第二十五話:お宝発見、そして搬出。
■登場人物紹介
アンドロ・マリウス:勇者に封印されていた魔王。
アリス・ユーグレミア:魔王の秘書官。
二五九六番:元機動甲冑。現海賊船雷光号。
メアリ・トリプソン:快速船の船長。
ドロッセル・バッハウラウブ。メアリの秘書官。
【今日のお題:マリウスについて思うこと】
「自分についてどう思えと」
「わたしにとっては、やっぱり命の恩人ですね!」
『オイラもオイラも!』
「うーん、あたしにとっては良い同盟相手ってところかしら」
「ややうさんくさいが、その知識量は目を見張るものがある。ただ……高笑いがうるさい」
「それね!」
『それな!』
「そ、そんなことないですよ……? 多分……きっと……」
「——なにげない秘書官のひとことが、魔王の心を傷つけた——」
「やはりあったか」
大きさで言えばアリスが身体を丸めれば入るくらいだろうか。
発掘島、遺跡深部。元魔族の前線基地兼、死の罠。
そもそもは開かない扉があり、そこにまだ未発見の発掘品があるのではないかという見立てで遺跡内部に侵入した我々であったが、結果は仕掛けられていた罠を発動させてしまうという予想外の結果を迎えていた。
が、丸々損をしたわけではない。
その罠は、扉を開けた侵入者を自動で動く機動甲冑が攻撃するという単純なもの——正式な手段で開ければ発動しないなどの安全策を取って欲しかったが、もしかするとそういう余裕すらなかったのかもしれない——であったが、それをするためには膨大な魔力が必要だった。
故に、機動甲冑が収められていた最深部に大型の魔力貯蔵装置があると踏んでいたのだが……案の定、みつけられたというわけだ。
「これは?」
ドロッセルが興味深げに訊く。
「わかりやすくいうと、消耗した発掘品を再生できる装置だな」
「なんと……ちなみに回復量は?」
「先ほどのでかいのが三日三晩動き回れるくらいだ」
「なんと」
その重要性に気づいたのだろう。絶句するドロッセルだった。
ざっと見た感じでは半分ほど減っているが、充填用の装置は生きている。故に俺の魔力で充填すれば、もとどおりの性能を発揮するだろう。
「でもどうやって使うのよ」
メアリがそう訊いてきた。
「そうだな……確かに今のままでは少し使いづらいか。そこは、俺がなんとかしよう」
箱には引きちぎられた結線の跡がある。おそらく、機動甲冑が動き出すまでは物理的に繋がっていたのだろう。その部分を修復し、どんな発掘品——当時は魔法具と呼ばれていたもの——でも充填出来るようにする必要があるだろう。
「でも、これ本当にもらっていいの?」
「ああ、構わない」
「正直に言うわ。暁の淑女号と同じ大きさの船を買っても、まだおつりが来るくらいのお宝よ、これ」
「それほどの価値があるのか」
「ええ。もちろん。だから——」
「いや、やはりそちらで持っていってくれ」
雷光号に接続すれば、俺がいなくともかなり長い動けるようになるだろうが、現状そこまで船を離れるつもりはない。
「……わかったわ。ありがとう、マリウス」
「なに、この遺跡を案内してくれた礼だ」
実際、この発掘島に来て、色々わかったことがある。
それだけでも、十分な報酬だった。
それに——。
「それに、この残骸が手に入ったのは大きい」
「まさか、あのでっかいの修理できるの?」
「それこそまさかだ」
さすがにそれはかなりの時間をおかないと出来ないし、そもそも完全に直す場合、かなりの資材が必要になるだろう。
また、自動で動く機構については俺が封印されたあとに実用化したものなので、未知数だ。下手に修理して再び動きだされてはたまらない。
これの解析もまた、かなりの時間を要するだろう。
「さて、どうやって運ぶべきか……」
「昇降機から綱を付けてひっぱっていくというのはどうでしょうか」
アリスの提案に、俺は頷いて答える。
「悪くはないな。通路を進行するときに注意が必要だが」
とはいえ一本道だからそれでやってみるかと決めかけた時——。
「それなら任せて欲しい」
ドロッセルも、そう提案してきた。
「どうするんだ?」
「単純明快、人海戦術。うちの船員を全員連れてくる」
「いいのか」
「構わない。この再生機も運び出さないといけないし」
「わかった。では、お願いしたい」
「心得た」
「よーし、それなら派手にやるわよ!」
メアリが腕まくりをする。
「見せてあげるわ。あたしたちの全力!」
■ ■ ■
「そーれ! そーれ!」
「その勢いよ!」
「そーれ! そーれ!」
「少し右にずれたわ。左側に微調整!」
「そーれ! そーれ!」
「今度は左に寄ってる。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ右に!」
「そーれ! そーれ!」
「よーしいいわ! そのまま真っ直ぐ!」
聞いてはいたが、暁の淑女号の乗組員は全員が女性だった。
年はまだあどけないといっていいくらい若い者から、メアリやドロッセルと同じくらいの者まで多種多様で、それでいながらも完全に息を合わせて件の魔力貯蔵庫を引っ張っている。
ちなみに最初は綱をつけて直接引きずっていくといっていたので、即席の台車を作って提供している。それにより、随分と運搬は楽になったようだ。
それにしても——。
「こんなにいたのだな」
「まぁね」
指揮をドロッセルに引き継いだメアリが腰に両手を当ててそう答える。
「あの、わたしも手伝って——」
「いいのいいの。アリスはマリウスのそばにいなさい」
「で、でも……」
「——あのね、アリス。マリウス、あのでかいのを倒してから、なんか元気ないでしょ。だからそばにいてあげなさいって」
「……わかりました。ありがとうございますっ」
そういうのは、当人のいないところでやってほしい。
その気遣いは、ありがたかったが……。
「マリウス、再生機の運搬を完了した。これより残骸の搬出に入る。何か注意点は?」
「特にはない。あえていうなら、尖っている部分が多いから、刺さらないように注意してくれ」
「了解した」
「聞いたわね! いっくわよー!」
「おー!!」
メアリの号令により、機動甲冑の残骸が運び出されていく。
「わたしたちも、行きましょうか」
「ああ……そうだな」
先に進むメアリたちを、そして運び出される機動甲冑の残骸をみつめながら、俺はそう答えた。
ふと、うしろを振り返る。
無人の通路、強引に開け放たれた巨大な扉。
そして、からとなった格納庫。
「長い間、大儀であった」
自然と手を胸に当て、俺は一礼していた。
「マリウスさん……」
アリスも、一緒になって礼を捧げる。
「なにも一緒にやることはないだろう」
「いいえ。いまのわたしは、マリウスさんの秘書官ですから」
「そうか……そうだったな」
「それに、ひとりでやるよりも、ふたりでやった方が気持ちが楽になると思うんです。ひとりきりでなにかをやるのって、結構辛いですから」
「——確かにな。その通りだ」
人間を滅ぼそうと兵を挙げた時、俺の周りには沢山の仲間がいた。
あの頃の方が今よりずっと困難であったのに、不思議となんでもできる気がしていたのを覚えている。
そして今も、アリスの言う通り、不思議と気持ちが軽くなっていた。
俺は再び、前を向いて歩く。もう、振り返ることはない。
傍をアリスが歩く。その歩みも、迷いのないものだった。
■今日のNGシーン
「これは?」
ドロッセルが興味深げに訊く。
「わかりやすくいうと、消耗した発掘品を再生できる装置だな」
「なんと……ちなみに回復量は?」
「先ほどのでかいのが三日三晩動き回れるくらいだ」
「なんという絶倫」
「女の子が絶倫とか言うなっ!」




