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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二章:旅の仲間

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第二十話:ソラからこぼれたカバーストーリー

■登場人物紹介【今日のお題】


アンドロ・マリウス:魔王。【好きな色:「黒だな」】

アリス・ユーグレミア:魔王の秘書官。【好きな色:「水色ですね。良く晴れた空の色とか好きです」】

二五九六番:元機動甲冑。現戦闘艦雷光号。【好きな色:「鋼色だな。硬くて強そうじゃん?」】


メアリ・トリプソン:快速船の船長。【好きな色:「赤よ! なんとなくかっこいいでしょ!」】

ドロッセル・バッハウラウブ。メアリの秘書官。【好きな色:「白。理由は特にない」】


「疑問があるわ」


 発掘島(はっくつじま)への航海中、ドロッセルがそう言った。

 既に船団を発って数日が過ぎている。

 航海中特に問題は発生せず、時折お互いの船を横付けして船長と秘書官がどちらかの船に集まるということをしている。

 もっとも、雷光号の方が甲板が広いので、最近はもっぱらこちらを使用する機会が多かったが。


「マリウス船長、貴方はいったい何者なの」


 その席上で、ドロッセルは先ほどの疑問を口にしたのだった。


「ドロレス、毎度言っているけれどそう相手を疑うのは良くないわよ」

「だからその呼び方はやめてほしい。それと、疑うのが秘書官たる私の仕事。こうやって表に出てきているのも、そう」

「それならまぁいいけど」


 どうも、前に最速の座を巡って競争したときはずっと船内に籠もって船員の指揮を行っていたらしい。

 ちなみにメアリがその競争をすると決めたとき、最後まで反対していたのもドロッセルだったそうだ。


「でも、これだけ美味しいご飯を作れるのに、疑うのもどうかとあたしは思うわ!」

「それはアリスさんの腕。マリウス船長ではない」

「あ、ありがとうございます……?」


 アリスが困惑している。

 おそらく俺が疑われているのに自分が褒められて、複雑なのだろう。

 ちなみに今回の昼食は弱火で炙った腸詰と発酵させたキャベツの千切り、根菜のスープ、そしてオムレツとパンだった。

 報酬が入ったおかげで食材を大幅に仕入れることができ、その分料理の種類が増えたのだ。


「いや、称賛は素直に受け取っておけ、アリス」

「は、はい……」

「皆もそう思うだろう?」

「たしかに、この卵の半熟具合は素晴らしい」

「スープもすごいわよ! 塩と野菜以外の味もちゃんとする!」

「だな。その上で、俺は腸詰を推したい。炙り加減が絶妙だからな」


 表面を火によって焼き固めた結果、ぱりっとした食感を得られているのだが、そうしながらも肉汁が逃げ出さず、さらには中心部分にまで火が通っているのに全体が硬くない。

 前に魚を焼いてもらった時もそう思ったが、アリスは火の扱いが抜群に上手いようだ。


「なにかコツでもあるのか?」

「ええと、特にないですけど……あえていうなら、焼いている途中で音や色が変わった瞬間に引き上げると、いい具合に焼けていることが多いですね」

「なるほどな。ほかに気にしていることは——」

「待って欲しいマリウス船長。アリスさんの秘訣はたしかに興味深いが、話題を逸らさないで欲しい」


 ……見抜かれていたか。

 さすがは秘書官、こういったやり取りには抜け目がない。


「船に乗るもの素性は、あまり詮索しないのが、決まりではなかったか?」

「それにしたって限度がある」

「というと?」


 演技ではなく、素で質問をする俺。

 どこが怪しまれる境界線になるのか、しっかりと見極める必要があるからだ。


「まずはこの船。明らかに発掘されたものを機関に使っている」

「えっ、蒸気機関じゃなかったの!?」


 メアリが素っ頓狂な声をあげた。

 どうも、いままで蒸気で動いていると思っていたらしい。


「煙突がない。黒煙も水蒸気もあげない。そんな蒸気船は存在しない」

「そういえば、そうね……」

「そもそも船を識別する上で、常識」

「うっ」


 目に見えて落ち込んでいる。

 見ていて面白い主従だった。


「しかし、発掘機関を使っているのはそちらも一緒だろう」

「私達のは、ただ利用しているだけよ。普通の船に組み込んで利用しているだけ。でもそちらの場合は、かなり深い部分で利用している。それこそ設計から行っているかのように。まるで——」

「まるで?」

「——海賊のよう」


 しばしの間、沈黙が支配した。


()()()()()


 メアリが、ドロレスではなく、ドロッセルと呼んだ。


「——申し訳ない。少し言い過ぎた」

「いや、かまわない。ただ、この船があのおぞましい連中と一緒にされるのは、やや心外だな」

「そのことについては重ねてお詫びする。だが、私が言いたいのはそちらではない」

「というと?」

「海賊にも二種類いる。すなわち、我々がよく遭遇する知性がほとんどなく、ただひたすら破壊衝動のみで行動するものと、滅多に遭遇しないが、高い知性を持ち、高度な戦術を行使してくるもの。どちらも危険だが、後者の方がはるかに危険——」

『……』


 一瞬だけ、二五九六番がドロッセルを見た。

 メアリも、そしてドロッセルですら、潜望鏡と測距儀を組み合わせた複合装置と思っているが、実際は二五九六番の頭部になる。もっとも、俺が最初に施した改装によって、だいぶ偽装されてはいるが……。

 それがわずかな時間、わずかな稼働量とはいえ勝手に動いたのだ。もう少し注意深かったら気付かれていただろう。

 もっとも、二五九六番の気持ちもわかる。

 外側から見ただけで雷光号の素性をほぼ言い当てられるとは、俺も思わなかった。

 このようなことは、封印される前でも起こらなかったことだ。

 なにせ、あの忌々しい勇者はほぼ脊髄反射で行動していたので。


「なるほど、言いたいことはだいたいわかった」


 椅子の背もたれに体重を預けて、俺はそう答えた。


「結論から言おう。たしかにこの船は発掘機関で動いている」

「やはり——」


 正確には俺の魔力と直結ている機関と併用しているが、ややこしくなるので省略する。


「もっというと、この船そのものが発掘されたものだ。大分手を加えたがな」

「それは……想像できなかった」


 ドロッセルが絶句した。メアリはとっくの昔に絶句している。

 その場で表情を変えていないのは、これから仕掛ける俺と——そのための筋書きを書いたアリスだけだった。


「次にドロッセルは訊くのだろう? ならばその船をどこで手に入れたと」


 小さく頭を縦に振って、ドロッセルが肯定する。

 つまりは、俺達の筋書きに食いついてきた。


「答えよう。この船は先祖代々から伝わる船だ。いままでもう少し大型の船に、商船として偽装されていてな」

「それって、普通の船として運用していたって事?」


 メアリがそんな質問をする。


「その通りだ。元々発掘された品々を蒐集、あるいは管理していた家系らしい」

「らしい、とは?」


 ドロッセルが鋭く質問を飛ばす。だが、それは織り込み済みだ。


「俺が物心つくかつかないかというときに、海賊に襲われてな。それも、さきほどドロッセルが言った頭のいい方だ。いかに発掘されたものに詳しくとも、徒党を組んで一斉に襲いかかってくる海賊には、手も足も出なかった……」


 あとは長くなるので、簡単にかいつまんで説明する。

 幼い俺(と言う設定)は、両親により船の最も安全な場所(と言う設定)の、後に雷光号となる中枢部分(と言う設定)に匿われた。

 そして元となる船(と言う設定)が致命的な損壊を受けた途端、脱出機構として(と言う設定)の雷光号が起動。幼い俺のみが脱出を果たした(と言う設定)。

 その後、雷光号にしまわれていた両親が遺した生き残るための手記(と言う設定)に従い、俺は雷光号の中に積まれた大量の発掘品を元に技師として己の技術を磨きながらも潜伏(という設定)。成人後、両親の遺志を継いで改装した雷光号で広い海に乗り出したところ(と言う設定)——同じような境遇でなにもない島に取り残されたアリスと出会い、こうして行動を共にしている。


 それを、俺はできるだけ感情を押し殺し(たふりをし)て、淡々と語ったのであった。


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!

 ハハハハハ! ハーッハッハッハァ!


 背中がかゆい!

 それを我慢して、よくもここまで話せたと思う。


「先ほどの、雷光号を海賊船に例えた発言を、全力で撤回する。重ね重ね、申し訳ないことをした」


 ドロッセルが席を立ち、頭を下げた。


「いや、いい。もう過ぎたことだからな」


 そして現実では起きていないことだ。


「アリス……貴方も苦労していたのね……!」


 メアリに至っては、涙声になっていた。


「いえ、いちから身を興したマリウスさんほどではないですよ」


 まず間違いなくこの中で一番苦労しているはずのアリスは、あっさりとそう答える。


「ともかくこれで謎が解けた。雷光号の改装がたった三日で済んだのも納得がいく」

「普通はどれくらいかかるものなんだ?」

「一ヶ月。長ければ半年は」

「(アリス?)」

「(あっています)」


 目配せと簡単な符丁でやりとりをする。普段のメアリ、特にドロッセルなら気付きそうなものだが、その様子はない。


「ともあれ、今後とも我々はあなたたちに協力したい」

「当然よ! さすがに帆はあげるわけにはいかないけど!」

「……その好意に、心から感謝する」


 感動を押し殺すように努力して、俺はそう答えた。

 本当に、背中がかゆくてしかたがない。



 ■ ■ ■


 メアリとドロッセルが自分の船の帰ったあと——


『ぶわはははははははは! だははははははは!』


 先ほどから、二五九六番は笑いっぱなしだった。


『大将、あんた腹芸本当に上手いんだな!』

「やめてくれ……」


 罪悪感はない。

 これからずっと行動を共にするのならともかく、そうでないのなら俺の本当の素性を明かすのは得策ではない。

 それはわかっている。わかってはいるが……。

 ひたすら、むずがゆかった。


「お疲れ様でした、マリウスさん。うまくいきましたね」


 温かい飲み物を出してくれたアリスが、そうねぎらってくれる。


「いや、真にねぎらうべきはアリスだろうよ。よくここまでの脚本を立ち上げたものだ」


 しかも、俺が雷光号の改装を行っているのをみながら、だ。

 俺が封印される前であったら、内政官としてかなり上まで昇ったと思う。


「ありがとうございます、マリウスさん。でもやっぱり、頑張ったのはマリウスさんだと思いますよ」


 決して謙遜ではない口調で、アリスはそう答える。


「それにこれから、自分の素性をお話しするときに、一字一句間違えないように話さないといけないのは、マリウスさんなんですから」


 ——そうか。

 そういえば、そうだった。


「がんばってくださいね、マリウスさん!」

「あ、ああ……」


 自信が無いとは言わない。

 これでも魔王だ。それくらいの腹芸は文字通り腹に収めなければならぬ。

 だが……しばらくは、背中のかゆみと戦う日々が続きそうだった。

■今日のNGシーン


「なにかコツでもあるのか?」

「ええと、特にないですけど……あえていうなら、焼いている途中で音や色が変わった瞬間に引き上げると、いい具合に焼けていることが多いですね」

「なるほど」

「うまくいくと『上手に焼けました〜!』って鳴りますからすぐにわかりますよ」

「『上手に焼けました〜!』……?」

「はい! 『上手に焼けました〜!』です!」

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