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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二一二話:今ここに、新たなる主を定める!

エミル「(船団と船団を)抱かせろ」

ミュウ「っ……!! 男の人って、いつもそうですね! 私達事務方をなんだとおもっているんですか!」

エミル「いやオレ女だし」

「ほ、本当に来ましたね……」


 双眼鏡を覗いていたクリスが、驚き半分、呆れ半分といった様子でそう呟いた。

 俺の目には既に、船団フラットの中枢船がその巨大な舳先をこちらに向けているのがよくみえていた。

 まもなく、双眼鏡を使わなくともその船容が船団シトラスのどこにいてもわかるようになるだろう。


「それにしても――なんなんだろうな。あれは……」


 眉間にしわを寄せて、俺はそう呟いた。

 中枢船を船団フラットの艦隊が護送するのはいい。

 問題はそれが戦艦や巡洋艦ではなく、大量の、本当に大量の水雷艇にさせているのは、なにか意味があるのだろうか。

 しかも、全員が全員、黒い身体にぴったりとした革鎧を着用して、同じく黒い色眼鏡をかけている。

 護送水雷艇軍団――艦隊というより、軍団といった方が雰囲気的に近い――の先頭には、エミルの駆逐艦『轟炎再来ゴゥファイヤー・アゲイン』ではなく、その操縦装置にして脱出装置でもある水雷艇『核炎(コアファイヤー)』が疾走している。

 その先頭のエミルのみ、いつもの赤いツナギのような革鎧を着用していた。

 ただし、黒い色眼鏡はちゃんと装着している。

 それはまさに、文字通りの紅一点であった。


「なにかの文化的儀式みたいですよ」


 依然双眼鏡をのぞき込んだままのクリスが、そう答えた。

 つまり、エミルはその儀式とやらのために、わざわざ一度船団フラットに戻ったというわけだ。


「儀式――儀式か」


 俺は眉間のしわをますます深くする。

 これから、俺達はあの船団を御さなくてはならないからだ。

 そこで、エミルがふと顔を上げた。

 そして色眼鏡を額に押し上げ、正面を――つまりこちらを――見据え、にやりと笑う。


「――みえるのか?」


 目がいいのは知っていたが、よもやこれほどとは……。


「あれは多分、勘ですよ。そろそろ私達がみている頃合いだと踏んで、わざとああしているんです」

「それでもたいしたものだがな……」


 相当の洞察力と演技力、そして胆力がなければできないだろう。


「さて、そろそろ肉眼でもみえてきましたね。こちらも下に降りて、艦隊の準備をしましょうか」

「ああ、そうだな」


 史上初の、船団統合。

 その初手で、つまづくわけにはいかなかった。




■ ■ ■




「元帥のままか……てっきり大将か中将に降格されると思ったんだがなぁ」


 俺から手渡された辞令を手の中でもてあそびながら、エミルはそんなことをいう。


「当面の間、エミルさんには元フラット艦隊を指揮してもらわないといけませんから。さすがに、総代大佐という独自の階級は改めさせてもらいますけど」


 大事な書類なんですから、雑に扱わないでくださいね。そう注意しながら、クリスが答える。

 船団フラットの階級は大佐のあとは~~大佐という形で(おそるべきことに)元帥まで建て増しされていたのだが、さすがにその風習を船団シトラスに持ち込む訳には行かなかった。

 てっきり、その通知に対して一悶着起きるのではないかと心配していたのだが、意外なことにエミルをはじめ、フラットの方から反対意見はひとつもでなかった。

 どうも、従属する形で統合刷ると決めた以上、その手のことは覚悟していたことであったらしい。

 それにしても、降格まで覚悟しているとは少々意外であった。


「いいのか? 元帥ってのは、ほいほいいるもんじゃないだろ、指揮系統に悪影響のおそれがあるぞ?」

「年齢はともかく、元帥になったのは私の方が先――つまり、先任ですから」

「なるほどな」


 軍隊内で同じ階級同士であった場合、クリスのいうとおり先にその階級になった者の方が、序列は上になる。

 こうしないと、下の階級で混乱する場合があるからだ。

 ちなみに俺が封印される前の魔王軍も、同じ仕組みを採用していた。

 なので魔王軍内に元帥は複数人いたのだが、魔王は別格ということでさらにひとつ上の階級『大魔元帥(たいまげんすい)』というものが設けられ、そこに収まった憶えがある。

 今回の船団統合でも、そういったものを復活させる必要があるかもしれなかった。


「私としては、エミルさんにすべてをお任せして退役もありだとは思うんですが」

「冗談いうな。まだまだ若いじゃねぇか、お前」


 俺の感覚からすれば、ふたりとも十分に若かった。


「ともかく、当面はふたつの艦隊をどう統合するかですね。軍制を一から見直さないといけませんから、しばらく私を含めて幹部は全力稼働してもらわないといけませんね……」

「あとみっつぶん加わる可能性もあるからな」


 それを仕向けた側のエミルがいうのだから、たちが悪い。


「……そんな簡単に、ことが運ぶでしょうか」


 クリスは比較的、懐疑的であるらしい。


「いけるだろ。でないと詰むところまでは、どこの船団も結論づけているはずだ。そこでオレ達がこうやってひとつになった。そうしたら、あとは動き出したでかい船と一緒だ。そう簡単には止まらねぇ」

「そうであればいいんですが」


 クリスのいいたいこともわかる。

 残りみっつの船団、ルーツ、ジェネロウス、そしてウィステリアは、そう簡単に従属出来るとは思えない。

 ルーツはまだリョウコの足固めが完了しているようにみえないし、ジェネロウスにはそもそも聖女信仰がある。

 そしてウィステリアに到っては、がちがちの貴族主義だ。

 彼らがそれを押して、従属するかたちで統合するか――正直、俺でも微妙であった。


「そういや、先に送った文官はどうだ? そっちのトライハル少佐とうまくいっているか?」

「俺達以上に、機関の歯車のように高速回転していたな。あとで様子をみてみよう」


 クリスに代わって、俺がそう答える。

 夕食後の休憩あたりなら、多少は落ち着いているだろう。




■ ■ ■




 結論からいうと、おちついていなかった。

 内政部門の事務室は今回の事態を踏まえ、部屋の広さを二回りほど大きくしたのだが、それでも筆頭のミュウ・トライハル少佐は火の車のように――このたとえ、俺が封印から解けたいまの時代では通じない。代わりにさきほど言ったように機関の歯車のようにという表現の方が伝わっている――働いていた。


「トライハル少佐。その……フラットの文官は、だめだった――のか?」


 おそるおそるそう訊いてみる。

 するとトライハル少佐は依然猛烈な速度で書類を処理しながら、


「いいえ。だめではありません。計算は速いですし、こちらが一を教えている間に、二から三まで進んでしまうくらい、優秀です」

「それはよかった」

「ですが、勘に頼りすぎです!」


 机を叩いたりした訳ではなかったが、そのトライハル少佐の言葉に衝撃を感じる俺であった。


「全体に感覚的すぎて、こちらと帆を合わせる(魔王註:歩を合わせるではない。帆を合わせる、だ)のに時間がかかります。なのでいまは単純な書類処理の注力してもらっています。なんですか、『初めはガンとあたって、あとは流れで――』って! 思わずめまいを起こしてしまいましたよ私――!」

「そ、そうか……」


 応援には不定期だが、アリスも参加している。

 それでもふたつの船団の内政をひとつにするのは、相当骨が折れそうだった。


「それに、そのうちのこりのみっつもこちらに来るでしょうから、いまのうちにそれに対応した仕組みを作らなくては――!」

「トライハル少佐は、その可能性が高いと思うのか?」


 同じ船団のクリスではなく、エミルと同じ楽観派だとは思わなかったので、そう訊いてみる。

 すると、トライハル少佐ははじめてこちらの方に視線を向け、


「単純な話です。まずルーツはリョウコさんをはじめてお歴々がマリウス管理官に並みならぬ恩を感じています。いくら足下が固まっていなくても、固めながら動く可能性は非常に高いです」

「なるほどな」

「そしてジェネロウスです。こちらは彼らの信仰を認めれば、あっさりとこちらと帆を合わせるでしょう。そもそも政教を分離させたがっていたジェネロウスです、この機会とばかりに政治、軍事、そして宗教をすみわけるように進めるでしょう」

「だが、ウィステリアは? 彼らが貴族の特権をそうそう手放すとは思えないのだが」


 貴族階級というものは、俺が封印される前からついて回った問題だ。

 こればかりは、いまも難しい問題として扱われるだろう。


「仰るとおりです」


 と、トライハル少佐は肯定した。


「ですが、一対四になってしまったら、もうどうにもなりません。こちらと統合するか、独立を保って各個撃破されるかのどちらかです」

「たしかに、そうだが……」

「その結論がでていれば、あとはいかに特権階級を維持するかです。おそらく、今頃あちらの船団長――ミニス王と共に、協議を繰り返しているのでしょう」


 懐かしい名前を聞いた。

 お飾りであると自他共に認めながら、それでいて聡明で鋭い、ミニス王。

 かの王であれば、たしかにこの状況をよしとはしないだろう。

 あとは、実務を握るアステル・パームとその一族がどうするのか、それが問題だった。


「なので、私はのこりみっつの船団が統合に動くのも、それほど遅くはないと思います。特にルーツあたりは――」

「マリウスさんっ!」


 そこで、アリスが駆け込んできた。


「どうした、アリス」

「ええと、船団ルーツから緊急通信です」


 アリスは気を利かせて、俺専用の通信装置を手にしていた。

 これは単体ではなんの役にも立たないが、魔力の源である俺がもつと、そのまま通信が行えるという便利なものである。

 こんなこともあろうかと、政務の合間に作っておいたのだ。


「こちら、マリウス。リョウコか?」

『はい! こちらは船団ルーツ護衛艦隊司令官、リョウコ・ルーツです!』


 通信機越しに、リョウコの凜とした声が響く。


『もともと我らは、主を求めて他の船団と袂を分かった者が集まり、生まれたものでした。ですが、我らは今ここに、新たな主を定めようと思います!』

「……その主とは?」


 想像はできていたが、念のため確認する。


『それはもちろん、貴方ですよ。マリウス殿』


 あっさりと、リョウコはそう切り出した。


『しかもすでにフラットが動いてしまっています。これ以上遅れをとるわけには、いきませんから』

「そうか……」


 エミルの時と同様、通信機が使えるということは、だいぶ近くに近づいてきているのだろう。

 その証拠に、遠くから、


「マリウスかんりかーん!」


 クリスの声が響いてくる。


「行ってください。マリウス管理官」


 再び書類の束と格闘をはじめながら、トライハル少佐が声だけをかけてくる。


「そして船団ルーツの文官を、ありったけこちらに! 今度はみっつの船団をひとつにするんですから、本当にありったけをお願いします!」


 それは確かに、間違いない。

 俺はまずクリスと合流すべく、アリスと共に身を翻した。



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