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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一七六話:魔王ですが、身バレしました。

『このあとは、PUIPUIモ○カー』

「嘘を言っちゃいけません!」


 船団シトラスの中枢船を奪還したというのに、クリスの顔は青ざめているを通り越して蒼白なままであった。

 無理もないだろう。

 俺が魔王という存在であることが、少なくとも他の四船団の司令官全員にばれてしまったのだから。




 タリオンの幻影が消えた後、俺達は控えていた連合艦隊員を突入させた。

 巨大な血だまりしかのこっていない艦橋最上層の検分は彼らに任せ、俺達自身は、いったん解散となったのだ。


「あー……」


 クリスの次に序列の高いエミルが全員を見回してから、面倒くさそうに頭を掻く。

 地位は総代大佐で元帥と同等とされているが、任命されたのはクリスより後になるらしい。そのため、年齢は上でも先に元帥になったクリスの方が序列は高いのだ。

 同じく同じ艦隊司令官のアステルは中将、実質的には司令官のリョウコは少将、ドゥエの提督聖女も元帥と同等であるが、あのジェネロウス騒動のあとで任命された形になるので、エミルよりも序列は低くなる。アンに到っては、聖堂聖女として軍務からは切り離された形になるので任命権はあっても指揮権はない。


「とりあえずあした、関係者のみ全員集合ってことで。場所はどうすっか?」

「広いのは揚陸戦艦『鬼斬改二』(おにきりかいに)の揚陸指揮所ですが、ここは船団シトラスの管轄です。指揮艦『コマンダー』の会議室でよろしいのでは?」


 リョウコがそう提案し、アステルとドゥエが頷いて同意する。


「じゃあそういうことで。とりあえず今日は解散だ。おつかれさん!」


 そういうわけで、俺達は雷光号(らいこうごう)に戻っている。

 気を利かせたのだろう、ヘレナから今日のところはこっちで休めとクリスに連絡を入れたらしい。

 ただ、本人の緊張はまったく抜けていなかった。


「最悪、最悪の話ですが、マリウス艦長が逮捕される可能性があります……」


 顔が真っ白なまま、クリスは言葉を絞り出す。


「ですから、今のうちにマリウス艦長は、アリスさんニーゴさんと一緒に、雷光号で逃げ出した方がいいかもしれません――ですがっ」

「そうしたら、俺達はお尋ね者になるな」


 いままでが緊張の連続だった上に、最後の最後で予想外の出来事が起きてしまったためだろうか。

 その言葉は、クリスらしくない判断だった。


「確かにその通りです……それでも、逮捕されてしまうよりは……!」

「それなら、情報を隠匿していたクリスも、責任を問われるだろう」

「私はもともと、今回の件が終わったら辞任するつもりでしたから、それはそれで構いません」


 まだ十二歳の少女だというのに、クリスは淡々とそう答える。


「ですが、いままでお世話になったマリウス艦長がそうなってしまうのは、私には耐えられませんっ。なんとか、それを回避する術を考えなくては――」

「俺としては、クリスの罷免を避ける方法を考えるべきだと思うがな。それと――」

「わたしは、そういうことをするひとたちではないと思いますよ?」


 アリスが、俺の言葉を引き継いでくれた。」


「個人ではそうかもしれませんが、司令官としての判断はそうでないかもしれないんですよ……」


 自身がそうであるからだろうか。椅子の肘掛けを握りしめてクリスはそう答える。


『どのみちよ、いまはじたばたしてもしょうがないんじゃね?』


 ニーゴが、そう助け船を出す。


「そうだな。いざとなれば――」


 強行突破でどうにでもなる。

 ただその場合、クリスも連れて行かなくてはならなくなるのが、悩みどころと言えば悩みどころであった。

 タリオンも、間の悪いことをしたものだと思う。




 翌日。


「クリスちゃん、大丈夫ですか?」

「ええ、私は大丈夫です……」


 ろくに一睡も出来なかったのだろう。

 目の下に隈を作ったクリスは、それでも昨日よりかは冷静さを取り戻しているようであった。


「マリウス艦長、貴方が作った『コマンダー』は簡単に制御下に置くことが出来ますか?」

「可能だ」

「では、いざというときは……おねがいします」


 具体的になにをとは、クリスはいわなかった。

 つまりは、万一まずい事態に陥った場合は、好きなように行動していいということなのだろう。

 念には念を入れて、雷光号を『コマンダー』に横付けし、ニーゴは艦内で待機。俺、アリス、そしてクリスで出席とする。

 そして指定された会議室に入る。

 そこには、アステル、アン、ドゥエ、リョウコにエミル、そして船団シトラスの情報部門筆頭である、ヘレナが既に着席していた。


「来たな。そんじゃあまぁ……」


 あまり気が乗らない様子でありながら、エミルが言葉を続ける。


「五船団の艦隊司令官のうち、四名から臨時船団防衛会議の要請があったため、これより開催する。要請のなかった船団シトラス防衛艦隊司令官、クリス・クリスタイン元帥。異議はあるか」

「ありません」


 艦隊司令官の正装――すなわち白を基調とし、黒と金で飾った制服に、短外衣(ケープ)、制帽に白い手袋、そして艦隊の指揮権を持つことを表す元帥杖――に身を包んだクリスは、はっきりとそう答えた。

 顔色は悪いままだが眼光は変わらず、手にした元帥杖(杖というが、長いものではない。楽隊の指揮者が持つ指揮棒のようなものだ)を皆が座る円卓の上に置く。

 これは、他の司令官達が発議した内容に異議はなく、また発言する際は嘘偽りないことを示す、一種の宣誓であるらしい。

 そのため各司令官達の前にもその指揮権を象徴するものが置かれており、

 アステルは短剣、ドゥエは小型の槌(裁定を表すらしい)、リョウコは小刀、エミルは小型化された銛を置いていた。


「よし、じゃあ早速取りかかるか。まずは船団シトラス所属、『海賊狩り』アンドロ・マリウス大佐」

「ここに」


 クリスの右隣に着席した俺が答える。

 ちなみに左隣にはアリスが着席しており、さすがに緊張した面持ちでいた。


「貴官にいくつか質問がある。まずは昨日、船団シトラスの内乱にて首謀者が発した――だぁ! もう! めんどくせぇ!」


 両手を振り上げて、エミルが吼えた。

 リョウコは顔を背け笑いを堪え、ドゥエとアステルはまたかと呆れた顔をしている。

 そしてあまりエミルのことを知らないのかアンは驚いた顔をしており、ヘレナとアリス、そしてクリスは表情を崩さなかった。

 おそらくクリスは、その余裕がないのであろうが。


「ここはオレ達だけだ。お互いの部下もめんどくさい政治のお偉いさんも抜け目のない情報機関の連中もいねぇ、形式なんざあとにして、いつもどおりにやろうぜ」

「異議はない」


 船団ジェネロウス政治の筆頭であるアン、シトラス情報の筆頭ヘレナが同席しているのにもかかわらず、エミルはそう言い切った。

 つまりは、それだけこのふたりは身内であるという認識なのだろう。


「んで、マリウス。ここはちゃんと答えてくれ。艦橋最上層にいたあのひょろながい美形、あれはおまえの知り合いか?」

「あぁ、そうだ。かつての友であり、部下だった」


 こちらもいつもの口調に戻って、俺はそう答える。


「友であり、部下か……じゃあ、こっちが重要な質問だ。()()()()ってのは、いったいなんなんだ」

「エミルさんの質問に補足致します。『陛下』の尊称はこの五船団では我が船団ウィステリアにおわすミニス王陛下のみに使用されるものです。ですから、慎重にお答えくださいませ」


 アステルが、そう言葉を添えた。

 なるほど、他の船団ではともかく、王を戴いているウィステリアにとっては、陛下の尊称は軽視できないのだろう。


「その質問に、回答するが、長くなる。いいな?」

「かまわねぇよ。こっちは十分に時間をとってあるからな」


 そうエミルが答えたので、俺は息を多めに吸った。


「では、回答しよう。まず、いままで俺が詐称してきた経歴はこうだったな。発掘品を専門に取り扱う船団出身で、その船団は海賊によって壊滅。唯一生き残った俺は、それそのものが発掘品であった船『雷光号』に乗って脱出、交易船としての活動を経て、いまに至る――」

「そうでしたね」


 リョウコが相づちを打つ。


「で、どこまでが嘘だったのよ」


 ドゥエが訊く。


「そのほとんどすべて、だ。俺自身はもともとどこの船団にも属していない。発掘品を専門に取り扱うというのはおおむね事実だが、より正確に言うのなら――その発掘品のほとんどを作ったのは、()()


 会議室が、無音になった。


「マジかよ。作ったときたか……あれらの製造年代は、どこの船団が調べても測定不能って結論が出ている。その説明はどうする?」

「そこをこれから説明する。ここからは、本当に長いぞ?」


 俺は、一から説明することにした。

 かつては海がもっと低く、陸地はもっと豊富にあったこと。

 現在は人間のみしか確認できないが、その頃は大まかにわけてふたつの種族、人間と魔族という存在があったこと。

 そしてそのふたつの種族は相争っていたこと。

 太古の昔は均衡していたようだが、ある時期は不毛の地に追いやられ、滅ぼされる寸前であったこと。

 そこから巻き返して、逆に人間を滅ぼす寸前であったこと。

 だがそこで人間も反抗し、ついに最終決戦が起こったこと。


「その最終決戦で負けたときに魔族を率いていた魔族の王、すなわち魔王が……この俺になる」

「し、質問してよろしいでしょうか!」


 アンが挙手をした。


「ああ、構わない」

「魔族とは、その人間とどのように違うのでしょうか。みたところ、マリウスさんは特にその――ひとと変わらないようにみえます」

「細かい種族によっては角が生えていたり翼があるが、だいたいは人と変わらないからな。だが、絶対的な違いがある。まず寿命が十倍ほど違うし、そして人間には使えない、魔法が使える」


 人差し指を立て、その先で光の魔法を使ってみせる。

 それだけで十分だったのだろう。会議室の空気が緊張の色を帯びた。


「――なるほどな。んで、その大昔の魔王サマがなんでまたここにいる」

「単純な話だ。魔王というのは殺してしまえば他のものに継承されるか、魔法に長けている場合は転生といって――単純にいえば、復活してしまう。だから、永劫の時のかなたへ封印してしまおう、そういうことになっただけだ」

「な、なんという……!」


 リョウコが絶句する。


「ある意味、残忍な仕打ちですわね……」


 アステルが小さく嘆息した。


「ん? ちょっとまって」


 そこでドゥエが、何かに気付いたようにアンをみた。


「姉さん、聖女聖典の三章、十二節から十四節」

「え、あ、はい……」


 急に妹に振られて驚いた様子であったアンが、ドゥエに言われた部分を暗唱しようとする。


 おい、ちょっとまて。

 それはもしや――やめろ!




□ □ □




(十二節)

 初代聖女灰かぶり(シンデレラ)はいいました。


「またあったわね、天の使い! 今日という今日は、ぼっこぼこにしてやるわ!」


 金色の鎧に身を纏い、ふわふわの金髪をふりみだして、初代聖女灰かぶり(シンデレラ)は宣言します。


「あんたなんかに、ぜったいまけない!」


(十三節)

 天の使いはいいました。


「悪いなお嬢ちゃん、あんたのやっていることを俺は止めなくちゃならない。それが人間のためになるんだ」


 初代聖女灰かぶり(シンデレラ)はいい返します。


「そんなこと知らない! あたしは、あたしをあがめる民のために戦うだけよ!」


(十四節)

「また勝てなかったわ……」


 涙目で、初代聖女灰かぶり(シンデレラ)はいいました。

 着ていた鎧はぼろぼろで、あちこちから素肌がみえています。


「し、しかもみたわね……あたしの、おっぱい!」


 天の使いは悪びれずに答えました。


「ああ。みちまって、悪かった。でもな、小さくてもいい形だったと思うぜ?」


 それは、初代聖女灰かぶり(シンデレラ)にとっての逆鱗でした。


「ば! ば! ば! ばかぁ! こここ、今度会ったら絶対許さないんだから!」




□ □ □




「初代聖女灰かぶり(シンデレラ)


 リョウコが、真顔でその名を口にした。


「ジェネロウス以外の船団では、ふわふわの金髪をした古き神……でしたわね」


 アステルが思い出すように、そういう。


「な、なんということでしょう! ま、まさか、かの初代聖女が、マリウスさんだったなんて……!」


 感極まったように、アンがいうが……いや、もう、本当にやめてほしい。


「本当に、なんということでしょう――ね」


 ドゥエが、驚きと呆れと、そしてわずかながらの悪戯心を混ぜて、そう呟く。


「……『あんたなんかに、ぜったいまけない!』」

「やめろ……! 本当にやめろ……!」


 ついに声に出して、俺は悶絶した。

 うっかりしていたが、魔王であることを明かすということは、現代に伝わる古き神であることを明かすということでもあったのだ。


 とうとう耐えきれなくなったのか、エミルが大爆笑した。



『オイラ魔王なんだがやめて、モル○ーになるわ! え、だめ!?』

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