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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第一九四話:かわいい名前かは、わからないけれど

「急なお話ですから、何事かと思いましたが、そういうことでしたか」


 俺からの要請で機動要塞『シトラス』の小会議室を訪れた、ステラローズ公女にして船団ウィステリア護衛艦隊司令官、アステル・パーム中将は納得がいったように頷いた。

 船団シトラスに滞在中だったのが幸いし、こうしてすぐに来てくれるのは、実に幸先がいい。

 のだが、あの独特な露出度の高い水着を外遊先でも着用しているのは、少し計算外であった。

 紅雷号四姉妹の情操教育に、悪影響がないといいのだが……。


「それで――」

「ええ。御依頼の宝石、用意致しましたわ。アセスル」

「はい、こちらに」


 アステルの副官である、アセスル・ファム中佐が装飾の施された小箱を開ける。

 その中には、色とりどりの宝石たちが、綺麗に並んで収まっていた。


「これでよろしくて?」

「ああ、充分だ」

「それにしても、わたくしたち船団ウィステリアが宝石に詳しいなんて、よくご存じでしたわね」

「たまたま推論が当たっただけだ」


 貴族というものは、基本的に土地――すなわち領土――がないとなりたたない。

 それが俺が封印される前の時代の常識であった。

 では、現代の土地という概念がほとんどない場合はどうか。

 おそらくは島、艦船の所有がそれにあたるだろう。

 だが、それだけでは権威付けにはやや弱いだろう。

 とすれば土地や艦船の次に独占すべきは――貴金属、あるいは宝石だろう。

 クリス曰く、どちらも海底に潜って採掘が必要であるため、その価値はかなりのものになるはずだ。

 なのでアステルたち現在の貴族は宝石を少なからず保有していると踏んでいたのだが、その推測は正しかったようだ。


「しかしこれは、かなり等級が高いものなのでは」

「ええ。さすがマリウス中将、おわかりになるのね」

「先に伝えたとおり、革袋に入れるような等級で構わなかったのだが」

「それですけれど、そもそも革袋ってなんですの?」


 ――!?

 久しぶりに来たか、時代の変遷による文化的衝突!


「動物の皮を加工して布のようにしたものを、紐で結わえて袋にしたものなんだが――」

「ああ、フグ袋のことですわね」

「フグ袋」


 いわれて簡単に想像できた。

 そして船団で見かける革袋がすべて、それだったのだろうと納得する。

 アリスに視線を向けると、その想像であってるとばかりに頷かれたので間違いないのだろう。

 しかしそんなに丈夫なのか、今の時代のフグは……!

 進化したのか……? あるいは意図的に進化させられた……?

 もし意図的にそうなったのなら、したのは一体誰が……?

 というか、あのフグの見た目から革袋のように加工するの、かなりの手間ではないか――!?


「マリウス中将?」

「あ、いや、すまない。続けてくれ」


 一瞬気が遠くなりかけたのを、咳払いでごまかす。

 もっとも、事情を知っているアステルにはお見通しであったらしい。


「――なるほど。昔はフグではなかったのですね。興味深いので今度ご教授願います」

「話の腰を折ってすまない」

「いえいえ、お構いなく。話を戻しますと、わたくしどもの扱う宝石には、袋に入れる等級はございません」


 大きく胸を張って、アステルは宣言する。

 その際に、無駄に露出度の高い胸が大きく揺れ、アリスが両手で俺の目をふさごうとする(その程度でふさがないで欲しいのだが……)。


「それに、宝石をはじめてみるのでしたら、そこそこ上位のものから観た方が目利きの教育にもよろしいのでは?」


 いわれてみれば、確かにそうであった。


「それで、あの四姉妹はどちらに?」

「いま授業中だ。間もなく終わると思うが――」


 俺がそう言い終わる前に、廊下を駆けてくる足音が聞こえてくる。


「あらあら、元気がよろしいこと」


 年寄りじみたことをいうアステルであったが、こっちはこっちで頭を抱えるしかない。


「パパ! おまたせ――んんっ!? 失礼致しました、パーム提督!」


 例によって、先頭は紅雷号(こうらいごう)であった。

 その後を蒼雷号(そうらいごう)紫雷号(しらいごう)黒雷号(こくらいごう)と続き、アステルをみるやいなや、一糸乱れぬ敬礼をする。


「元気はあるのはよろしいことですわ。ですが淑女たるもの、もう少し慎みをもたなければなりません。貴方がたのうちひとりは、我が船団の所属になるのですから」

「はいっ」

「もうしわけありません」

「以後注意致します」

「気をつけるよ」


 紅雷号、蒼雷号、紫雷号、黒雷号がそれぞれそう答える。


「よろしい。では――マリウス中将」

「ああ。待たせたな」


 俺はその小箱を、紅雷号四姉妹にみせる。


「わぁっ!」

「これは……!」

「綺麗でありますな」

「いいね。こういうの」


 それぞれが、興味深そうに箱をのぞき込む。


「俺には可愛い名前というものがわからないが――」


 目を輝かせる四姉妹に声を掛けながら、俺。


「綺麗なものならわかる。宝石の名前は、アステルに聞けばいい」

「ありがとう、パパ!」


 四姉妹を代表して、紅雷号が髪を跳ねながらそういった。

 そしてすぐさま、宝石箱へと視線を戻す。

 どうやら、かなり気に入ったらしい。


「もしよかったら、手にとってごらんくださいませ」

「いいの――んんっ、いいんですか?」

「ええ、かまいませんわ」


 アステルの好意に礼をいいつつ、紅雷号たちは宝石を手に取る。

 特にそういう設計にしたつもりはないが、それぞれが自分の艦の名前と同じ色の宝石気に入ったようであった。


「この宝石の色、いいですね……」


 蒼雷号が、青い宝石を手に取って、そう呟いた。


「その石の名前は、サファイアですわ」

「サファイア……」

「自分はこの色が好みですね」

「そちらはスピネルですわね」

「ボクはこの石かな?」

「それはオニキスですわ」


 さすがは専門、アステルの説明はよどみがない。


「――決めました」


 宝石を静かに箱に戻して、最初に声を上げたのは蒼雷号だった。


「サファイア。この姿でいるときは、この名前を使いたいと思います」

「自分も、スピネルという名前が気に入りました」

「ボクもね。これからはオニキスと名乗っていいかい?」


 蒼雷号改めサファイア、紫雷号改めスピネル、そして黒雷号改めオニキスが、それぞれ自分の名前を決める。


「ああ、そうするといい」

「ありがとございます。お父様」

「感謝致します、父上」

「ありがとう、父さん」


 ――どうでもいいのだが、未婚の身の上で父と呼ばれるのは、どうにもくすぐったかった。

 ただ……。


「うーん……」


 紅雷号だけは、まだ決めかねているようであった。


「アステル中将、この宝石って」


 赤い色のそれを手に取ったまま、紅雷号がアステルに訊く。


「ルビーですわね」

「ルビーかぁ……この色がいいんだけど、ルビーって名前じゃないのよね……」


 色はいいんだけど——と、眉根をよせて、紅雷号。


「でも、緋色の宝石(スカーレット)を選ぶとは、貴方良い感性をお持ちですわね」

「えっ」

(なに……?)


 紅雷号が、聞き返した。

 そして俺も、心中で思わず聞き返す。


緋色の宝石(スカーレット)。ルビーの別名ですわ。どうも、大昔から使われている名前だそうですけれど」

「それは、魔族の古代語だ」


 意図的に呼吸を落ち着かせて、俺はそう指摘する。

 まさか、その名前をここで聞くとは思わなかったからだ。


「まぁ、そうでしたの……!」

「それなら、都合がいいわね! パパ、あたしこの名前気に入った!」


 紅雷号が、その宝石を手に目を輝かせて続ける。


「スカーレット! この名前、使っていい?」

「あ、ああ……。構わない」


 しかしまさか、同じ名前を使うとは。

 ――紅雷号の容姿は、ある方を参考に俺が設計したものだ。

 そしてその方も、名にスカーレットという言葉を使っていたのだ。


 緋色の魔王、ヴィネット・スカーレット。


 先代の魔王にして、本来持つべき七二の階列のどれにも属さない異例の魔王。

 そして……俺を拾い、育ててくれた大恩のあるお方。


「どうしたの? パパ」


 紅雷号あらため、スカーレットが小首を傾げて聞いてくる。


「ああいや、なんでもない」


 想定していなかった偶然ではあるが、それは意図的なものではあるまい。


「いい名前だと思う。大事にするといい、スカーレット。サファイア、スピネル、オニキス……もな」




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