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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一六七話:戦艦に、ならないか?

『数は揃えられるって?』

「ああ、なんとかな」


 雷光号の操縦室内で、俺はそう答えた。

 現在その場には俺以外は席を外している。

 クリスは現在、エミル達と船団シトラス中枢船奪還戦の調整中であり、アリスは本来の司令部要員がウィステリアに避難しているため、ヘレナやドロッセルと共にクリスの補佐にあたっていた。


『紺色のはどうにかなりそうなんだろ』

「そうだな。それは現有の戦力でどうにかなる」


 無人水雷艇の雷撃を露払いとし、すぐ後方に有人の水雷艇の精密雷撃、そしてさらに後方から雷光号を含む大型艦の一斉射撃。

 いかに機動力のある海賊でも、これだけの火力を浴びれば、ひとたまりもあるまい。

 だが――。


「問題は、北に陣取る三隻だ」


 赤く、両肩に巨大な大砲を設えた赤の一〇八、一〇九。

 曰く侵攻戦ではその大砲を使用せず、手持ちの長銃のみで参加したと聞く。

 そして指揮艦とおぼしき、白き七八。

 こちらはなにもせず、ただ指揮に徹していたそうだ。

 それぞれの戦力が未知数というのは、不気味なことこの上ない。


『どうするんよ、それ』


 不安そうに、雷光号が訊く。

 他ならぬ自身が、危険だと警告したのだ。

 おそらく誰よりもこの三隻の戦力を把握しているのは確かだろう。


「これ以上の数は、揃えてもあまり意味がない」


 陸上でいうところの野戦、海上でいえば通常の艦隊戦であれば、数を揃えれば揃えるほど有利になる。

 が、攻城戦――それも味方の城を救うための救援戦――となると、攻撃地点が限定されるため投入できる戦力には限りが出てくる。

 これは俺、クリス、そしてエミルの計算がそれぞれ一致したためほぼ間違いがないといっていい。


「だから、個々艦の戦力を増強するしかないな」


 既に、貫通力を増した徹甲弾の配備は進めている。

 やや弾頭部分が貴重だったが、勝たねば意味がないので四の五の言っていられない。

 とはいえ、全体の底上げをしても通常の艦では海賊と直接戦うのは厳しい。

 そうなるとやはり――。


「あとは、お前の改造と強化だ」

『そうなるよな』


 クリスもいっていたが、保有戦力で最大となるものは、間違いなくこの雷光号だ。

 高度な知能を持たない方の海賊であればエミルやクリスでも対応可能であるが、そうでない海賊が相手の場合、どうしても雷光号が矢面に立たねばなるまい。


「ああ。それでだ」


 俺は操縦席から身を乗り出し、雷光号に尋ねる。


「雷光号、戦艦になってみないか?」


 返答までに、しばらく時間がかかった。


『……マジで?』

「マジだ」

『マジかよ……ついに戦艦か』


 感慨深そうに、雷光号が呟く。


『んで、どう改造すんの?』

「いや、今回お前自身は改造しない」

『なんで』

「ルーツの『鬼斬改二』との、合体機構を残しておきたいからというのがひとつ。もうひとつは、戦艦になると大きすぎるというのがあるからな」

『あー。大将と嬢ちゃん、それに小さい嬢ちゃんだけだもんな』


 さりげなくクリスも頭数に入れて、雷光号はそういった。

 実際、クリスが同行してからの方が長く感じるのも確かな話だ。


『でも戦艦になるんだろ。どうやって?』

「わかりやすくいうと、戦艦を装着する形になる」

『戦艦を装着』


 端から聞くとまるで意味のわからないものになるが、現在計画しているものを一言を表現するとなると、どうしてもこうなるのだ。


『でもよ、それって今ある資材でできんの?』

「ほう?」


 雷光号の思わぬ質問に、俺は片方の眉をあげた。


『わりぃ。オイラが訊くことじゃなかったわ』

「いや、続けてくれ。実に興味深い」


 改造について、それを受ける雷光号から意見を述べるというのは、非常に好ましいことであった。


『んじゃ訊くけどよ、戦艦って火力も大事だけど、耐久力も大事だろ?』

「ああ、その通りだ」


 そこに気付くとは、実に素晴らしい。


『だけど、ここの資材って、いっちゃ悪いけど普通の資材じゃん? どうすんの?』


 ふ。

 ふは。

 ふはは!


「その通りだ。良く気付いたな」


 雷光号の言うとおり、現在の船団フラットにある資材では、普通の戦艦しか建造できない。

 それはそれで通常の運用なら問題がないが、海賊と戦うことを考えると、出来うることなら雷光号と同じ――つまり、海賊と同じ強度の資材が欲しい。


『大将なら対策を考えていると思うけど、どうすんの?』

「それはだな――」


 俺が説明しようとしたときのことだった。


(『おはなし中のところ申し訳ないが、いいかね?』)

「――来たか!」


 魔力による通話を感知して、俺は操縦席から飛び降りる。


「雷光号、船渠の伝声管から司令部に繋いでクリス、ヘレナ、エミル、それにアリスを呼んでくれ」

『あいよ』

「あと船渠の水密扉を開放。そこに資材が届くから受け取る準備を進めてくれ。俺は迎えに出る!」



■ ■ ■



「輸送潜水艦……? いつのまにそんなものを」


 クリスが驚き半分、呆れ半分といった様子でそう呟いた。


「設計図を情報化して送って、向こうで造らせたものだがな」


 船団シトラスが隠し持つ、海底工場。

 ここは推定だが魔族が遺したものであり、そこで製造される資材は雷光号のそれに勝るとも劣らない。

 問題はどう運び出すかであったが……。


「資材を丸ごと潜水艦にして運ぶたぁ、妙なこと考えるな」


 こちらは完全に呆れた様子で、エミルがそう呟いた。


「水中から発進することと、万一水上で見つかって工場を位置を特定されることを考えると、この方式しか思いつかなくてな。それに――」

「海底工場に待機させた保安要員をこちらに移動させる。閉鎖空間に長時間居ると、精神的に参ってしまうものね。助かるわ、マリウス君」


 ヘレナが俺の言葉を引き継いだ。

 その通りで、あの工場に人間を置いても、防衛という面ではたいして役に立たない。

 それならば全種族をこちらに移動させてしまえば、問題なかろう。

 そのように俺は考えたのだった。

 そう、全種族。


『向こうさんから通信がきた。つなげるぜ』


 雷光号から声が響く。


「ああ、たのむ」

『あいよ。――《船渠の位置を特定した。これより浮上する》』

「船渠側、準備は出来ている。やってくれ」

『《了解しましたー! 資材のお届け、おまたせしましたー!》』


 聞くだけでは渋い男の声と、妙齢の明るい女の声が響く。

 そのどちらもが、クラゲであるのだが。

 そう、海底工場に住み着いていたクラゲと、船団ジェネロウスで謀略を編みだし、俺達に破れ護送されたクラゲ。

 その双方を、俺は呼び寄せていた。

 どちらも問題児だが、資材などの管理能力はめざましいものがあるからだ。


「くるぞ」


 ほどなくして、船渠の水面を割り、潜水艦が浮上する。

 時間がなかったので、円筒形の船体という単純な造りであったが、問題は無かったようだ。


「って、ちょっとまて」


 エミルが俺に声をかける。


「でか……でかくね?」


 ゆっくりと浮上した潜水艦は、そのまま船渠の傾斜に乗り付け、ゆっくりと格納されていく。

 ただ、正面から見るとそれは一部分しかみえない。

 なにせ大きさが――。


「通常の戦艦、一隻分あるからな」


 そのまま潜水艦として利用する手もあったが、なにぶん水中から攻撃する手段が体当たり以外思いつかなかった。

 なので、ここから解体して戦艦として再建造するという、少々手の込んだやり方にせざるをえなかったのだ。


「前にも箱庭とやらでもいったけどよ」


 船渠に格納されたその巨体を見上げて、エミルが呟く。


「そこまでするやつがあるか」

「すまんな」


 前と同じように、俺は答える。

 なにぶん、性根は変えられない。


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