表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/370

第三話:雷の従者

巨大な敵に相対する魔王。

すでに、備えはできていた。

『アンタの顔が、どうしたって?』


 変異した機動甲冑(今はそう呼んでおこう)は、そう言った。

 距離はもう、本来の機動甲冑なら近接用に装備させた剣の間合いに入っている。

 いつでも防げるようにはしてあるがその気配がないということは、近接用の攻撃手段が喪われているか、

 あるいはこちらを過小評価しすぎているのか。


「ふざけているのなら、そこまでにしておけ」

『あん? なんだって?』

「もう一度だけ聞いてやる。俺の顔、見忘れたか?」

『見忘れたもなにも、アンタみたいなど派手な()()なんて、はじめて見るな』

「そうか……そうか!」


 ふ。

 ふは。

 ふはは!


「ふははははは! そうかそうか! よりにもよって、この俺が人間に見えるか!」


 思えばアリスとやらも、初めて会ったときなにも怯えた様子はなかった。

 そのことから、気付くべきだったのだ。

 おそらく、今の時代魔族はいないか、いても非常に数が少なくなっている。

 まぁ、それは置いておく。この小島にいるいま、判断すべき材料が少ないからだ。

 それよりも今は、これに対する仕置きだろう。

 少なくとも、俺が封印される前の機動甲冑が自己改修を経たものでないことはわかった。

 俺を人間と見間違えているからだ。

 ならこれは、俺が封印された後自己生産で作られた機動甲冑なのだろう。


「まったく、どうしてくれような!」

『なにをどうするってんだ、まさか人間のアンタが、オイラに勝つつもりかい?』

「どうもこうも、ない。まさにそのとおりだ」


 身体は問題なく動く。魔法の方も、灯りを作ってみた感触では問題は無い。

 封印される前と、俺は変わっていない。いける。


『おもしれぇ。やってみな』


 そう言って、変異した機動甲冑はゆっくりと近付いてきた。おそらく、上陸して踏みつぶすつもりなのだろう。

 ここで両腕の代わりに設えられたと思しき砲塔を使って遠距離射撃でもしていればそこそこ苦労しただろうが、その気配はない。弾が有限なのか、あるいは本当にこちらを舐め腐っているのか。


 ——さて。

 身の丈の十倍を誇る機動甲冑と相対すると仮定した場合、いくら我々魔族でも苦戦は免れない。

 そこで万が一人間に強奪された場合に備えて(後の話だが、あの忌々しい勇者のせいでそれは現実のこととなった)、あえて残しておいた弱点がある。

 人間には魔法が使えないので、彼らに悪用される必要は無い。

 火。火の魔法は駄目だ。火そのものは人間も使うことが出来る。

 水。水の魔法は駄目だ。水は火以上に、人間にとって使いやすい。

 風。風の魔法は駄目だ。人間にとって使いやすいとは言えないが、風そのものはいつだって吹く。

 雷。雷の魔法は最高だ。人間にはいまだ扱えず、そして自然でもそう簡単に発生はしない。

 なにより、精密かつ複雑な機構を搭載した機動甲冑にとって、雷はなにもかもか狂いやすくなる。

 そう。すなわち、機動甲冑は雷に弱い。


「憶えておけ」


 手の中に雷球を作り出して、俺ははっきりと言ってやった。


「上には、上がいるものだ」


 しかもこの俺にですら、だ。



『すいません! 調子こいてました……!』


 二、三発はお見舞いしてやるつもりだった。

 だが、たったの一発で事は足りた。

 たったそれだけで、やつは前のめりに倒れた。

 胸部が異常に前に張り出しているため、今は砂浜に前半分を埋める勢いでつっかえている。


「いうまでもないが、おとなしくしていろ。追って沙汰を下す。それまでに少しでも動いてみろ——」

『うごきません! うごきませんからあのビリビリするのはどうかご勘弁を!』


 今更言うことではないが、自律させるにしてももう少し品を良くすることは出来なかったのだろうか。

 あるいは年を経て、このような造りになったしまったのか。

 いずれにしても——。


「あの……」


 そこで、いままでおれの背中でおとなしくしていたアリスとやらが、おずおずと話しかけてきた。


「灯りのときも思ったんですけど、いま……なにをやったんですか?」

「そうだな——」

 魔法のことをおしえることはやぶさかではない。人間には元々使えないからだ。

 だが、完全に何も知らない状態で魔法のことをどう説明したものか。

「なに、ちょっとした、手品だ」

 とりあえず今は、そういうことにしておこう。


次回はようやくヒロイン回です。(多分)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ