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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第一九七話:魔王ですが、答えられないものには答えられません。

 雷光号の量産型である紅雷号――スカーレットたち四姉妹の一般教育にミュウ・トライハル少佐(教官に着任に付き、昇進)が抜擢され、一週間が過ぎた。

 ニーゴ、およびマリスのときは奔放――良くいえば自由、悪くいえば命令無視――だった四姉妹であったが、トライハル少佐の授業ではかなりおとなしくなっている印象を受ける。

 なので、その評判を訊いてみたところ――。


「すごいのよ、ミュウ先生って!」


 すこぶる、良かった。

 それにしても、スカーレットが身を乗り出さんばかりに力説するほどとは、少し意外である。


「具体的には、どうすごい?」

「いろんなことを知っているし、なによりそれがなんでそうなのかって、ちゃんと教えてくれるの!」

「ほう、たとえば?」

「たとえば、いつつの船団で好まれている食べ物と、その理由などでしょうか」


 スカーレットの代わりに、サファイアがそう答える。


「なるほど、それはためになるな」


 相手の好みを知るというのは、外交の基本である。

 そこまでトライハル少佐が意識していたかはわからないが、どうも内政だけでなく外交の才能も高いようであった。


「あとは、各護衛艦隊の階級の違いですな。特に船団フラットのそれは独特すぎますので、気になっていたのでありますが、その理由を子細に教えていただき感激致しました!」


 と、スピネルも目を輝かせ報告してくれる。

 話し方は血気盛んにみえるがその表情は常に相手を観察している気配のある彼女にしては、珍しいことであった。


「どこかの船団長が、五船団を統一してくだされば、楽なんでありますが……?」

「いまのところ、そういう予定はない」


 念のため、スピネルに釘を刺しておく。

 たしかにそうすればいつか来るであろうタリオンとの決戦時、執れる手段は多くなる。

 だがしかし、それは同時に管理するものもおおくなるというわけで――準備やらなにやらを考えると、とても間に合いそうになかった。


「あとは、各船団で好まれる文化だね。どこに配属されるのかわからない以上、すべての船団の文化を知ることはとても有益なことだよ。それに、わかりやすく教えてくれるうえに、おもしろい」


 オニキスが無駄に腕を組み、頷きながらそういう。

 そういえば先の陛下も、おもしろいことは大事だとことあるごとにいっていた。

 その割には、御自らは過酷な道を歩まれていた気がするが……。


「ただで、どうしてもおしえてくれないこともあるの……」


 少し残念そうに、スカーレットがそう呟く。


「軍事関係か?」


 トライハル少佐は、よく自分は軍事が専門外だからといっていた。

 だから、その方面の質問だと思っていたのだが……。


「いえ、歴史的な海戦など、むしろ詳しく教えていただいております」


 サファイアが、そう指摘した。


「では、艦の構造などか?」

「いえいえ、そちらもしっかりと教えてもらったであります。我々は無人艦ですが、なにかの拍子で僚艦の救援に向かわなければならないこともあります。それ故、艦の構造は把握していた方がいいと」

「そこまでできるのか――」

「あとは人的被害を出来るだけ出さずに敵艦を無力化させる方法もね。ボクらは軍艦である以上、敵は沈めなければいけれないけれど、そういうことを憶えておいても無駄にはならないって、教えてくれたよ」

「…………」


 これは、認識を改めなくてはならない。

 おそらくトライハル少佐は、スカーレットたちに勉強を教えると決めた際、専門外であったはずの軍事も学習したのだろう。

 それによって、彼女たちの好奇心を満たし、より深い段階へと進めることができるようになったというわけだ。


 しかしそうなると、不思議な点もでてくる。


「そこまで教えられるのに、何を教えてくれなかったのだ?」


 よほど軍事的に難しい質問であったのだろうか? そう思いながら俺が訊くと、スカーレットはたちは顔を見合わせてから、一斉に、


「人間の増え方」


 ――ふはは。

 そうきたか……。


「私達は建造されたけど、人間は違うんでしょ?」

「なので、どうやって増えるのか訊いてみたのですが」

「トライハル殿、急に顔を赤らめてしまいましてな」

「なにやら重大な秘め事みたいなんだ」


 と、スカーレット、サファイア、スピネル、オニキスが次々とそういう。


「ねぇ、パパは知らないの?」

「んんんっ!」


 思わず変な咳払いをしてしまった。

 そういえば、授業からの帰り、トライハル少佐が妙に赤面していた日があったが――それのことだったのだろうか。

 ――いや、大事なのはわかる。

 わかるのだがこう……なんというか、手加減というものをしてほしい思うのは俺だけだろうか。


「そうだな……俺もよくは知らない」


 四姉妹からの熱い視線と、アリスとクリスの何か言いたげな視線から目をそらしつつ、俺はそう答えた。


「だが、いずれちゃんと説明があるだろう。それまでは……そうだな、他の生物の繁殖方法などを調べてみたらどうだ?」


「なるほど! さすがパパ、冴えてる!」

「それならば、トライハル先生を困らせることもありませんね」

「なるほど、そういう手がありましたか!」

「それじゃあ、あとで早速調べてみるよ」


 スカーレット四姉妹の声は、純粋な興味に彩られていた。

 おそらくませているわけでも、またわざとしているわけでもないのだろう。

 できれば、あとでもう少し情緒が発達した際、いまの発言をスカーレットたちが忘れていることに期待したい。




 しかし二週間後。

 運命とは残酷なもので、スカーレットたちは人間がどのように増えるかをついに知ってしまったらしい。

 それからしばらくの間、俺と顔を合わせるたびに四姉妹とも顔を真っ赤にするという非常にいたたまれない現象が起きるのだが――そしてアリスとクリスにもっと早く教えていればいいのにという視線を受けるのだが――それはまた、別の話。

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