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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第一八三話:魔王ですが、内政官を探してます。

『こちら船団フラット『轟基(ゴゥベース)』いやほんと便利だなこれ!』

『こちら船団ルーツ『鬼斬改二(おにきりかいに)』貴船団の再興を祈ります!』

『こちら船団ジェネロウス『白狼(はくろう)』只今より貴船団を離脱する――ちょ、姉さん!?――落ち着いたら、遊びに来てくださいね!――こら、私信に使うんじゃない!』

『こちら船団ウィステリア『ステラローズ』なにかありましたら連絡くださいませ。それでは、ごきげんよう!』


 俺が作った通信機の機能を最大限活かしつつ、各船団の艦隊は帰投していった。


「不安か?」


 返礼したあと、無言で見送るクリスに俺は訊く。


「まさか。それよりも、これからが大変ですよ」

「……ああ、そうだな」


 いままでは戦うことだけを考えていれば良かった。

 これからは、さらに船団の運営を考えていかなければならない。




□ □ □




「以上が、この船団に残っている政治部の元官僚です」


 雷光号(らいこうごう)操縦室。

 それぞれの座席を回転させ、せり出した円卓を囲むようにした臨時作戦形態(半日かけて俺が追加したものだ)。

 その席上で、クリスはそれぞれに配った書類から、今後船団を運営していくに渡って、必要と思われる人材を説明してくれた。


「わかってはいたが、少ないな……」


 もう、両手で数えられるぐらいしか残っていない。

 それ以外は皆、他の船団へと逃れてしまったのだ。

 現在ヘレナ達情報部がその行方を追っているが、混乱が収まったのを確認して戻ってきている者はごく少数であるらしい。


「クリス、この中で最優先で勧誘したい人材は?」

「一番最初に掲載した方です」


 クリスは即答した。


「内政と外交が得手で、上層部が間違っていることはしっかりと指摘出来る方だったそうです。それが疎まれて、船団の外縁部に左遷。過日の簒奪騒ぎでも招集されることはなく、また御自身も動かれませんでした」


 ――優秀だな。

 クリスの説明だけでも、それがわかる。

 招集がなかったのは、おそらくあの船団長たちに御せる自信がなかったからだろう。

 そしてその際、叛乱を起こすわけでもなく、クリス達防衛部やヘレナ達情報部にも協力しなかった。

 それはおそらく、自身が政治部の間諜ではないかと疑われることを考慮していたからであろう。

 自身に才がありながらも、なにもしない。

 自らの影響力を考慮し、それ以上の混乱を起こさせないために。

 それは、できるようでいて、そう簡単にはできないことであった。


「では、その者から勧誘か」

「そうなりますね」


 書類を片付けるためにまとめながら、クリスがそう答える。


「それでいま、どちらにいらっしゃるんですか?」


 と、アリスが訊く。


「今現在は、船団の端に農業を担当した船の一隻に住んでいるそうです。やっていることは農業の助言と、子供達に勉強を教える程度――もうほとんど隠棲状態ですね」


 クリスがそう答え、この船団の詳細な全体図をみせてくれた。

 あの騒ぎで中枢船を取り巻いていた艦船はほとんどすべてが待避していたが、ありがたいことに、今はその八割が戻ってきている。

 そして件の元内政官は、本当に船団の端にいた。


「この船、フラットにもウィステリアにも避難せず、中枢船から距離をおいてそのままでいたようです。農業船なので自立可能といえば可能ですが、護衛もなしに良く持ちこたえくれました……」


 クリスが、嬉しそうに海図にあるその船を、指で撫でる。

 確かに、踏みとどまってくれたのはクリスにとって喜ばしいものであったのだろう。


「では、向かうか」

「えぇ。お願いします」

「雷光号、聞いての通りだ」

『おう! 座標を教えてくれ。全速力で向かってやんよ!』

「いいや、全速は必要ない。通常航海、それもできるだけ騒音を立てないように向かってくれ」

『あいよ!』


 いまだに船団に残っているので大丈夫だと思うが、万一逃げられてしまっては、元も子もない。




■ ■ ■




「ふむ……」


 該当の農業船に乗り移って、俺は辺りを見渡した。

 雷光号よりもひとまわり大きなその船は、平べったい船体の上に無数の水耕植物栽培装置が並んでいる。

 その様子は、かつて俺が封印される前の魔王領にあった、農業区域のようであった。

 クリスによれば、このような農業船が何十隻、何百隻とあるらしい。


「なるほどな、このような船が、船団の栄養面を支えているわけか」

「はい。そうなりますね」


 もっとも私の直轄ではありませんでしたから、船団のどれくらいを支えているのか、これから把握しなければなりませんが。と、クリスが答える。


「それにしても、いろんなお野菜を育てているんですね。これなら、いろんな野菜料理ができそうです」


 興味津々といった様子で、アリスが水耕栽培装置を見回す。

 みた感じは野菜が浮かぶ底の浅い広大な水槽にみえるが、そこには色々な技術が詰まっているのだろう。

 いずれ、中身を確認して改良したいと思う、俺であった。


「それで、件の元内政官は――」

「資料に寄れば、船橋で寝起きしているようですが……」


 この農業船の船橋は、最後尾にあった。

 おそらくは、最後方から水耕植物たちの様子を観察するためなのだろう。

 そのためだろうか、それが通常の船橋よりも高い位置にあった。

 俺達は最後尾に向かい、そこへと到る階段を上っていく。


「ここですね」


 階段を上りきり、船橋への扉の前でクリスは脚を止めた。

 その扉には、表札よろしく小さな掛け札がつけられている。


『農業船〇八五号――管理責任者:ミュウ・トライハル』


 クリスが扉に設えられた、呼び鈴を鳴らす。

 ……少し待ったが、返事がない。


「留守でしょうか?」

「いや、生命反応がある」

「生命感知の――魔法ですか? 本当に便利ですね」


 クリスがもう一度、呼び鈴を鳴らす。

 ややあって……。


「は~い……」


 内部から、誰かがのっそりと起き上がって歩く音が聞こえる。

 時折何かにぶつかっている音が響くが――散らかりでもしているのだろうか。

 ややあって扉が開き――。


「どうしたんですか、おばあちゃん。野菜の交換は昨日済ませましたよ……?」


 目の前に、下着姿の女性が現れた。

 歳は二十代前半から後半くらいだろうか。

 アリスより少し長めである栗色の髪を、うなじあたりでひとつにまとめている。

 そして上の下着は全く着けず、代わりにシャツを羽織っていたのだが――前を全く止めていないため、胸の谷間と下の下着が丸見えであった。

 それに対し、こちらは俺、アリス、クリスとも軍装、それも正規なものである。

 それ故、その落差はものすごかった、


 全員が、絶句する。


 ややあって――。


「し、し、失礼致しました!」


 ものすごい勢いで、扉が閉められた音がした。

 なぜ音だけかというと……。


「アリス、前がみえない」

「マリウスさんはみちゃ駄目ですっ!」


 扉が閉められたのだから、もうみえないと思うのだが。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 活動報告を読んでヒロインが増えると書いてあったのに、優秀の描写部分で何故か渋めのおじさんを想像してしまってました。 クリスちゃんの例もある訳ですし、若い女性であってもおかしくなかったのに、…
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