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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第一章:蒼い瞳のユーリエ

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第三〇二話:正しい(?)戦列艦の生き残り方

「このように、水師陰陽(すいしおんみょう)学園ミズミカドは、アイアンワークスとは違い巨大な本校と少数の分校——といっても、アイアンワークスと比較してで、私のダンタリオンからいればかなりの数なのですが——からなる学園です。戦列艦……という言葉はご存知でしょうか」

「ええと……?」


 疑問符を浮かべるアリスに対して、俺とクリスは即座に頷く。


「かなり形式の古い軍艦ですね」

「俺が封印される前現役だった艦種だったから、そうだろうな」


 そもそもは、帆船時代から存在する艦種である。

 その船体にひたすら大砲を載せて、敵艦隊に対し横向きで静止し、後方からありったけの砲撃を行うという戦い方をするのだが、前衛の騎兵役を担う小型の快速船がいないと敵のいい的になるという、単独では使いづらい艦種でもある。

 俺が封印される前は蒸気、もしくは魔力機関搭載にいたらなかったが——。


「機関を積み、鈍重ながら自力で好きな方向に動けるので一時期はどこの船団でも運用されていたと聞きます。砲塔という概念が生まれ、戦艦という艦種が生まれてからは急激にその地位を失ってしまいましたが……こちらでは、いまだに現役なのですね」

「いいえ、戦艦ともども旧艦種として扱われています」

戦艦ともども(・・・・・・)!?」


 俺とクリスの声が、期せずして重なった。


「え、ちょっとまってください? 戦艦がもう使われていないんですか?」

「はい。ミズミカドはいまだに戦列艦なので、そういう意味で戦艦を使っている学園はひとつもありません」

「では代わりに何を使っている?」

「空を飛ぶ、飛ばないにかかわらず、航空母艦と呼ばれています。先ほど交戦した空竜プテラノ、水竜プレシオを召喚する箒部隊の発着を容易にした艦で、それ自体は戦わない艦種ですね」

「いってみれば、こちらの機動要塞みたいなものですか」

「そのようだな……」


 どういう形状をしているのか、気になる俺である。空を飛ぶ飛ばないにかかわらずというのも興味深い——空を飛ぶ!?


「ユーリエ卿、空を飛ぶというのは、魔力でか?」

「それもありますが、大半は魔法や魔力機関で熱した空気や、空気より軽い気体を生成させて、それを詰めた気嚢(きのう)と呼ばれる装置で浮かび上がらせるものです」

「魔力を後方に噴射して揚力を得て飛ぶものではないのだな?」

「それは……小型艦で実験しているものがあると聞いたことがありますが、魔力の消費が膨大なのでまだ実用に至っていないと聞いております」


 ……よし! どうやらステラ紅雷号の方が技術力では優っているらしい。

 もっとも、こちらの方が普及しているようなので、優劣は付け難いようではあるが。


「話を戻しましょう。ミズミカドが戦列艦をいまだに使っているということですが、その情報をなにかで閲覧することはできますか?」


 戦艦がすでに使われていないことに多少衝撃を受けた様子であったクリスであったが、それよりもまだ戦列艦が残っている方が気になるらしい。

 俺自身も、多少興味があるのは事実である。


「そうですね……ミズミカドの広報が以前こちらにも配っていた映像があったはず……」


 そういって、ユーリエは一度席を外すと、本棚の脇にある、大きく頑丈そうな箱から水晶玉をひとつもってきた。


「投影します」


 俺が封印される前は水晶玉に直接映像が映し出されたものだが、今はどうやらその水晶玉から映像を壁に投影するらしい。

 たしかにこちらの方が大画面で観ることができるので、重宝しそうである。


「あ、映りましたね」


 アリスが興味津々といった様子で画面を指差した。

 そこには青い海を背景に一隻の戦列艦が悠々と航行している。

 どうやら、その形は俺の知るそれと大きく違いはないらしい。

 乾舷(かんげん)が高いのは砲塔や艦橋に相当するものが存在しないためで、左右に砲廊と呼ばれた艦載砲が直接生えた——ちょっとまて。


「ふむ……おもったより砲の口径が小さいですね。こちらでは速射砲主体なのでしょうか」

「ちがう、ちがうぞクリス。波をよく見ろ。砲が小さいんじゃない」

「……え? あ!」


 艦載砲は、決して小口径が主体なのではない。

 砲廊の階層ごとに口径を変えているらしく、その種類はまちまちであったが、小さいものでも巡洋艦の主砲並み、大きなものでは、こちらの戦艦の主砲を優に上回っている。

 砲身もそれなりに長いので、おそらく撃ち合いになったらその射程距離は互角と見ていいだろう。

 ではなぜ、クリスはそれを小口径砲と見間違えたのか。

 それは戦列艦が、著しく大きいからである。

 並の戦艦どころではない。これはもはや——。


「ちゅ、中枢船並みの大きさを誇る戦列艦!?」

「——中枢船?」


 絶句するクリスに対し、聞き慣れない単語なのだろう、ユーリエが首を傾げる。


「すごく大きいですね、マリウスさん!」

「この大きさの軍艦、羨ましいな……!」


 純粋に感嘆するアリスに対し、技術者的な側面からつい嫉妬の感情を向けてしまう、俺である。


『大事な生徒を守ります。水師陰陽学園ミズミカド』


 宣伝文句なのだろう。

 そんな俺たちをよそに、妙に明るい言上が映像の中を流れていった。

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