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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一七五話:再会、友よ……


 船団シトラス中枢船。

 その艦橋、最上層。

 本来であれば船団における政治の中枢で、大きな血だまりの上に佇む、かつての友の姿があった。


「お久しぶりです、陛下。お変わりがないようでなにより」


 かつて、あの忌々しい勇者との決戦前に非戦闘員を託し離脱させた当時の姿で、我が友にして忠臣、ダン・タリオンはいう。

 そこで俺は、気付いてしまった。

 この世界が大きく様変わりしてしまっているというのに、我が友に変わりがないはずがない。

 魔族の寿命は長いとはいえ、せいぜい人間の十倍ほどしかないのだから。


「やめろ。これはただの幻影だ」


 クリス達が武器を構える中、俺は制止させた。


「ただし、向こうからは攻撃が出来る。油断はするな」

「――おや、人間に対して随分とお優しい……配下にいたしましたか?」


 立場的にいればアリスとニーゴ以外は目上のものであるし、クリスに到っては上官だ。

 だが、俺はタリオンの質問を意図的に無視した。

 いまはそれよりも、確認しなければならないことがある。


「俺のことなどどうでもいい。それより訊きたいことがある。ここにいた政治部の筆頭――船団長はどうした?」

「陛下にしては、随分とわかりきったことをお訊きになりますね……いえ、確認というものは大事でしたな。お答え致しましょう。もっとも、お察しいただけているかと存じますが――」


 そういって、タリオンは自らの足下――巨大な血だまりを見下ろす。


「この中枢船にそちらの兵がとりつきはじめたとき、亡命させてくれと言い出しましてな。そうなればもう利用価値は無いと申し伝え上で、鏖殺いたしました。死体が残るのは、美しくないものゆえ……」


 亡命させてくれ、のところでクリスが奥歯をかみしめる音が聞こえた。

 三権にわかれているとはいえ、船団長がこともあろうにその船団を見捨てようとしたのだ。その憤怒、察するに余りある。


「血の量が、人間ひとり分にしては多いようだが……?」

「鏖殺と申しあげました。すなわち、後継者などという息子共々です」


 ただの跡取りでは、より利用価値はありませんゆえ。

 そうタリオンは続ける。


「何故、船団シトラスを狙った」

「いえいえ。シトラスだけではございません」

「……なんだと?」

「これも計画の一環でした」


 両腕を広げ、タリオンは続ける。


「南の五船団、そのすべてを籠絡する腹積もりでした。船団シトラスとウィステリア、ジェネロウスにはそれぞれその首脳を揺さぶったのですが……いやはや、シトラスはともかく、ジェネロウスはひたすら手間がかかり、ウィステリアに到っては傀儡の王が傀儡のままで構わないとこちらの提案を断る始末」


 ジェネロウスの騒動には俺も関わっていたので知っていたが、まさかウィステリアにまで、その手が伸びているとは思わなかった。

 そしてそれ以上に、あのミニス王が権力への誘惑を、しっかりと断っていたことに内心驚いている。

 立派な王だとは思っていたが、まさかここまでとは。


「そこで、船団ルーツとフラットは、物理的な侵略に切り替えたのです。両者の間には、臣がしかけた箱庭がありましたので、まずはそこに両船団の主力をおびき寄せてじわじわと殲滅。しかるのち、主力が船団本体を蹂躙するはずでした。――陛下が復活されたことを知らせる、急報が届くまでは。いやまさか、いまになって本来の機能が発動するは、思いもしませんでした」


 リョウコとエミルが、ちらりと俺をみた。

 前々から今回の騒動と、例の箱庭の件は繋がっているのではないかと疑っていたが、半分正解だったようだ。


「そういうわけで、いつつの船団すべてが、臣の謀略対象となっていたのです。にしても、まさかもっともそれが進んだシトラスに、陛下が属していらっしゃるとは」

「他の船団に身を寄せていると考えたか」

「いえ、てっきり自らの船団を率いているものだとばかり。臣の知る陛下でしたら、人間の力など借りることもないと思っていたのですが……なにか心変わりでもありましたか?」


 特に俺自身が変わった憶えはない。

 あるとすれば、そう。

 アリスやクリスと、であったことだろうか。


「それで、船団を手にして、貴様は一体なにをしようとしていた?」

「なにをとは?」

「俺の知る限り、人間に対する恨みは貴様の方が強かったはずだ、タリオン」


 この指摘は、想定外だったらしい。

 両腕を広げたままであったタリオンが、だらりと腕を下げる。


「それは、そうでございましょう。陛下はひとりのために人間どもを恨まれた。それに対して、臣はふたりですゆえ」

「ふたり……?」


 ひとりはわかる。先の陛下――つまり、俺の前の魔王のことだろう。

 だが、もうひとりはわからない。俺が封印されていた間に、なにかがあったのだろうか。

「諸々の答えは、直接お話し致しましょう。その機会があれば……ですが」

「ならば教示せよ。貴様自身はいったいどこにいる」

「北の船団――でございます。いえ、もはや船団ではなく、海賊船団とでもいったほうが近い状態ではありますが」


 クリス達、船団の司令官達が一瞬だけざわつく。

 それはつまり、このいつつの船団にも影響があるということなのだろう。


「とりあえず、急場しのぎの計画変更ですが――船団シトラスは、陛下のものとなりました。どうぞ、ご自由にお使いください」

「いいや、俺のものではない」

「いずれそうなります」


 俺の言葉を遮って、タリオンはそういいきった。

 よくみれば、その姿は半透明になっている。


「どうやら時間のようですな。それでは陛下、ごきげんよう。……北の船団で、待っております」


 そう言い残して、我が臣にして我が友、タリオンの姿はかき消えた。

 ――しばし、言葉もなくそこに佇む。

 ようやくにして、俺は封印前の存在……我が友に会うことができた。

 しかし、その友にして臣のタリオンは、俺が封印された後、一体なにがおきたかについては話さず、ただ船団を与えるという。

 一体なにをさせようとしているか、まったくわからなかった。

 そこで、俺の手を誰かが掴んだ。

 振り返ると、アリスが――珍しく不安げな表情でこちらをみている。


「どうした、アリス」

「いえ……その……」

「マリウス艦長が、何処かに行くようにみえたんですよ」


 クリスが、言いよどむアリスに助け船を出す。


「それで、どうしますか?」

「そうだな――」


 身体ごと、後方へと振り返る。


「まずは、説明か」


 その場にいるアステル、アンとドゥエ、リョウコ、そしてエミル。

 彼女たちにどう話せばいいのか……少々、骨が折れそうだった。




■今回のNGシーン

 ようやくにして、俺は封印前の存在……我が友に会うことができた。

 しかし、その友にして臣のタリオンは、俺が封印された後、一体なにがおきたかについては話さず、ただ船団を与えるという。

 一体なにをさせようとしているか、まったくわからなかった。


「なにがQだよ!」

「マリウスさん、おちついてくださーい!」

「とういかシ○ジ君の気持ちがようやくわかった」

「きもちはわかりますけど……」

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