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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二章:旅の仲間

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第十九話:暁の秘書官

「事情は理解したわ」


 多大な時間を浪費したものの、メアリはようやく納得してくれた。


「にしても、お風呂ねぇ。この規模の船に搭載するなんて、すごいわね」


 普通はもっと大きい船にするものよ、船団の中枢とか。と、メアリ。アリスが前に言った通り、今の世界ではあの風呂を搭載するだけでもかなり珍しいものであるらしい。


「ちょっと、みてみたいわね」

「アリス、構わないか?」

「わたしは構いませんけど……折角ですから、お風呂に入ってみます?」

「いいの?」

「マリウスさん?」

「俺はかまわないが」


 質問が行ったり来たりするなか、そういうことになる。


「本当にいいの?」

「かまわない。ただし、船内を歩く時、鍵のかかった扉を無理に開けようとしないでくれ」

「船の機密上、当然ね。じゃあちょっと着替え取ってくるわ」

「では、お風呂の用意しておきますね」

「すぐ戻るわ!」


 よほど急ぎたいのだろう。

 腰に下げた細身の剣の鞘を掴んで、メアリは駆けていった。


「そこまで珍しいのか、風呂は……」

「私が欲しいっていったのも、なかば無理だと思ってのことでしたし、雷光号の中に載せるにしても、もっと簡単なものだと思っていましたから」

「簡単なものとは?」

「タルに温めた海水を入れるとか」

「そ、そうか……」


 思っていた以上に、海の上での生活は厳しいものであるらしい。


『《モウスグ、オフロガワキマス》。あー、嬢ちゃん、大将。先に言っておくけど。あの姉ちゃんが風呂入っているときは感知計の類全部入れておくからな』

「当然だ。それでいい」

「あ、でも映像はマリウスさんに見せないようにしてくださいね」

「見ないから安心しろ」

「念のためです」


 何が念のため、なのだろうか……。


「おまたせ!」


 そこへ、背負い袋を肩に掛けたメアリが戻ってきた。


「それじゃ、わたしが案内しますね」

「ああ、頼む」

「まぁ、この規模の船だから載せるにしてもタル風呂かそれよりちょっと上くらいでしょうけど、楽しみにしてるわよ!」



 ■ ■ ■



「おねがい。報酬だったらいくらでも払うから、うちの船にもお風呂作って……!」


 しばらくして甲板に上がってきたメアリの一言が、それだった。


 ふ。

 ふは。

 ふはは!


「いくらでもいいと、言ったな?」

「払うわよ! あのお風呂のためならば!」


 ——まずい。目が本気になっている。


「ならば喜んで……と言いたいところだが、同規模は無理だ。船の大きさが違いすぎる」


 今回行った改装で、雷光号(らいこうごう)(あかつき)淑女号(しゅくじょごう)とほぼ同じ全長、全幅は約二倍となっている。それゆえあの規模の風呂を内蔵できたわけだが、メアリの船では難しいだろう。


「なら簡単なのでいいから!」


「そうだな……湯船を正六面体にして、海水を真水に変える装置と加熱装置を統合し、それを動かす小型のまほ——じゃない、発掘機関を搭載する……これでどうだ?」

「まって、そんな発掘機関を持っているの?」

「ああ、持っている」


 正確には、これから作る——だが。

 海水を真水に変換する。その時に出た余熱でその真水を温めるくらいであれば、かなり長い間駆動できる魔法具を作り出せるだろう。


「決まりね! それじゃ報酬は今度の発掘島(はっくつじま)でみつかったものを1:9でそっちに渡すと言うことで——」

「そこまでよ」

「げぇっ! ドロレス!」

「その呼び方はやめてと何度も言っているでしょう」


 小柄な少女だった。

 背中まで伸ばしている髪をうなじあたりでまとめているメアリ、肩で切りそろえているアリスに対し、耳が出るほど短くしている。


「すいません、メアリさんの関係者ということでしたので、お連れしました」

「いや、問題は無い」


 おそらく、俺とメアリが話し合っているうちに二五九六番が気付いて、そっとアリスに知らせたのだろう。


「はじめまして。私の名前はドロッセル・バッハウラウブ。メアリの秘書官を務めているわ。よろしく」


 やはり、そうだったか。

 アリスのとよく似た意匠の制服に身を包んでいたので、そうではないかと思っていたのだが。


「ば、ばっはうらうぶ……さん?」


 呼びづらそうに、アリス。


「呼びにくい名字であることは自覚しているわ。ドロッセルで結構よ」

「では、ドロッセルさんで。わたしがアリス・ユーグレミア。こちらのマリウスさんの秘書官です」

「紹介が遅れたが、『雷光号』船長、アンドロ・マリウスだ」

「そしてあたしが『暁の淑女号』船長、メアリ・トリプソンよ!」

「「知っている」」


 期せずして、俺とドロッセルの声が重なった。


「なによ。ああいう場面では自己紹介したくなるってもんでしょ」

「お気持ちは、わかりますけど……」


 いじけるメアリを、アリスが慰める。

 が、仮にも一隻の船を預かる船長なら、それなりに自重してもらいたい。

 メアリらしいといえば、それまでだが……。


「それで、うちの船長が滅茶苦茶な報酬の話していたので思わず介入してしまったのだけれど」

「ああ、つまりはな——」


 俺はここまでのやりとりを、かいつまんでドロッセルに説明する。


「風呂……?」

「そうよ。もう濡れた手ぬぐいで身体を拭く必要がなくなるの!」


 腰に下げた剣を抜かんばかりの勢いで、メアリが力説する。

 アリスもそうしていたというが、こちらより乗組員の人数が多い暁の淑女号にとっては、切実な問題なのだろう。


「たしかに衛生上、船に風呂があるのは望ましいわ。でも可能なのかしら」

「可能だ。現にこの船にもある」

「それなら、現物を見せてもらいたいわ。いいかしら」

「かまわない。どうせだからメアリと同じく入っていけ」

「いいの?」

「ああ。アリス、案内してやってくれ」

「わかりました」

「では、お願いするわ。ただし、私がメアリと同じ判断を下すとは、思わないように」



 ■ ■ ■



「メアリの案と同じく、報酬は1:9でそちら側で」


 すぐに上がってきたドロッセルの第一声が、それだった。


「でしょ! でしょ! わかるでしょ!」


 メアリが歓声を上げる。


「(……マリウスさん)」


 アリスが小声が俺に囁いた。


「(……ああ、わかっている)」


 俺も小声で返す。さすがに、なんというか——だ。


「報酬だが、6:4でこちらの取り分が多ければいい。ただし、見つかったものの中で、こちらが欲しいものは優先される。これでどうだ?」

「それでいいの?」

「本当に?」


 ドロッセルとメアリが、意外そうに聞く。

 もっともドロッセルの表情はそれほど動かなかったが、彼女の性分というものだろう。


「かまわない。こちらが欲しいものを優先という項目を守ってくれれば、それでいい」


 元々発掘島でとれると思しきものは、俺が作ったものだ。ならば、俺が作るにしても時間がかかるもの——例えば、機動甲冑など。ただし、あればだが——や、少数ながら俺以外が作ったものを優先して貰えば、それでいい。


「ではそれで。メアリ?」

「ええ。よろしく頼むわ、マリウス」

「ああ」


 メアリと握手を交わす。


「アリスさん、契約書は後日船団の法務部立ち会いのもとで取り決めるということでいいかしら」

「あ、はい。それでお願いします。ドロッセルさん」


 こうして、雷光号と暁の淑女号との間に、一時的な協力体制が樹立した。

 まさか風呂が決め手になるとは、夢にも思わなかったが。


◼️今日のNGシーン

「決まりね! それじゃ報酬は今度の発掘島でみつかったものを1:9でそっちに渡すと言うことで——」

「そこまでよ」

「げぇっ! 孔明!」

「お気づきになられましたか」

「意外とノリがいいな、貴様……」

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