第二話:たったひとつの、冴えたやり方
自分の居る島を調べ、次いでアリスにどうしてここに居るのかを尋ねる魔王。
アリスの返答から得られた聞き慣れた単語と、かけ離れた実態。
そして目の前に立ちふさがったのは——。
明け方になって、今居る場所を歩き回ってみた。
大きさは縦四十歩、横三十歩ほど。
全体がガラス質の砂で覆われている。
標高は無きに等しいが、中央部分が少し盛り上がっており、そこにだけ壁の跡と思しき煉瓦が露出していた。
アリスとやらが言っていた『綺麗な石』は、どうもここで砂に半分ほど埋もれていたらしい。
その本人はというと、島の端に座って海をみていた。気候が変わって暖かくなったとはいえ、夜に身体を冷やすのはよくないため、羽織っていたマントを渡してある。体格差があるためか、彼女はマントを羽織らず、毛布のようにくるまっていた。
「お帰りなさい。なにかありました?」
「——いや。なにもなかった」
「ですよね。だからわたし、ここに置き去りにされたわけですし」
「経緯を聞かせてくれ。今後の参考にしたい」
「どうしてそうなったかってことですね。ええと……わたしが乗っていた船にとっては運が良かったんですけど、他の船に襲われたんです。それで積み荷や乗っていた人は奴隷として運び込まれたんですけど、どうしても乗せきれなくなっちゃって。最初は小さい子供が選ばれたんですけど、そういうわけにもいかないので、わたしが」
なるほど。つまりアリスとやらは自らが犠牲となって置き去りにされたらしい。
そしてその船を襲ってきた他の船というのは、つまり——。
「——つまり、海賊か」
海賊は、封印される前にも頭を悩ませる存在だった。海上の補給船をどこからともなく襲いかかっては、奪ったり沈めたりする厄介きわまりない人間ども。そのために護衛として軍の精鋭を配置し、さらには貴重な機動甲冑まで用意したものだが、そういうときに限ってあの忌々しい勇者が出張ってきて、さらなる損害を招いたものだった。
「海賊じゃ、ないですよ?」
しかしアリスとやらは、そういった。
「海賊だったら、今頃わたしも生きていないです。船も積み荷も乗っている人も、みんな食べられちゃってます」
「たべ、る……?」
「まぁどっちにしても、このままこの島で干からびちゃうか——みつかって餌食になるかですから、変わりませんけどね」
「まて、それはどういう——」
「ほら、きた」
海から、なにかが姿を現した。
「あれが、海賊です」
淡々とした口調で、アリスとやらが言う。
だが、その反応は機動甲冑だ。アレを作ったのは俺自身だ。間違うはずがない。だが……だが——。
「なんだ、あれは……」
島へと徐々に近づいてくる機動甲冑はその名にふさわしい甲冑の姿をしていなかった。胸部装甲が著しく前に張り出し、腕に相当するものがなく、代わりに砲塔と思しきものが付いている。
後部に設けたはずの武装を格納する背嚢部分は胸部と同じく大きく後ろに膨らんでおり、何が乗っているのかよくわからなかった。今は海面の下で見えないが、おそらく胴体から脚部についても大きく異なっているのだろう。
なにより、ひとまわり大きくなっている。かつて俺は機動甲冑を俺達魔族の背丈約十倍の高さで設計したものだが、あの規模では十五倍、下手すると二十倍に達しているだろう。
かつて。
画期的な機動甲冑の改良案を持ち込んだ配下の者がいた。
装着者を必要とせず自律稼働し、自らの判断で強化、さらには複製を行う実に壮大な計画であり、実現すればあの忌々しい勇者をも抑制することもできただろう。
だが、それを達成するために、技術的困難がいくつかあった。それ故やむを得ず俺は堅実な既存の強化のみに取りかかるように指示を出していたのだ。
開発陣は俺が封印された最終決戦前に、逃がしていた。もしかしたら、彼らの努力が実を結んだのかもしれない。
さしあたっての問題は、魔族の長である俺はともかく、どこからどうみても人間であるアリスとやらが見逃されることはないということだ。
「下がっていろ」
「でも……」
「いいから下がっていろ」
アリスとやらが、俺の後ろに隠れる。
同時に、機動甲冑の動きが止まった。封印されてからどれだけ時が経ったのかはわからないが、俺が魔族であることはわかって——。
『お、人間がふたりもいる。あんま食いたくないけど、なんもないよりましじゃん?』
——ほう。
「貴様、この俺のみならず、魔族の顔を見忘れたな?」
どうやら、やるべきことはひとつだけのようだ。
Q.魔王はいまの機動甲冑をみてなんで驚いたのか?
A.初代ガン◯ムを運用していたのに、目の前にSガ◯ダムディープストライカーが出てきたため。
次回はバトルです。