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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第一九一話:シスターフリート(設計編)


『ちょ、ちょっと待ってくれよ!?』


 ニーゴの声は、かなり焦っていた。


『オイラ、いままで女の子を沈めていたのかよ!?』

「おちつけ。機動甲冑は元々男性扱いだ。故にそこから進化した海賊も男性扱いだろう」

『進化している間に女の子になってたらどうすんだよ!?』

「怖いことをいうな!」


 可能性はあるのだが……それは黙っていようと思う。




■ ■ ■




北方。

 元・北海船団ポセイダル

 現・絶海虚構船団ボイド


「ご安心ください陛下。海賊の性別は基本的に男性ですので」


『〇〇六番、アレがまたなにかいいだしたぞ』

『いつもの発作だ。気にするな、〇一〇番』




■ ■ ■




『どっちにしても、普通の船は女の子扱いってことなんだな。んじゃ、普通の艦船はあんまり沈めないようにしとくわ』

「そもそも雷光号で普通の艦船は――いや、そうだな」


 雷光号としては、普通の艦船を沈めた憶えはない。

 しかし、雷光号となる前の、哨戒型の海賊『二五九六番』だったころにそういう経験があるのだろう。

 それについて、俺からとやかくいうことはなかった。

 むしろ、これから他の船団との戦闘を考慮していたニーゴの判断に、内心驚かされたくらいである。


「だが、艦船としての扱いが女性というのなら、雷光号の量産型は女性扱いにした方がいいだろう」

「ですね。他の船団の将兵も、その方が扱いやすいと思います」

「となれば――ああ、俺だ。なに? もう外にいる? ニーゴ」

『あいよ』


 艦内に入ってきたのは、マリスだった。

 事前に連絡したら来るようにはしていたが、既に待機していたらしい。

 マリスはあのジェネロウスの騒動の際、とある理由でアリスとクリスを参考にして製作した人形に、俺が以前から開発していた自律可動可能な機動甲冑の制御核――わかりやすくいうと、感情――を組み込んだものだ。

 その際に、戦闘技術も組み込んだため往事の魔王軍上級将校と、ほぼ同等の戦闘力を有している。

 いまは本人の希望で、船団ジェネロウスでアンとドゥエのブロシア聖女姉妹の補佐をしていた。

 本人曰く、毎日がおどろきの連続であるらしい。


「およびでしょうか、我が主」

「急に呼び立ててすまないな。しかもだいぶ待たせてしまったようだ」

「いいえ、これしきのことはなんともありません。私は主の所有物ですから」


 ちなみに、マリスの事の次第をトライハル大尉に話すと、


「ごめんなさい。ちょっと理解できないです」


 と、頭を抱えながら悶絶させてしまった。

 それでも小一時間で復帰したのだから、たいしたものだと思うのだが。

 ――閑話休題。


「確認しておきたい点はふたつだ。まずは、雷光号の量産型の感情は、貴様を基本としたい。構わないか?」

「もちろん構いません。むしろ、そのことを訊いてくださった我が主の気遣いに感激しております」

「そうか。それは俺も嬉しい。そしてもうひとつ。これが重要なのだが――ジェネロウスに提供する雷光号量産型、それに貴様を組み込むのは――どうだ?」


 数秒の、間があった。

 しかしそれは高速思考ができる人形であるマリスにとっては、かなり逡巡であったと思う。


「魅力的な提案ではあるのですが、謹んで、お断り致します」

「――理由を聞こう」

「おおきくわけて、ふたつ。まずひとつですが、量産型雷光号となってしまうと、今のように単独で船団間を移動できなくなる――違いませんか?」

「そのとおりだ」

『そうなるわな』


 俺とニーゴが、ほぼ同時に答えた。


「それでは、諜報員としての任務を帯びている私にとっては、かなりの不利となります」

「なるほどな」


 諜報員にした憶えはないのだが、確かに俺が必要としている場面ではそういうことをしている状況が多いのも、また事実である。


「そしてふたつめ。私がジェネロウス所属の量産型雷光号となると、他のみっつの船団と戦力が不均衡になります。私はジェネロウスのことを大分知っていますし、戦闘の経験値もかなりのものになっています。それでは、他のみっつの船団に配属される姉妹と、大きな性能差となってしまうでしょう」

「――もっともな話だ」


 それではおそらく、エミル辺りが不平等だと言い出しかねない。

 かといって戦闘技能をあらかじめ組み込んだとしても、実践という経験値を得ているマリスとはおのずと差が出てしまうのはあきらかだ。


「わかった。では、感情の元となるのはマリスとするのにとどめ、量産型雷光号への組み込みは、とりやめよう」

「ありがとうございます。我が主の配慮、大変嬉しく思います。――その、生まれてくる妹たちのことも、楽しみです」

「ならば、その機体に答えよう。次に、その性能だが――クリス?」


 俺は視線を着席したマリスからクリスへと移した。


「量産型の性能を、元の雷光号からどこまで落とすか、ですね」


 さすがは船団シトラス護衛艦隊司令官、クリスの予想は的確だった。


「結論からいいますが、性能は――そのままでいいでしょう」

「やはりそうか」

「クリスタイン司令官!?」


 トライハル大尉が、抗議に近い声を上げる。


「貴官のいいたいこともわかります。トライハル大尉」


 そしてクリスにとって、その声は予想通りのものであったらしい。


「外交官としての貴方の立場からすれば、どこかの性能を落とさないとシトラスの優位が崩れると懸念しているのでしょう。ですが、司令官としての私の立場からすれば、量産型とはいえ、性能を落とすと雷光号と合同作戦をとった際に、戦術の幅が狭まるのは困るんです」

「それは――そうかもしれませんが」


 なおもトライハル大尉が食い下がろうとする。が、


「それに、機関の整備はマリウス管理官にしかできないんですよ? その時点で、こちらの優位は揺るぎのないものじゃないですか」

「そ、それは……たしかに、そうです」

「マリウス管理官。雷光号は常に面倒をみているから不要でしょうが、その量産型が他の船団に渡った場合、整備などでこちらにもってくるのはどれくらいの期間になりますか?」

「機関が止まるまで九九年といったところだが、不調がでるかどうかの確認は、五年くらいをめどに定期的に行いたいものだ」

「ではそれで決定ですね。早速建造準備にかかってください。……どれくらいで、建造完了となりますか?」

「そうだな――」

「機動要塞に一週間かかったんです。それより小型とはいえ、四隻も作るんですからそれなりに時間がかかりますよね?」


 と、トライハル大尉が口を挟む。


「そのとおりだ。四隻すべて完了するのには……四日といったところか」

「一日一隻じゃないですかぁ!」


 トライハル大尉の悲鳴(?)が、雷光号の居室に響く。

 突貫工事のつもりはないのだが……なにか、不満なのだろうか?





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