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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第一章:蒼い瞳のユーリエ

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第三〇六話:波紋! 生徒会管理機構

「なるほど……」


 巨大な本——本というよりも、この南半球に存在する前学園の情報を閲覧するための記録装置に近い——の最初の(ページ)を何度も読み直しつつ、ユーリエは感心したように頷いた。


「最初の数頁が空白なのが、ずっと気になっていたのですが、まさか()()()()()()()()()が記載されているとは……」

「何らかの理由で、その部分の情報が欠落していたようだな」


 あるいは、意図的に削除したか。

 もっともいまとなっては、どちらだったのかを追う術はない。


「それで、マリウスさんはこの管理機構の筆頭に就任されるんですか?」

「いや、俺は——」


 ユーリエにもらった用紙に自分の名前を書き込みながら、俺はアリスの質問に答える。

 役職欄を書こうとすると、自動的に複数の役職が浮かび上がってきた。

 それをペンで囲めば、俺の役職が確定するらしい。

 筆頭はおそらく最初に表示された機構長だろう。

 そのあとを副機構長、生徒会監査などいくつか役職が続き——。


「そうだな、これにしよう」


 顧問。

 要は実権をもった現場の役職ではなく、後見のような役職らしい。


「あとは……所属する学園?」


 どうやら生徒会管理機構は各学園から人員を派遣していたらしい。

 なるほど、これを流動的にやればだいぶ組織の風通しはよくなるだろう。

 そして、各学園があらそうようになってからは廃れたといったところだろうか。


「これはマリウス分校でよかろうな」

「では、マリウス分校での立場はどうします?」


 早くも生徒会長の自覚が出てきたのか、クリスがそう訊いてくる。


「こちらも、顧問で」


 そもそも、年齢制限を回避するためには、これ以外に役職がない。


「まぁ、それでいいでしょう」


 というわけで、両方の書類に署名することになる。

 あとはこれが反映されれば……。


「登録完了です」

「よし。あとは他の学校の様子を見るか」

「というと?」

「やるとするならまずは諜報、次に公式な外交だ」


 そしてそれで(くみ)しやすいと判断すれば、侵略してくるだろう。


「その三段階において、それぞれ備えておけばいい」


 おそらく今頃、各校は対策のために会議を開いているだろう。




□ □ □




 マリウスの読み通り、各学園は大なり小なり混乱に陥った。

 まずは統合鉄血学園アイアンワークスである。


「生徒会管理機構ねぇ……」


 本校生徒会会議。

 たった三名による会議であったが、それはアイアンワークスにおける最高峰の意思決定を行う場であった。


「前から副会長がなんかあるとはいっておったが、このことじゃったか」

「非常に遺憾ですが、先を越されました」


 あまり普段と変わらない様子の生徒会長に対し、悔しそうに拳を握って、副会長がそう答える。


「このご時世にここまでできるほど魔法に長けている生徒が複数名いたのでしょう。技術で解析するというアプローチが失敗するとは……!」

「まぁまぁ、過ぎたものはどうしようもならんよ」


 みっつの席が机ごと正三角形の形に移動した会議の場で、生徒会長はそう副生徒会長を慰める。


「そうで方針はどう変える? 予定通り諜報で進めるのは、ワシはアリだと思う」

「それでいくしかないでしょうね。あちらの戦力がどう強化されたのかはわかりませんが、会長の読み通り分校がひとつ麾下に入ったようですし」

「あの、そのマリウス分校なんですが!」


 いままで沈黙していた書記が、手を挙げて発言した。


「この顧問のアンドロ・マリウスという方、もしかすると最終魔王(ラスト・ダークロード)では?」


 生徒会室が、沈黙に包まれた。


「——書記、いまは重要な会議の途中です。具体的にいうと、ここでファンタジーをもってくるんじゃねぇ」

「まあまぁ。書記、もしこのマリウス顧問なる存在が、かりに最終魔王(ラスト・ダークロード)だったとしたら、おまえさんはどうしたい……?」

「それはもちろん!」


 自分の席から立ち上がって、書記は堂々と宣言した。


「あたしの麒竜(きりゅう)と戦ってみたいです」


 副生徒会長が自分の机につっぷし、生徒会長は爆笑する。


「なるほど、さすが書記。でもそれはちょっと我慢しておくれ」

「はい!」

「……まさか会長、(くだん)の顧問が本当に最終魔王(ラスト・ダークロード)とお思いで?」


 つっぷしていた机から顔をあげて、副会長がそう訊く。


「そうさね、まずはそこら辺の確認じゃろ」


 椅子に座り直して、生徒会長はもう一度目録と呼ばれる巨大な本に目を落とす。


「まずは諜報。これがバレたらそそくさと撤収して外交といったところかね」

「バレなかったら?」


 なにもいわずに期待の目を向ける書記と共に、副会長が確認する。


「そら、諜報に気づかないようなお間抜けさんなら——蹂躙じゃよ」




□ □ □




『いかがいたしまして? お姉様!』

『いかがいたしまして? お姉様!』

『いかがいたしまして? お姉様!』


 爽やかな海の上を、伝令の魔法がこだまする。

 水師陰陽学園ミズミカドの艦隊は、現在急停止していた。

 最後尾に位置する旗艦である第一級戦列艦『ミズミカド』から艦隊急停止の伝令が飛んでからわずか十分。

 現在その大艦隊は完全に停止していた。

 布陣は単縦陣という、一直線に並んだ状態である。

 そこから各艦の指揮官に停止の連絡を飛ばし、現在最前列の戦列艦から質問の伝令が返ってきたところであった。

 ちなみにミズミカドの各艦の指揮官は、旗艦から先頭艦へと一年ずつ序列をずらし、擬似的な姉妹として運用していた。

 それは全カリキュラムを六十年と設定している共通の制度を利用した、情報伝達手段であった。

 これにより、単縦陣を敷いている限り、艦隊の速やかな運用を行えるようになっているのである。


「大提督お姉様! いかがいたしますか」


 『ミズミカド』艦長、生徒会執行役員が振り返って一段高い大提督席を仰ぐ。

 そこに座る大提督生徒会長は自らの権威を示す長い扇子を一振りすると、


「艦隊全体としてはその場で待機、足の速い戦列艦を一隻のみ離脱させ、北の様子を探ります」

「恐れながらお姉様、我が艦隊の戦列艦は、皆同じ速度に統一されております」

「……そうでしたね。では、先頭の戦列艦でお願いいたします」

「第二級戦列艦『ハナアラシ』ですね。承知いたしました。伝令! 艦隊はその場で待機、先頭の戦列艦『ハナアラシ』のみ、哨戒のため艦隊を離脱!」

「付け加えて、『ハナアラシ』はあくまで親善航行を行うこと。そうすればアイアンワークスの勢力圏を航行しても、いきなり襲われることはないでしょう」

「承知いたしました、大提督お姉様。伝令、送れ!」

「はい、お姉様! 伝令、送れ!」

『はい、お姉様! 伝令、送れ!』

『はい、お姉様! 伝令、送れ!』

『はい、お姉様! 伝令、送れ!』


 爽やかな海の上を、伝令の魔法がこだまする。


「大提督お姉様、先頭の戦列艦『ハナアラシ』は新入生が主体となっている艦です。彼女らの援護はいかがいたします?」

「本艦に同乗している陰陽科の生徒たちに伝令。最上級生から数名を選抜し、陰陽術で『ハナアラシ』に転移するよう。また、間諜の式神の操作はそのなかで主席の生徒が行うように」

「承知しました。……われら水師科の要請を、飲んでくれるでしょうか」

「それはもちろん。なぜなら——」


 髪を払い、にこやかな笑みを浮かべながら大提督生徒会長は答える。


「陰陽科筆頭、陰陽頭(おんようのかみ)副生徒会長は、私の大切な『妹』ですもの」




□ □ □


 聖域探索学園ハルモニアは、この件に関して会議を開かなかった。

 次回の公演準備に忙しかったらである。


□ □ □


 浄海再来(じょうかいさいらい)学園メメントモリは、この件に関して会議を開かなかった。

 生徒会長、及び副会長の情報網にかかるまえに、何者かが握りつぶしたためであった。


「顧問ですか」

「ああ」

「先生じゃないんですね」

「それだと色々問題あるからな……」


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