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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第一八七話:魔王ですが、クラゲを登用します。

「うーん……」

「どうしたんですか、ミュウさん」

「あ、あの、アリスさん。マリウス管理官がその、魔族という人間と違った種族だという話ですが」

「事実ですよ?」

「やっぱり——でも、いまひとつ実感がわかないんです。だって、マリウス管理官は私達人間と、なにもかわらないじゃないですか」

「そうですね……では、こう思っていはいかがでしょう」

「はい」

「マリウスさんは——ウ◯娘」

「う、◯マ娘!?」

「はい。ウマ◯ならわかりやすいと思います」

「た、たしかに……!」

「たしかに、じゃあない!」

 あれだけ動揺、反発をしたものの、一度仕事となると、ミュウ・トライハル――正式に俺の部下となったので、トライハル大尉と呼ぶことにしよう――の切り替えは早かった。


「海底工場……ですか」


 当然の話になるが、船団復興と行政府の新設を兼ねて、この船団の生産力を見直せば、このような書類が出てくる。

 ただしそれは、いままで開示されなかったものだ。


「以前から、護衛艦隊の生産性については疑問を抱いていましたが……こういうからくりでしたか」

「もうしわけありません。旧行政府――当時の政治部に知られると、悪用される可能性が高いと判断したので、秘匿していました」


 監督という名目で顔を出していたクリスがしれっとそういうが、実態はヘレナ達情報部――図書館と合同で、連日に及ぶ会議が開かれたという。

 たしかに船団の生産力を武力が持つ機関が秘匿するのは危険な話だ。

 だが、それ以上に当時の行政府は危険だったのだろう。


「その判断はわかります。わかりますが――」


 トライハル大尉も、そこはあっさりと認めた。

 どうやら、書面における別の箇所が気になるらしい。


「マリウス管理官がいらしてから急激に効率が上がっている方が気になります――もしや?」

「俺のいた時代――もしくは、それに近しいものの施設だったからな。完全な状態に再稼働させた」


 頭が痛いように、トライハル大尉が額をおさえる。


「製造機能まである鉱脈というのは珍しいと思ったら――知りたくありませんでした、本当に……!」

「ついでに訊きたいが、今の時代は資材の確保はどうしているのだ?」


 それは、前から気になっていたことだ。

 俺の時代、艦船は木製、および木製に装甲を被せた半金属製、そして高価かつ高性能な、最新鋭の金属製が混在していた。

 今現在でみてみると、そのうち半金属製が消滅していて、蒸気機関を積んでいるのはほぼ金属製、帆船はほぼ木製となっている。

 それと、小型艇限定だが、その一部には以前ヘレナがみせてくれた樹脂製があった。

 ヘレナ曰く、強度は木製にも劣るそうだが、適度に熱を加えれば簡単に加工できるらしい(ちょっと真似してみたいものだ)。

 問題は、その資材をどこで調達しているか、だ。


「金属系や樹脂系は、基本的に海底の鉱山ですね。希に海上にまででているのもあって、発掘島と呼ばれていますけど……大抵のものは、すでに発掘されつくされていますし」


 発掘島は俺も憶えがある。

 まだ船団シトラスに来る前に、もうけ話のひとつとして発掘に参加したこともあった。

 そこでニーゴの身体の元となる資材をみつけたのも、もう随分と前の話に感じるものである。


「木材は? 島に植わっているものを伐採するのか?」

「それはごく希ですね。あっても、育てるのに時間がかかりますので」


 トライハル大尉の返答はよどみがない。

 たしかに、土地が見渡す限りあった俺が封印される前ならともかく、島が数えるほどしかない今では、木材は貴重なものとなるだろう。

 だが、その割には使用している艦船が多いのだ。

 たとえば、メアリの『暁の淑女号』も木造の帆船となっている。

 帆が機動甲冑のマントを応用し、風の魔法で推進するという特殊な構造をしていたが、船体そのものは何の変哲もない木製だ。


「では、その材木はどこから?」

「古木でしたら、ここから南の材木潮流で採取できますね」

「材木潮流……?」


 想像したのは、昔川に材木を流して下流に流すという作業。

 まだ俺が魔王でなかったころ、そういった作業に従事していたものだ。


「古い材木が広範囲に漂流している潮流ですよ。かなり広範囲なので、艦船がそれ以上南下できないほどです」

「なるほど……」


 前に、クリスがここから南には船団がないといっていたのは、そういう意味だったのか。

「ただ、木材の材質にかなりのばらつきがありますから。そこから一定した品質の木材を定期的に採取するのは不可能です」

「それなら、そうしたい場合は、どうする?」

「それも海底の鉱山になります。私達は、海底倉庫と呼んでいますけれど」

「それはまた、言い得て妙だな……」


 おそらく、海底工場とちがって純粋に資材を保管している設備が、この海の底にいくつも点在しているのだろう。


「ただ、豊富にあるとはいえ有限には違いませんから、生産機能がある海底工場は、非常に貴重なんです」

「こちらは滅多にない感じか」

「この五船団でしたら、それぞれがひとつは隠し持っているとみていいでしょう」


 ……なるほど。

 それぞれの船団を回ってみた所感としては、それぞれがそれなりの生産能力をもっていそうなのは、間違いがなかった。

 ただ、資源の確保に関しては、どこも明示していなかったのではないかと思う。


「なので、話を元に戻しますが――管理者が、必要となります」


 書類を畳んで、トライハル大尉は断言した。


「なにやら中枢船の奪還時に大量に資材を使用したようですが――余力はまだあるでしょう。そして使った以上は連合艦隊を組んだ以上、他の船団に対し、もう秘匿する意味はありません」


 トライハル大尉のいいぶんも、もっともな話だった。

 今にして思えば、エミルがよく「そこまでするか」と言っていたのは、別の意味も含んでいたのだろう。


「ですから、船団シトラスの設備として正式に組み込むべきです。ただ、管理者の人選は相当厳しいものになるでしょうが……」

「そうか?」

「はい。海底という限定された環境は、心に負担を掛けます。今現在は護衛艦隊から交代要員を定期的に出しているようですが、それを恒常的にする管理者を探し出すのは、そうとう大変かと――」

「いや、あてがある」


 そういって、俺は立ち上がった。


「クリス、すまないが――」

「潜水艇の用意ですね。すぐに用意させませしょう」


 機をみたアリスが、早速通信機を使用開始する。




『なるほど、我々を正式に登用したいと。そういうわけだね』


 海底工場の水槽の中で、一匹目のクラゲはそういった。

 あの船団シトラス中枢船奪還の戦いでは一度こちらに来てもらったが、落ち着いたので工場に戻したのだ。


『ですが、私達はこの通り貴方がたにとっては異形の身。その点、どうするのです?』


 二匹目のクラゲが、興味深そうに訊く。

 だが、その点については、考えがある。


「いま声を発した方、船団ジェネロウスでは人間に擬態していたな?」

『ええ、しておりましたが?』

「一匹目、貴様もそれは可能か?」

『ふむ……やれといわれて、やれない理由はないね』

「二匹目、擬態していることに対する、なにか代償のようなものはあるか?」

『とくにはなにも。戦闘するというのであれば話は別ですが、内政をやれというのであれば、特に問題はありませんわ』

「ならばよい。二匹とも――水槽を出て、人間に擬態せよ」


 俺が命じると、二匹のクラゲは水槽から勢いよく飛び出てきた。

 そして海底工場の床に着地する頃には、二匹目はあのジェネロウスで擬態していた女の姿に、一匹目は中年と青年の間くらいの男性の姿となる。


「ふむ……これでいいかね?」

「充分だ。これからにひ――いや、ふたりともこの海底工場の管理者として、働いてもらう。暫定だが、追って大佐の地位を保証する。給金も出るし、これから配属される人員も、常識的な範囲であれば好きに使っていい」

「まぁ。ジェネロウスにいたころより、いたりつくせりですわね。では、当面はここにふたりで?」

「いや。閉鎖的な環境に男女を置くと世間体が悪い。それぞれが定期的に交代する体制を敷く。片方はここ、片方は中枢船で俺を補佐する役目となる」


 クラゲにまちがいもへったくれもないが、それでも人間の姿を借りる以上は、そういったことも考慮しなくてはならない。


「わかった。その命令を受諾しよう」

「同じく。謹んで、任務に励みますわ。ところで――」


 二匹目が、怪訝そうに俺の背後に視線を向ける。

 それはもちろん俺でもなく、同行したアリスでも、クリスでもない。


「そちらの方、大丈夫ですの?」


 ――しまった。

 トライハル大尉には、ことの経緯を話してなかった。


「トライハル大尉」

「……」

「大丈夫か、トライハル大尉。後で詳しく説明するが――」

「――こ」

「こ?」

「こんなこと、知りたくなかったですぅ!」


 涙声の絶叫が、海底工場に響く。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かにクラゲさんなら擬態も出来るし優秀だし、管理者として申し分ないな、と思いましたが普通の一般的なクラゲは擬態なんて出来ないことに気付いて、かなり毒されているなと感じました。 ミュウさん…
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