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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一六八話:戦艦に! オイラはなる! (ドン!!)

「いや、あの……ちょっとまってください」


 雷光号(らいこうごう)の操縦室。

 俺が計画のだいたいを話し終えたところで、クリスはとまどいがちにそんな声をあげた。


「どうした?」

「その、驚くべきところが多すぎて、ちょっと情報処理が追いつかないというか……」

「もう一度最初から説明するか?」

「お願いします。今度は途中で何度か質問しますので」

「了解した」


 俺は、表示板の映像を最初のものに戻した。


「まず、輸送潜水艦を解体し、資材にする。それはいいな?」

「はい」


 クリスの後方で同席している、アリス、ヘレナ、エミルが頷く。

 ちなみに潜水艦に乗ってきた乗員は無事残存するシトラス艦隊を合流を果たし、同乗したクラゲたちは俺の指示により、船渠で輸送潜水艦の解体準備を進めていた。

 元々資材として使うこと前提で建造したので、俺以外でも作業を進められるように造ってあったのだ。


「例によって造るのは俺だが、その完成予想図がこれだ」

「そこです。早速訊かせてください」


 その図を見せた途端、クリスは質問させろとばかりに挙手した。


「何故雷光号が二隻の戦艦に挟まれているんですか?」

「挟まれているわけではない。装着しているんだ」

「そ、装着……?」


 クリスの後で、エミルが理解できないとばかりに首を大きく横にかしげた。

 その隣では、ヘレナが苦笑している。

 唯一、アリスだけが興味津々といった様子で静かに俺を見守っていた。


「雷光号の装甲は元々戦艦並みだ。なので、必要なのは戦艦と同等の打撃力となる」

「しかし、それでは効率が悪いです」


 そこは司令官として、確認しなければいけないのだろう。

 俺だって、そう思う。


「図を見る限り、雷光号は二隻の戦艦に挟まれています。そして砲塔はそれぞれの船体前後に一基ずつ。二隻あるため中央背負い式にできなかったのはわかりますが、これでは各主砲塔の射界が狭いのでは?」


 クリスの指摘は、的確だった。

 クリスの『バスター』や俺達の雷光号もそうだが、軍艦の主砲というものは出来うるかぎり効率的に置くことが求められる。

 その最適解は、船体の中心に段差をもって並べること。これにより、正面から左右へと、幅広い射界を得ることができる。

 例を挙げると、二門の主砲塔二基を段差をもって艦橋前方に設置するとしよう。

 すると、前方に計四門、左右にも四門ずつ砲塔を向けることが出来る。

 艦橋後方にも二基ずつ同じようにおけば、前方四門、左右八門、後方四門を相手に向けることができるわけだ。

 これがクリスのいう中央背負い式の利点となる。

 しかし、雷光号の左右に挟み込む形で船体を追加するとなると、その手は使えない。

 また、背負い式にすると主砲塔の位置が高くなるため、元々雷光号が装備していた主砲の射界が制限され使いにくくなる。


 そこで、俺は考えた。


 艦の大小にかかわらず、砲塔というものは甲板にポンと乗っかっているものではない。

 その下に円筒形の弾薬庫や稼働部分があり、それが丸ごと動くことによって、砲塔は旋回するようになっている。

 なら、こうすればいいのではないか。

 その砲塔部分を上下させることにより、状況に応じて効果的な射撃が出来るのではないか――と。


「つまり、左右計四基の主砲塔は、状況に応じて高さを変えることができる。これで効率の良い射界を得ることが可能だ」

「な、なるほど……?」


 クリスはいまいち、飲み込めていないようであった。


「いってることはわかるが、なんかおかしくね?」


 エミルが小さな声で呟いた。


「まぁまぁ、マリウスくんのやることはいつも突飛だから」


 ヘレナが同じく小声で答える。


「つまりだな」


 映像で主砲塔がうごくさまを、俺は見せることにした。


「前方を射撃するときは、後方の主砲塔がせり上がって、擬似的な背負い式となる。これで全火力を前方に集中できるわけだ」

「そして後方の場合は、逆のことをすると……左右の場合はどうです?」

「簡単だ、たとえば右舷側に火力を集中させたい場合、左舷側の主砲塔二基をせり上げればいい」


 映像の中で、左舷主砲塔がせり上がり、右舷方向へと旋回した。

 このために雷光号に装着する船体は主砲塔以外、余計な装備を施していない。

 ――内蔵兵装はその限りでないが、それはまた追々説明しよう。


「これにより、この状態の雷光号は、前方に三門四基、計十二門、左右にも十二門、そして後方にも十二門、主砲を向けることが出来る。これならば、背負い式よりも効率的だろう」

「そ、そうですが……」


 考え込むように、クリスが口ごもる。

 おそらく、実際に運用する場合の利点、欠点を頭の中で羅列しているのだろう。


「オレからも、ひとつだけいいか?」


 エミルが後方から挙手をする。


「戦艦二隻を挟むのはいいけどよ、一隻だけでみると細すぎねぇか? ウィステリアんとこの『ステラローズ』だってここまで細くねぇぞ?」


 エミルが言いたいのはこういうことだろう。

 戦艦は、その船体を細くすればするほど、その速力があがる。

 だがその分、横揺れに弱くなる。

 ただの船ならまだなんとかなるが、こちらは戦うための軍艦だ。

 そのため、横方向に射撃した際の反動にも備えなければならない。

 おそらくエミルは艦単体での復元性――揺れに対する対応力――に疑問を持っているのだろう。

 その指摘に誤りはない。

 たしかに、単艦での運用を考えた場合、その復元性は恐ろしく悪い。

 おそらくだが、主砲を横方向に斉射すれば転覆する場合があるだろう。

 ただし、単艦での対応を考えたのなら、の話だ。


「でもよ、リョウコの時のこと考えると、分離することも視野に入れてんだろ? それとも合体状態だけのことを考えているのか?」

「当然の指摘だな。だが――そうだな。クリスがこの計画を承認すれば数日で答えはわかるだろうよ」

「ならオレはなにもいわねぇよ。んで、どうするんだ? クリスタイン」


 その場の視線が、クリスに集中する。


「……いままで、私はマリウス艦長に助けられてきました」


 その視線を正々堂々受け止めて、クリスは続ける。


「そして今も、これまで以上に助けてもらっています。それがどんなに突飛なものであったとしても」


 アリスが、ほっとしたように胸をなで下ろす。


「ですから――私は、マリウス艦長を信じます」


 そういって、クリスは俺を正面からみつめた。


「本計画を承認します。マリウス艦長は、至急計画の遂行にあたってください」

「心得た」


 クリスに敬礼を返し――封印から解かれた直後なら、ありえないことだった――俺はそう答える。


「数日中に、結果を出してみせよう」




 ふ。

 ふは。

 ふはは。

 ふはははは!

 ふははははは!

 ハハハハハハハ!

 ハーハッハッハッハァ!

 それからどうした!




「雷光号から発光信号、準備よしとのことです」


 真新しい通信士席から、アリスがそう報告した。


「よし、船渠扉を開け。雷光号、微速前進」

「了解。船渠扉開放。雷光号、微速前進してください」


 船団フラット中枢船『偉大なる轟(グレート・ゴゥ)』の船渠から、改装を終えた雷光号が、ゆっくりと進水する。

 その姿は、一言でいうと三胴船であった。

 正確には中央の雷光号本体は喫水線上にあるので、双胴船という形になる。

 そう。雷光号は別に二隻の戦艦に挟まれているわけではない。

 巨大な双胴船の中央に、収納されている状態なのだ。

 これにより雷光号本体左右の船体よりやや高めに位置しており、従来の主砲、速射砲はそのまま使えるようになっている。


「調子はどうだ。雷光号」


 アリスと同じく真新しい()()()で、俺はそう呼びかける。


『機関、兵装、異常なし。確認するとこ増えたからちょっと面倒くさいかな。でも良い感じだ。それよりよ――』


 俺達の艦に斜め前方に位置を取り、少し不安そうに、雷光号は続ける。


『大将たちがそっちにいるのが、なんか落ち着かねぇや』


 雷光号のいうとおり、俺達は雷光号の()()()にいない。

 新造艦の()()に、関係者全員と詰めていた。

 雷光号の操縦室に入るには大人数だったことと、その仕上がりを見やすいように配慮したためである。


「この試験が終わるまでだ。それが済んだらすぐに戻る」

『わかった! そんじゃその試験とやら、さっさと済ませようぜ!』

「よし。アリス、試験を開始する」

「了解しました。無人水雷艇『リトルバスター1』から『リトルバスター9』、標的の曳航を開始します」


 アリスが報告しながら発光信号を打ち込むと、既に配置についていた無人水雷艇群が、その機関を全開にした。


「まずは集中状態。雷光号前方を通過せよ」

「了解しました」

「雷光号、照準は任せる。標的が前方ぴったりになったら、撃て」

『あいよ! 任された!」


 九隻の無人水雷艇が、密集状態で標的を曳航する。

 当然、九基の標的も密集したままだ。

 ここで、雷光号の後部新主砲塔が一斉に上方へせり出し、前方へと旋回した。

 三門四基、計十二門。

 密集した状態での火力はいかほどのものか――!


『主砲、いま! いけっ!』


 斜め前方の雷光号から、轟音が響いた。

 次いで巨大な水と火の混じった巨大な柱があがる。


「標的、全基消滅! 命中です」

「次段用意。今度は散開し、雷光号右舷側を通過せよ」

「了解しました。『リトルバスター10』から『リトルバスター18』、散開して標的の曳航を開始します」


 アリスの報告と同時に、今度はばらけた状態で無人水雷艇が航行を開始する。


「雷光号、先頭の標的が右舷真横についたら撃て。今度は難しいぞ」

『やってやんよ!』


 右舷側後方の主砲塔が元の位置に戻り、今度は左舷側前方の主砲塔が上へとせり出す。

 ただし、さきほどと違って各主砲はそれぞれが微妙に照準を変えている。

 曳航される標的は九基、主砲は十二門。

 一基一門当てれば三門分余裕があるとはいえ、ことはそう単純ではないが……。

 雷光号の主砲塔群が、一斉に火を噴く。

 今度は十二の水と火の柱が、ほぼ同時に立ち上った。


「標的、全基消滅! 全弾命中です!」

「よし。最後だ、俺自身が操作する。雷光号、自分がいけると思ったときに撃て」

『おうよ!』


 操縦装置――に、みせかけて俺の魔力――で、『リトルバスター19』から『リトルバスター27』が散開する。

 今度は完全に進路がばらばらとなり、雷光号を前方から半円状に包囲するように進軍する。実戦では、ここで手にした長銃を撃っているところであろう。

 対する雷光号はというと、すべての主砲塔を同じ高さに戻すと、それぞれがばらばらに標準をさだめ――やはり同時に撃った。

 その瞬間、俺は全水雷艇を急速回避させる。

 これで当てにくくなるはずだが――。


「標的、全基消滅! 全弾命中です!」


 アリスが、やや興奮した声で報告した。

 どうも、雷光号は俺の考えを読んでいたらしい。

 それぞれの砲塔のそれぞれの砲の仰角を変え、微妙に着弾範囲を広げていたのだ。

 本来であれば、副砲――雷光号本体の主砲――で撃ち漏らした標的を撃破してもらうつもりであったのだが、それ以上の戦果であった。


「試験終了。――クリス、どうだ?」


 そういって、俺は艦長席から後方の提督席へと振り向いた。


「申し分ありません。申し分ありませんが――」


 新しい提督席が慣れないらしく、わずかに座り直してクリスは続ける。


「この艦は、いったいなんなんですか?」

「ああ、説明がまだだったな」


 そういって、俺は艦長席から立ち上がる。


「この艦は指揮艦『コマンダー』だ。火力は自衛程度しかないが、防御力は戦艦と同等、そして指揮能力は――」


 艦橋を見回して、俺は続ける。

 そこには船団シトラス護衛艦隊関係者、船団フラット関係者がほぼ全員詰めている。

 だが、それでもまだ広さに余裕がある。

 そもそもアリスが座っている通信士席もあと二席あるし、艦橋後方には巨大な表示板が設置されていて、かなりの広範囲の海域を随時表示し続けていた。

 というのもこの艦橋、船体の横幅とほぼ同じ幅を持っている。長さも船体の四分の一近く、従来の旗艦よりもはるかに指揮能力を保てるようになっている。


「みてのとおり、その気になれば中枢船の指揮機能とほぼ同等の規模を持つようになっている」

「それは、設備をみていてなんとなくわかりました。それより気になるのは――」


 膝の上に揃えた両手を軽く握り、クリスは続ける。


「何故、この指揮艦『コマンダー』は、雷光号と同じ大きさなんですか?」

「それも今から説明しよう――いや、実演しよう」


 そういって、俺は艦長席に座り直した。


「雷光号――いや、『バスター雷光号』分離せよ」

『あいよっ!』


 その声と共に、バスター雷光号がやや喫水を下げた。そしてその中心部分から、雷光号が離脱する。


「『コマンダー』を前進させる。立っている者は揺れに注意せよ」


 そういいながら、俺は艦長席にある臨時用の操舵装置――なにせいま、操舵手がいないので――で、『コマンダー』を微速前進させた。

 雷光号が完全に離脱し、その空いた部分へ俺は『コマンダー』を進める。


「アリス」

「はい。『コマンダー』、『バスターアーマー』と合体します」


 アーマーとは、クリス達の使う古代語で鎧を指す。

 これに併せてリョウコの『鬼斬(おにきり)』の合体部分も、『鬼斬アーマー』と改称する予定であった。


「合体位置まであと3、2、――いま!」


 アリスの報告で、俺は『コマンダー』を停止させた。

 同時に『バスターアーマー』自体が『コマンダー』を認識し、左右から固定する。

 そこで、軽い浮遊感が俺達の身を包んだ。

 合体した『コマンダー』が、『バスター雷光号』と同じ喫水線上へと上昇したからだ。


「合体完了しました! 機関、兵装、異常なしです!」

「合体完了状態。艦名変更。『コマンダー』から――『バスターⅡ』へ!」

「了解。これより当艦は『コマンダー』から『バスターⅡ』となります」


 俺は、静かに艦長席から降りた。

 そして振り返り、提督席へと歩み寄る。


「クリス。これが新たな船団シトラスの旗艦だ。遠慮なく使って欲しい」


 クリスは、すぐには答えなかった。

 その顔には、驚きと、喜びと、そして戸惑いの表情が行ったり来たりしている。


「まったく、もう。マリウス艦長はいつもいつも、私の予想の斜め上を行くんですから……困ったひとです」


 一瞬、ほんの一瞬だけ泣きそうな貌になって、クリスはいう。

 だが次の瞬間には司令官の顔になると、提督席から立って、俺に敬礼をした。


「戦艦『バスターⅡ』確かに受領しました。感謝します、マリウス艦長」

「お褒めにあずかり、恐縮です」


 俺も、敬礼を返す。

 そこでアリスが大きく拍手をし――バスターⅡの艦橋内は、関係者の拍手によって包まれたのであった。

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