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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一七八話:魔王ですが、昇進しました。

「まぁ冗談はさておきとして、だ」


 急に緊張を帯びた目になって、エミルは訊いた。


「彼のひょろ長いの、北の船団を自分のものにしたようなこと、言っていたよな。調査させるか?」

「いまはやめておいた方がいい。事実だとしたら、よほど念入りに編成しないと、全滅するおそれがある」

「――やっぱりそうか」


 頷くエミルとほぼ同時に、その場にいた各船団の司令官全員の顔が引き締まった。

 タリオンが言っていたことが事実であれば、最悪の可能性として、今回以上の規模での艦隊戦が起こりうるということだ。


「わかった。ここらへんはまず各船団の情報部に任せた方がいいな。――ヘレナ司書長?」

「ええ。実は既に五船団の情報部で北の船団への共同情報網を張ったわ。交易船からの情報が主になるから伝達速度は余り早くないけど、ないよりはマシでしょう?」


 エミルが、調子外れの口笛を吹く。


「さすがは本職さんだな。んじゃまぁオレらは、万一そいつらが雪崩れ込んできたら、どう潰すかを考えるわ」

「ええ。よろしく」

「ところでマリウス」

「なんだ?」

「『雪崩れ込んで』の、雪崩ってなんだ?」

「……雪は知っているな? あれが高い山に降り積もりすぎて、限界を超えると一度に麓へ向かって崩落する現象だ。雪崩れ込むというのは、そのときの様子をたとえたものだな」

「へぇ……なるほどな」


 どうやら、言葉だけが遺っていたらしい。

 エミルだけではなくアステルやリョウコ、さらには伝承に詳しいアンやヘレナも驚いている。


「んじゃ、今日はこんなところだな。今後の方針として、オレらはしばらく残るが、手空きの艦は各船団に帰らせる」

「ああ、それでしたらこちらもひとこと」


 機をうかがっていた様子で、アステルが手を挙げる。


「こちらに避難されていたシトラスの船は、すべてお返ししてもよろしいですわね?」

「はい、それでかまいません」


 いつもの様子にもどったクリスが、はっきりと返答した。


「んじゃま、中枢船の復興、がんばっていこうぜ。解散!」




□ □ □




「ふぅ……」


 雷光号(らいこうごう)操縦室――の後方にある共有の居室で、クリスは長椅子へ倒れ込むようにして横になった。


「こんなに疲れたのは、就任の時以来ですね……」

「お疲れ様でした、クリスちゃん」


 アリスがそう労って、茶を淹れる用意をする。


「中枢船の復興には、時間がかかりそうか?」


 俺がそう訊くと、クリスはごろりと長椅子の上に仰向けになり、制服の襟元を緩めると、

「いいえ。報告がすでに上がっているんですが、物理的な損壊は最小限でしたのでそれほどではないです。ただ、政治部を取り仕切っていた人材が軒並み抜けてしまったので……」


 いまになってわかったことだが、北の船団――つまりはタリオン――と結託した船団長とその息子に対し、有能な官僚は次々と逃げ出してしまったらしい。

 中枢船に残っていた者も、今回の攻略戦で降伏していたが、復職は――クリスとヘレナが温情を出しているのにもかかわらず――固辞しているそうだ。


「逃げ出した官僚は、北とうちとの間にある、中小規模の船団に行ってしまったみたいなんです。呼び戻すにしても時間がかかりそうですね」

「南は?」

「ここから南に船団はありませんよ。単独の交易船や漁船が漁を行う程度です」


 それはちょっと気に掛かる話であった。

 これより南にはなにがあるのか……。

 ことが落ち着いたら、クリスに訊いてみようと思う。


「とすると当面は、護衛艦隊と情報部で船団を運営すると?」

「はい。なので――」


 勢いをつけて起き上がり、クリスは対面に座る俺を真正面にみた。


「これからは、マリウス艦長にも色々とお手伝い、してもらいます」

「俺は一介の艦長だぞ? しかも大佐だ。そういうのは将官の仕事だろう」

「そうですね」


 めずらしく、意地の悪い笑みを浮かべてクリスは肯定する。


「でも、偉くなったらそうもいっていられないと思います」




□ □ □




 翌日。


「辞令です。今回の中枢船奪還作戦における多大な功績を認め、雷光号全乗組員を一階級昇進とします!」


 昨日と同じく元帥の制服に身を包み、みっつの階級章を机の上に並べてクリスはそう宣言した。

 つまり――。

 ニーゴは特務曹長から少尉に昇進。

 アリスは少尉から中尉に昇進。

 そして俺は、大佐から……少将に昇進となる。

 船団シトラスの護衛艦隊には准将官となる准将の階級がないため、いきなり将官になってしまう俺であった。


「少尉か……特務曹長って響き、好きだったんだけどなぁ」


 ニーゴが少しだけぼやく。


「その代わり、儀礼用とはいえ剣が支給されますよ。ニーゴさんの体格に合わせた専用のものです」

「マジで!? おっしゃ、燃えてきた!」

「あの、わたし軍の勉強あまりしていないんですけど、大丈夫ですか?」


 アリスが心配そうに訊く。

 中尉ともなると俺が封印される前は中隊長、もしくは機動甲冑の上級操縦士、船団シトラスの護衛艦隊では航海士、もしくは小型艇の艇長になれるほどの階級だ。

 当然本来であれば士官学校という専門の養育機関を、それもしっかりと成績をだして卒業しなければならない。

 そこを、アリスは気にしているのだろう。


「アリスさんは、マリウス艦長の副官専任ですから、大丈夫ですよ」


 と、安心させるようにクリスはいう。


「むしろ、階級がないと困るんです。でないと他の方を副官に据えないといけませんから。それは、アリスさんもいやですよね?」

「 は い ! 」


 かつてない勢いで、アリスは即答した。


「さて――」


 こちらへ振り向き、ニッコリと笑ってクリスは続ける。


「マリウス艦長は、艦隊から独立していた艦長から、私の直属になってもらいます。少将となれば一艦隊を率いるのが常ですが……それは少しの間、まっていてください。当面は、『私が座乗する雷光号の艦長』という立場でお願いします」

「……なるほど」


 それはつまり、どういうことかというと。

 クリスは、自分の座乗艦を雷光号に固定させたということだ。

 ゆえに、いままでの海賊狩り認可のためにしてきた航海以降も、クリスはここにいるということになる。


「……より指揮が執りやすいよう、少し改装するか」


 観念して、俺はそう答えた。

 これからは船団シトラスの総旗艦という立場になりかねない。

 ならば、ある程度雷光号にも指揮機能が必要だろう。


「よろしくお願いします。それと、明日の護衛部と情報部の合同会議には、マリウス艦長も出席してもらいます」


 我慢できなくなったのか、嬉しそうに一回だけくるりとまわり、クリスは続ける。


「なにせもう、マリウス艦長は将官なんですから!」


 つまりは、そのための将官か。

 俺は苦笑して、それを受諾した。


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