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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第一九三話:かわいい名前を、つけてほしいの!


「パパ――じゃなくてお父様! 可愛い名前をつけてほしいの!」


 機動要塞『シトラス』後部艦橋執務室。

午後の執務をはじめようとした矢先になんの予告もなしに扉を開け放ち、紅雷号(こうらいごう)はそう言い放った。

 紅雷号。

 雷光号(らいこうごう)の量産型として建造された、紅雷号型特殊巡洋艦の一番艦である。


「名前――ああ、そうか」


 今はちょうど、ニーゴが紅雷号達に授業を教えていたはずだ。

 その際、彼女は雷光号がニーゴという別の名前を持っていることに気付いたのだろう。


 今はまだ精神的に経験が少ない――つまりは幼い――とはいえ、よい発想であった。


「つまり貴様は、その身体での名前が欲しいというわけだな?」

「ええ、そうよ!」


 緋色のリボンでふたつに結った、豊かで明るい栗色の髪を跳ねるように揺らしながら、紅雷号は何度も頷いて答える。


「――ふぅ、やっと追いついた……お姉様、いきなりお父様のところにいってはなりませんよ?」


 背後から、四番艦――つまり末妹――の、蒼雷号(そうらいごう)が顔を覗かせる。

 彼女は俺の視線に気付くと、短い青みがかった髪を揺らし、ぺこりと頭を下げたのであった。


「いやぁ、姉上は脚が早いでありますな! 性能は全く同じはずなのでありますが!」


 蒼雷号と違い、余裕を見せるのは、三番艦――三女――の紫雷号(しらいごう)

 蒼雷号より少し長い、一房だけ紫の髪をうなじ辺りで適度にまとめていた。

 (余談であるが、ミュウ・トライハル大尉と初めて合った以降そのようにしている。彼女にとって、トライハル大尉が理想の女性にみえているのかもしれない)

 そして蒼雷号と同じように俺の視線に気付くと、綺麗な敬礼をしてみせた。


「多分これが、性格付けってやつのせいさ」


 そういって最後に現れたのは、二番艦――次女――の黒雷号(こくらいごう)であった。

 紅雷号と同じくらいの名前に反して白い髪を、一本の三つ編みにして左肩に垂らしている。

 彼女もまた俺の視線に気付いたが、目の動きだけで挨拶するにとどめていた。


「貴様達も、名前が欲しいのか?」


 期せずして揃った紅雷号型特殊巡洋艦の中枢人格四姉妹に、俺は声を掛ける。


「いえ、私はその――」


 そういいながらも名前を付けて欲しそうにこちらをみる蒼雷号に対し、


「そうでありますな」

「あったほうが、めりはりが効いていいよね」


 紫雷号と黒雷号は即答した。

 特に黒雷号は理由もしっかりしている。

 どうやら、はやくも性格の違いによる意識差が形成されているようであった。


「そう! だから、かわいい名前をつけてほしいの!」


 紅雷号が、我が意を得たりといわんばかりに、脚を大きく開き、腰に両手を当てて宣言する。


「だからお願い、パパ! あたしたちにかわいい名前をつけて!」

「名前を付けるのは構わんが――」


 完全に仕事をする状況ではなくなったので、書類を片付けながら、俺。


「可愛い名前とは、具体的にどういうものだ?」


 ぴしっと、凍り付いたように紅雷号が動かなくなった。


「え、ええっと……クリスさんや、ミュウさん、それにアリスさんみたいに。ほら、なんかかわいい響きじゃない! きっとなにかかわいい意味があるのよ!」


 かわいい意味。


「あの、私の名前の『クリス』は歴史上の有名な提督からつけられたものですよ? 勇猛という印象はあってもかわいいという印象はないかと――」


 クリスが、遠慮がちにそういった。


「わ、私の『ミュウ』も、過去の聖人から付けられたものですね。偉大とか、そういう意味はあるかもしれませんけど、クリスタイン司令と同じく、可愛いという意味はないと思います……」


 トライハル大尉も、申し訳なさそうに注釈を加える。


「あ、アリスさんも?」


 紅雷号が最後の希望とばかりに訊くが――しまった、まずい。


「えっと、わたしの場合名前の意味を尋ねる前に両親と死別してしまったので、よくわからないんですよね」

「――重いわ」

「――重いです」

「――重いですな」

「――重いね」


 それぞれ恐れおののく紅雷号型四姉妹であった。


「……まぁいい。実はそんなこともあろうかと、手配は済ませてある」

「本当!? ――こほん、本当ですかっ!?」


 すぐさまこちらに食らいつく紅雷号をはじめ、残りの三人も興味深げに視線をこちらへと送ってくる。


「ああ。もう少ししたらその話をするから――まずは、授業の続きを受けてこい」

「そういうこった。全員揃ってオイラの授業を抜け出すとは、いい度胸だよなぁ……」


 四姉妹の後からぬっと現れたのは、別室で彼女たちに軍艦としての基礎知識を学ぶ授業を教えていたはずの、ニーゴだった。


「ご、ごめんね――んんっ、ごめんなさいニーゴおじさま!」

「もうしわけありません、おじさま」

「以降、気をつけます。おじ上」

「もうやらないと誓うよ、ニーゴおじさん」


 おじさん。


 俺がマリスの『(あるじ)』と違って父親扱いされるように、ニーゴもまたおじ扱いされていた。


「お、お、お――」


 それはいいのだが、本人にいわせると……。


「おじさんじゃなくて、おにいさああああああああん!」


 どうもそう呼ばれたかったらしい。

 その気持ちはまったく理解できないが、紅雷号型四姉妹の独特の価値観が、どこか興味深い俺であった。




『ちくしょー! シスターでプリンセスな展開を狙っていたのに、どうしてこうなったああああ!』

「いやなんだそれは」

『こうなったら、イケオジ路線を極めてやんよ!』

「イケ……オジ……?」

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