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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一七一話:艦隊集結!

「ぶはっ!?」

「気がついたか」


 軽く握られた雷光号の(たなごころ)の中でエミルが息を吹き返したのと、操縦室から俺が救援に駆けつけたのは、ほぼ同時だった。


「本当に悪ぃ、ドジ踏んだ! 戦況は!?」

「まずは中に入ってからだ。今も戦闘中だからな。雷光号、エミルが目を覚ました。腕を動かしてくれ」


 砲弾が飛び交う中、バスター雷光号が腕を頭部の操縦室近辺へともっていく。


「――増援か? どっからだ?」


 その砲声だけで察したのは、船団フラットの司令官である故だろう。

 目つきを鋭くするエミルに俺は答える。


「ウィステリアからだ」

十八番(オハコ)の高速戦艦か!」


 そこで操縦室の扉が開き、俺達は中へと戻った。


「お帰りなさい、マリウスさん。――ウィステリア高速戦艦隊計八隻、大きく迂回しながら紺の一七八部隊に砲撃を続行中!」

「上手いな……」


 かつて単艦で相対したときも思ったが、艦隊を組むとさらにその運用に磨きがかかっている。

 どうもアステルは、高速艦隊を用いた相手の攪乱が得手であるらしい。

 現に、士気こそ低下していないものの、紺の一七八以下九隻は完全に手玉に取られていた。


「水雷艇群、離脱完了! 赤の一〇八、一〇九、紺の一七八艦隊の援護に入ります!」


 水雷艇の猛攻をかいくぐった二隻が、アステルの艦隊へと砲口を向ける。

 いくら機動力のあるアステルでも、二方面からの砲撃を捌くのは厳しい。

 だが――。

 その一〇八、一〇九が、大量の水柱に包まれた。


「なんだいまの!? どっからだ!?」


 エミルが驚きの声を上げる。

 方角的に、アステルのウィステリア高速艦隊ではない。

 では一体何処が……?


「なんだ――?」

「マリウスさん?」


 アリスが怪訝な声を上げる。


「歌が……聞こえる」


 人間に魔力はない。

 だがそのとき、俺はかすかにだが、聞こえたのだ。

 あのとき、アリスと、クリスと、皆で――。


「南方より発光信号!『船団ジェネロウス、法と秩序を鑑み、参戦致します』」

「ジェネロウス!? 一番遠いのにかよ!?」


 エミルが驚きの声を上げる。

 確かにジェネロウスはシトラスからもフラットからも遠い。

 ――いったい、どうやって。

 そう思う間もなく、俺に魔力で通信を試みるものがいた。


『よかった。繋がりましたか』

『マリスか!』


 これで先ほど歌が聞こえた理由がわかった。

 マリスを通して、艦橋から響く歌が聞こえていたのだ。

 俺は即座に、その通信を雷光号経由にする。

 これにより情報共有が、飛躍的に高まるからだ。


『船団ジェネロウス、旗艦『白狼(はくろう)』以下七隻、南方より制圧前進を開始致します。提督聖女ドゥエ・ブロシア曰く、援護不要。各艦隊は己が責務を全うせよとのこと』

「やるのかよ、あれを!」


 エミルが歓声をあげる。

 やがて、宣言通り南方から七隻の戦艦が現れた。

 単横陣を敷き、左右に三隻ずつ同型艦を従えて前進するのは、提督聖女、そして聖堂聖女座乗の戦艦『白狼』。

 その艦隊は、アステルの高速艦隊とは対照的に整然と、そしてゆっくりと確実に、前へと進んでいく。


「まて、あれでは敵艦の砲撃に――」

「まぁみてろって」


 エミルがそういった直後、赤の一〇八と一〇九が前傾姿勢を取った。

 両肩に搭載された巨大な砲身がわずかに動き、次の瞬間轟音が鳴り響く。

 それはただの砲撃ではない。

 魔法で威力を増幅させた、強装砲とでもいうべきものであった。

 おそらく、バスター雷光号でも直撃すればただでは済まないはずだ。

 いわんや『白狼』では――。


「弾いた!?」


 巨大な銅鑼――戦艦大の超巨大な銅鑼だ!――を打ち鳴らしたかのような轟音が鳴り響き、強装砲の砲弾を弾いた。


「なんという――」

「リョウコんとこの刀をみたことあるだろ。あの徹底的にこりまくっているやつ」


 とエミルが解説してくれる。


「ジェネロウスはな、それの鎧版みたいなところがあるんだよ。聖女サマを守るためにゃ、なんとしてでも撃ち抜けないようにしなくちゃってな」


 いうことはわかるが、めちゃくちゃな話であった。

 もしその技術を雷光号に応用したら、その防御力は飛躍的にあがるだろう。

 そうこうしているうちに、ジェネロウス艦隊から再度主砲が斉射される。

 撃破するつもりで強装砲を放った赤の一〇八と一〇九は、身動きがとれない。

 つまり、あとは白き七八のみ。


『それなんだけどよ!』


 雷光号が切羽詰まった声を上げる。


『さっきから回避しまくっているけど、徐々にかすりはじめたぞ! なんとかしてくれ大将!』


 そう、先ほどから強襲形態のバスター雷光号はずっと防戦に回っている。

 白き七八の武器が光帯剣二本になったため幾分は有利になったが、それでも撃破するにはもう一押し必要であった。

 だが、その問題も解決するだろう。


「マリス、ジェネロウスを動かしたのは誰だ?」

『解答します。船団ルーツ護衛艦隊司令官、リョウコ・ルーツ少将です』


 その回頭と同時に、待避していたシトラス・フラット連合艦隊の後方に、新たな艦隊が現れる。

 中心にいるのは、見慣れた艦影の――揚陸戦艦『鬼斬改二(おにきりかいに)』だ。


「後方より発光信号! 『遅れて申し訳ない、マリウス大佐、エミル総代大佐、そしてクリス元帥! 船団ルーツ、大恩に報いるため、ここに参戦致しますと同時に、他の船団を説得して参りました!』」

「そういうことかよ、リョウコ――!」


 エミルが嬉しそうに呟く。

 以前、リョウコであれば今回の変事にすぐにでも駆けつけてくるだろうと俺達は予想していた。

 しかし、実際にはこちら側が仕掛ける段階になってもリョウコの艦隊は到着しなかった。

 だが、その代わりに――ウィステリアと、ジェネロウスの艦隊を引き連れてきたのだ。


「ルーツ艦隊、わたし達の艦隊を抜けて中枢船に向かっています」

「直接乗り込む気だな」

「だろうな」


 エミルと同じ結論に達する。

 紺をアステルが、赤をドゥエとアンが抑え、白をこうしてバスター雷光号が引きつけている以上、最良の艦隊運用であった。

 と、そこで……。


「――アリスさん」


 アステルが参戦してから、ずっと沈黙を保っていたクリスが、口を開いた。


「発光信号。それぞれを『ステラローズ』『白狼』『鬼斬改二』へ同時に」

「了解しました。文面をどうぞ!」


 依然バスター雷光号は回避行動中である。

 そして各艦隊は、それぞれがそれぞれの艦隊機動を展開している。

 それでもアリスは、それぞれ三隻に発光信号を送る用意を調えていた。


「『各艦隊へ、感謝します。あなたたちの、義と、法と、恩に!』」


 そこでクリスは、大きく息を吸った。


「『――五船団の命運は、この奪還戦にあり。各艦隊の武運を祈る!』 ――マリウス艦長!』

「なんなりと」

「揚陸戦艦『鬼斬改二』と指揮艦『コマンダー』を前進させます。あとは――任せてもよろしいですね?」


 それだけで、クリスが何をしたいのか、俺には手を取るようにわかった。

 なので、俺は敬礼を返し――。


「心得た」


 はっきりと、そう答えた。

 あれだけ細かった勝ち筋は随分と太くなり——いま、俺の目の前にあった。


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