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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十一章:一万年の、夢の終わりに

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第二七一話:とある勇者の死


「まず、海が上がったことについてお話し致しましょう」


 巨大な椅子に座ったまま、巨大な体躯のタリオンは、遠い昔を思い出すように目を細めてそういった。


「おそらく陛下は、この海が一万年間の気候変動によるものとお考えでしょうが――」

「ちがうのか?」

「残念ながら。海が上がりはじめたのは、陛下が封印されて……十年後のことになります」

「――まて」


 それは、早すぎる。


「一体、何が起きた」

「臣の記憶野をご覧になりますか? 少々、衝撃的なものですが」

「かまわん。いかなるものであれ、真実を知らねばならないからな」

「では……」


 俺とタリオンの間に、立体の映像が浮かび上がる。

 どうも、タリオンがみたものを再現しているらしい。

 みているのは、空であろう。

 雲ひとつ無い蒼い空に、白い月が浮かんでいる。

 ――まて。

 その隣にある、同じように白い立方体はなんだ(・・・・・・・)


「タリオン、なんだそれは」

「今説明するよりも、数日後のものをみた方がよろしいでしょう」


 場面が切り替わった。

 今度は夜、視野は同じく空をみている。

 そして先ほどの立方体は――おぞましいことに、尾を引いていた。


『いそげ! なんとしてでもアレ(・・)の落下地点に行かないと全てが手遅れになる!』


 タリオンの視野が正面に戻り、右を向く。

 どうやら、騎馬で急いで移動しているらしい。

 その独特の揺れる視界には、あの忌まわしき勇者とやらが相応に年を経た姿でいた。


「タリオン、なぜ貴様があやつと共にいる」


 俺の裾を持つクリスの手が、びくりと震えた。

 アリスは全く動じていなかったが、どうやら俺は無意識に周囲を威圧してしまったらしい。


「なりゆきというものでございます。略歴を申し上げますと――」


 そこでようやく、俺が封印されてからの、タリオンの足取りが開示された。

 どうやらタリオンは、俺の命令通りに避難民を南半球の南洋諸島へと送り届けたらしい。

 その道中で俺の魔力反応が消失したものの、生命反応が残っていたため、気が気でなかったそうだ。

 それでも南洋諸島に到着して一年間。

 現地の魔族、人間とどうにか親交を結び、居住の基礎を構築したあと、タリオンはその足で魔王城へととって返した。

 例の地中に埋めた宝石を利用した瞬間移動である。

 そこでタリオンは、魔王城最上部の空中庭園にひと際輝く石――封印されている俺――をみて、絶望した。

 しかし自暴自棄にはならず、そのまま俺が仕留め残した――前の陛下を裏切った四カ国のうち、三カ国までは俺が滅ぼした――一カ国の、関係者を暗殺して回ったのである。


「まぁ、そうしたら、例の勇者にみつかりましてな」

「またあやつか」

「またあやつにてございます。臣は全力で戦いましたが――いや、陛下が敵わなかった相手に、勝てる道理がありませんな、ははは」


 そこはもう少し頑張って欲しかったと思いはしたが、俺も負けた身の上なのでとやかく言う権利はない。

 そこで囚われの身になったタリオンであるが、あの忌まわしい勇者とやらは意外にもタリオンを処さなかった。


「どういうことだ?」

「曰く、お互い死にすぎた。これ以上どっちかが減ると、やばい(・・・)のだそうで」

「それが、最初に出てきた立方体のことか」

「左様でございます。臣はあの勇者と共に、大陸に残った魔族の虐殺を止めるべく、西へ東へと奔走いたしました」


 この期に及んで、そんなことをしていたのか……!

 相も変わらずアリスは無表情であったが、クリスは明らかな嫌悪の感情を浮かべていた。


「陛下もそうでしたが、臣もあの勇者とは性格的に相容れぬものでしたが、味方にするとこの上なく頼もしいのは確かでしたな。おかげで虐殺を未然に防ぐのは割と順調でございました」

「だが、全くなくすことはできなかったと」

「その通りでございます。故に臣らが活動をはじめて九年目、陛下が封印されて十年目に、それ(・・)は起きました」


 急遽空に現れた巨大な立方体。

 そしてそれは流星のように地表に落ちてくるという。


「あの勇者曰く、それ(・・)が陸地に直撃すればありとあらゆるものが焼き払われ、海に直撃すればどんな高山よりも高い津波により、この世の構造物全てが押し流されると申しておりました。臣は疑っておりましたが、それ(・・)が近づくにつれて大まかな大きさが計算できるようになりまして」


 そういって、タリオンはひとつの諸元を空中に書き出した。

 俺以外でも読み取れるよう、わざわざ人間の言語での表示である。


「ちゅ、中枢船十六隻分!?」

「左様でございます。クリスタイン様」


 標準的な大きなの中枢船一隻で、大きな街ひとつ分である。

 それが十六隻となると、その質量は計り知れない。

 それよりも問題は、その立方体の速力である。


「タリオン」

「はい、陛下」

「貴様が計測したときに導き出された速力――音速の二十倍とは、確かな数字か?」

「左様でございます。陛下」


 こんなものを、どうやって防げばいいというのか。

 轟炎(ゴゥファイヤー)蒼雷号の荷電粒子砲でもとてもではないが墜とせるものではない。

 せめて静止していればやりようがあったが音速の二十倍では、満足に照準することもかなわないだろう。


「タリオン。これを一体どうやって退けた?」

「勇者です」


 思わず肩の力が抜けた。

 あれ(・・)は、そこまで規格外のものであったか。


「勇者が命を賭して、それ(・・)を軽減させました」


 いのちを、とした?

 あの忌々しい勇者とやらが?


「その時の記憶を、お見せ致しましょう」


 タリオンが映像を表示させる。

 場所はどこかの平原。

 そして正面には、かなり大きくなった、赤熱する立方体。


『どうやら、間に合ったようだな』


 タリオンの横で、あの忌々しい勇者とやらが肩をすくめる。

 十年の年を経たためか、細身であった身体はずいぶんとがっしりしており、顔の傷も少し増えている。

 しかしその柔和ながらも決して己を曲げない目つきと口元は、全く変わらなかった。


『あれは俺がなんとか軽減させる。それでも世界は変わらざるを得ないだろう。だからタリオン、あんたには悪いが、残った人間と魔族を、導いてやってくれ』

『こちらにその義理はありませぬ』

『わかっているさ。魔王を封印した俺に、こんなことを頼める権利はないってな。でも――』


 まるで臣下のものが嘆願するように、あの忌々しい勇者とやらは、膝を折って言葉を続けた。


『俺がアレを止められないだろう。せいぜい軽減させるくらいだ。でもそうすれば、あいつら(・・・・)は、今の文明には高度な対処法があると判断して、それ以上の追撃をしてこない。その間に、あんたは人間と魔族を導いてやってくれ。そうすれば、遠いに日に魔王は帰ってくる。そうすれば――』

『そうすれば?』


 タリオンの相づちに、あの忌々しい勇者とやらはにかっと笑って。


『――そうすれば、後は魔王がなんとかしてくれるだろう。だから、言付けを頼む。人間と魔族、双方に、いつか復活する魔王へと』

『いま申し上げなされ。そうすれば、その記憶を陛下にお見せできる日もくるでしょう』

『お、そうか? それなら――』


 そこであの忌々しい勇者とやらは大きく息を吸うと、


『魔王! あんたの封印は俺もいつ解けるか俺にもわからん! でも、もしあんたが封印からめざめて、そしてそのときもまだ人間と魔族が生き残っていたら――』


 騎士が君主に向かって宣誓するように剣をを抜いて構え、あの忌々しい勇者とやらは言葉を続ける。


『今度こそ、人間と魔族が相争わない世界を作ってくれ。そうすれば、あいつら(・・・・)は絶対手出しをしないからな! それじゃおさらばだ、魔王。向こうで次の()によろしくな! タリオンも、いままでありがとよ。あんまり無理しないような! それじゃ!』


 そう言ってあの忌々しい勇者とやらは剣を構え。

 信じがたいことに、そのまま飛んでいった。

 まるで流星のように飛び出していった勇者はそのまままっすぐ迫り来る立方体へと突撃し――。


 信じがたいことに、四散させたのである。


「とはいえ、立方体はよっつに分かたれただけでございました。とはいえ、それらが少しずつ間を空けて落ちてくることにより、地上の魔族、そして人間どもは、決定的な破滅から、逃れることができたのでございます」

「そして貴様は、魔族と人間を導いてきたというのか……?」


 俺がそういうと、タリオンは目を細め、


「最初の数千年ていどのことでございますよ」


 俺たち魔族でも気が遠くなるような時間を、なんでもないように。

 そう答えたのであった。


■今回のNGシーン

『お、そうか? それなら——じゃあな、アル! クリスによろしくな!』

「だれがアルだ」

「なんでこの人、私の名前を知っていたんですか? ちょっとこわいんですが」

「ただの偶然でございます」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嘘だと言ってよバーニィ! 勇者が気にしているのは、ちょっと前に出てきたソロモンかな 水位が上がったのはそんなに早かったのか…自然現象かと思ってたら
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