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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一七三話:中枢船攻略戦


 簒奪された船団シトラス中枢船は、文字通り十重二十重に包囲されていた。

 最外周を、脚の早いアステルのウィステリア高速戦艦隊が、その内側を同じく小回りの利くエミルのフラット水雷艇母艦隊、中間を艦隊構成が均等に保たれているクリスのシトラス艦隊、その内側を聖女アンとドゥエ姉妹のジェネロウス聖歌艦隊、そして最内周を揚陸戦に長けたリョウコのルーツ揚陸戦艦隊が小型艇一艘でも見逃さないよう、厳重に包囲していた。

 雷光号はというと、鬼斬アーマーをリョウコに返し、さらには各艦隊の司令官――既に中枢船に乗り込み陣頭指揮を執っているリョウコを除く――を乗せて中枢船の船渠へと向かっている。

 ここまでくるともう消化戦のようなものだが、気は緩められない。

 特にクリスは中枢船にまだ残っている船団の住民の安否が気になっているらしく、提督席に座ったまま膝の上で両手を握りしめていた。


「避難誘導計画が、しっかりと機能していれば……無事なはずなんです」


 万一中枢船が攻撃された場合に備えて、船団シトラスでは住民がどのように行動すれば良いのか、あらかじめ決めていたらしい。

 政治的、軍事的にも重要でない場所に避難用の装甲隔壁室を設け、そこに立てこもるようにしているのだという。

 内部には長期間の籠城に耐えられるよう、保存食などを完備しているというが――。

 そこで、中枢船後部、港湾部から発光信号が上がった。

 先行して揚陸していた、リョウコのルーツ艦隊からだ。


「リョウコさんから発光信号!『ひとつ目の避難所との接触に成功。住人は無事であることを確認。これより救出を開始する』……!」


 アリスの報告に、操縦室内の雰囲気が明るくなる。


「クリス、避難所の数は?」

「全部で8基です。ですから、まだ安心しきれるわけではありません……」


 とはいいながらも、そのとっかかりを得られたことはクリスの心に良かったのだろう。

 先ほどまでの、触れば割れてしまいそうな雰囲気は、幾分和らいでいた。


「続報です!『第二避難所と接触。住民は無事、救出活動開始。また、特一級大型蒸気機関の確保に成功!』」


 中枢船の文字通り心臓部分が、こちらのものとなった。

 これで、俺が心配していた――そしておそらく、クリスがもっとも心配していた――中枢船の自爆は、回避されたことになる。


「雷光号、中枢船に急げ。総員、到着次第上陸準備」


 操縦室内が、再び緊張に包まれる。




 中枢船の港湾部は、かろうじて整然としていたが、人で溢れていた。


「まもなく揚陸艦が出航します! 船首扉が閉まるのでさがってください!」

「次の揚陸艦まであと少しです。大丈夫、全員が乗れます。慌てずゆっくりと乗艦してください!」


 リョウコ麾下のルーツ艦隊による救出活動は、滞りなく行われていた。

 ここにはシトラス艦隊からの有志が加わっており、住人の心理的疑念――つまり、ルーツによる侵略ではないかという疑い――を和らげているのに役立っている。


「マリウス大佐! それに皆様も!」


 リョウコが、港湾部に設けた臨時の指揮所から駆けつけてきた。


「避難所とは、半分以上接触に成功しました。残るは――艦橋のみとなっております」

「御協力感謝致します、ルーツ少将。これより先に、同行してもよろしいでしょうか?」


 クリスが、外交に則った形式で、リョウコに許可を求める。


「もちろん認可致します、クリスタイン元帥閣下。聖堂聖女猊下、提督聖女猊下、パーム中将閣下、フラット総代大佐、そしてマリウス大佐と麾下の方も」


 昇降機を用い、全員で最上部の街へと上がる。


「リョウコさん、それで政治部の抵抗は――?」

「まったくといっていいほどありません。特一級大型蒸気機関では戦闘も想定しておりましたが、それもなく即時で降伏されましたし」


 頼みの綱の海賊が全滅したからだろうか。

 それとも、自らに武力がないことを自覚しているからだろうか。

 どちらにせよ、無駄な血が流れないのは、よいことであった。


「後は、艦橋だけですね」

「そうなりますね。あちらはさすがに、一筋縄ではいかないようですが……」


 その艦橋に、たどり着く。

 前にもみたが、超巨大な中枢船の艦橋だけあって、その規模はちょっとした城のようである。


「艦橋からの、銃撃は無しですか」


 クリスがいぶかしげに呟く。

 確かに、艦橋の各階に銃座とおぼしきものがみえたが、そのどれもが沈黙している。

 扉も窓もすべて閉じられており、人の気配もない。


「我が主」


 マリスが、不意に俺に声をかけた。


「もしお望みなら、先行して潜入いたしますが、いかがなさいますか?」

「なにが飛び出すかわからん。故にここでアリスやクリスの警護を続けてくれ」

「了解しました」


 政治の中枢というものは、基本的にあきらめが悪いのが常だが、どこか対応がちぐはぐにみえる。

 もっとも海賊を雇い入れるなど、常軌を逸した行動に出ているわけだから、正常な判断など、とうの昔に喪われているのかもしれないが。


「報告します、正面扉開きました!」


 そこで、リョウコの配下から報告が入った。


「承知しました。ではみなさま、参りま――!?」


 そこで、艦橋の最上階から何かが飛び出した。

 それは一切減速をせずに甲板に着地、素早く立ち上げる。

 ――腕が四本の自動人形。

 俺はとっさに、アリスをかばうように前へ――、

 立つ前に、アステルとアンが前へと立った。

 クリスが長銃で目に当たる観測装置を撃ち抜き、神速の抜刀術でリョウコが右側の武器を、ドゥエがあの巨大な双刃剣で左側の武器を叩き斬る。

 そして最後に、エミルの機撃銛が轟音と共に胸部に突き刺さり、自動人形はなにもすることが出来ずに、その場に倒れた。


「ご無事でしたか、我が主」

「あ、ああ」


 そう問うてくるマリスすら、少し驚いていた。

 俺自身も、驚いている。

 彼女たちの、見事なまでの連携に。


「さぁ、先へ進みましょう」


 長銃を背中に背負い直し、クリスは続ける。


「後は艦橋、その最上部だけです」


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