第三〇五話:復活! 生徒会管理機構
「こちらが登録用の書類になります……」
そういってユーリエが手渡したものは、古風な羊皮紙の巻物にみえた。
一見すると古風な契約書をそのまま再現させただけのようだが、その芯の部分には、極小の魔力炉が内蔵されていた。
さらには、通信に使うものと思しき構造もみえる。
それ以上は、解析の魔法をかけないと読み取れそうになかった。
まぁ、これから解析をかけるのだが。
「これに名前を書くと、他校と情報が共有されるのだな?」
「はい。そうです。分校名、生徒会長名、あと他の役職でもうひとつ……最低2名の署名が必要になります」
ちょうどぎりぎりの員数だった。
これより一名でも多かったら、少々強引な手段に出ることになっただろう。
「とりあえず、普通に手続きをしてみてくれ」
「わかりました」
ユーリエに専用の筆記具を借りたクリスが、分校の名前と、生徒会長としての署名を行う。
次に、アリスが副生徒会長としての署名を行った。
クリスと違って副生徒会長を指名した際、なにの説明も求めず即時で了承したアリスである。
それだけ俺に対する信頼があるということだが、裏を返せば俺のたくらみがうまくいかなかれば、それは全てアリスに跳ね返ってくるということになる。
故に、これからやることに失敗は許されなかった。
「ユーリエさん、書き終わりました。あ、これからはユーリエ生徒会長と呼んだ方がいいでしょうか?」
「いえ、いままで通りただのユーリエでお願いいたします……。もちろん、クリスさんも」
「わかりました。これからもよろしくお願いします」
恐縮した様子のユーリエに対し、慣れた様子でクリスが答える。
「それで、この巻物をどうするんですか?」
「一度綺麗に巻いたら、中央の芯を押し込んでください」
「わかりました」
クリスがいわれた通りにすると、その巻物がほのかに発光した。
「これで登録完了です。海封図書館学園ダンタリオンの麾下として、マリウス分校は登録されました」
「それはどこで確認する?」
「こちらです」
ユーリエが本棚に収められた大型の事典とほぼ同じ大きさの本を引っ張り出す。
そして最初の方の頁をめくると、そこに白紙のページが一枚追加され、マリウス分校の情報が表示された。
・校名:マリウス分校
・所属する本校:海封図書館学園ダンタリオン
・生徒会長:クリス・クリスタイン(12歳。種族:人間)
・副生徒会長:アリス・ユーグレミア(14歳。種族:人間)
「年齢や、種族名までわかるのか」
「自筆で署名された時に、走査されるのです」
「そういうのは、今度は先にいってください」
少し嫌そうに抗議するクリスであった。
「よし、ではもう一通を貸してくれ」
「構いませんが……一体何をされるのですか?」
「中身を解析する」
「おそらく、解析防止の魔法が仕込んであると思われますが……」
「なので、偽装の方をユーリエ卿に頼みたい」
「偽装……具体的にはなにを?」
「そうだな。私の考えた最高の分校とかそんな感じで頼む」
途端、真顔で考え込み始めるユーリエであった。
どうやら、普段からそういうものを想像してはいたらしい。
「ではいくぞ。アリスとクリスは、念の為離れていてくれ」
ユーリエの言う通り解析防止の魔法であればいいが、対抗として自爆でも仕込んであったら洒落にならない。
俺とユーリエは即座に防護魔法でどうとでもなるが、アリスとクリスのふたりまでは守り切れる自信がない。
「おっと、それならオイラだろ?」
そういってふたりの前に立ったのは、ニーゴだった。
「嬢ちゃんたち、オイラの後ろに隠れてな。いざとなったらオイラ自身が盾になっからよ」
「すまんな」
「いいってことよ。それに嬢ちゃんたち、オイラがいなくても部屋の中に残っていたと思うしな」
そういうニーゴに、あらぬ方向を向くアリスとクリスであった。
いうまでもなく、図星のようだ。
「よし。ではユーリエ卿、始めるぞ」
「では……私から行きます。二秒後にマリウス卿がついてきてください」
「わかった」
先ほどと同じ巻物に、俺が右手を、ユーリエが両手杖をかざす。
巻物の紙面に俺の紫電と、ユーリエの風が走る。
どうやら、ユーリエの得意魔法は風であるらしい。
「ユーリエ卿の魔法の裏に潜り込ませた。そのまま進めてくれ」
「わかりました……やはり、改竄・解析防止目的の魔法があるようです」
「だろうな」
通信機能をもたせてあるということは、逆に任意の情報を書き換えたり、消滅させることができるということだ。
いうまでもないが、今回の目標はそんなことではない。
この仕組みを作った、そしていまはその名前を喪った組織を洗い出すこと。
俺ひとりではそれなりの時間がかかっただろうが、ほぼ同じ力量のユーリエがいるのなら、それなりの速さで解析できるはず——!
巻物が黒煙をあげかけ、それをユーリエが風で吹き消す。
その間に俺は紫電を走らせ、その中身を解析する。
この手のものは、大抵作った時の記録を内包しているものだ。
つまり、徹底的に解析すれば作り手、あるいは作った組織の情報が出てくるはず。
「みえてきたぞ……!」
脳裏に文字が浮き上がってくる。
「生——徒——会——管——理——機——構。生徒会管理機構!」
これか。
これが今の南の海で、学生たちが統治している原因であり根本!
「マリウス卿……! そろそろ限界です」
「よし、解析を止める。今度はユーリエ卿が数秒おいてついてきてくれ」
「わかりました」
ニーゴの背後から固唾を飲んで見守っているアリスとクリスの視線を感じる中、巻物から紫電が退き、ついで渦巻いた風が収束していく。
少々端が焦げてはいたが、巻物自体の機能は壊れていない。
解析の方は、無事完了といっていいだろう。
「ユーリエ卿、生徒会管理機構という名前に聞き覚えは?」
「いいえ、ありません。はじめて耳にしました」
「そうか……なら」
先ほどクリスが使った筆記具を持ち、俺は久しぶりに魔王らしくニヤリと笑った。
「俺の手で、蘇らせてやろう」
生徒会管理機構を復活させて、各学園の上位機関として再設置する。
もちろん、それに従う従わないは各学園の自由だ。
だから——もう一手、細工を仕込む。
これが、うまくいけばいいのだが……。
「主従が逆になってしまいましたが、陛下の名前の学園が誕生するとは! 臣は感激しております!」
「そうか」
「であい、そして結ばれるふたり……!」
「まて」
「からみあい、そしてとけあうふたり……!」
「なぜそうなる!?」
「ところでマリウスさん、生徒会管理機構が上位機関なんですね」
「そのようだな」
「連邦生◯会じゃないんですね」
「連邦は、たいてい魔王と敵対する国体の名前だからな……」
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