあります。内部のものには、こちらから指示するまでは、手を触れないでください。それでは、参りましょう……」
海面下11階への扉は、物々しい鉄格子であった。
ユーリエが両手杖をかざし、鍵を解除する。
1階のときと違い手をかざさないのは、封印として開けるごとに鍵が暗号化されているかららしい。
「これは……」
両手杖の先端から灯される灯りによって照らされた室内に、俺は絶句した。
地下11階は、格子模様のように交差する階段とそれぞれの踊り場にある本棚によって形成された、巨大な図書館であったのだ。
「ミミックはいないんですか?」
「基本的にミューテーション・ブックばかりですね。というか、図書館に宝箱はおかしくないですか?」
「たしかに、マリウスさんが暗いよ狭いよって叫んだらおかしいですもんね」
「なぜ俺がはまること前提になってる!?」
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