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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一六五話:その名も白き〇七八

 船団フラット中枢船『偉大なる轟(グレート・ゴゥ)』作戦立案室。

 海図を広げる大きな机の上に偵察用の魔法で取得した画像(を紙に写したもの)を並べ、俺達は関係者を集め今後の協議をはじめていた。


「この偵察用の発掘品だっけか? めちゃ便利だから売ってくんね?」


 実のところは俺の魔法のことなのだが、混乱を招くことは必定なので、そういうことにしている。

 が、人間にとって便利あることは変わらないわけで――。


「構わないが、高いぞ。使い捨てだしな」


 ということにしている。


「使い捨てか――そいつは面倒だな。ここぞというときに出し惜しみしかねねぇ……それならいいや、大量に見つかったら連絡をくれ。まとめて買うからよ」

「わかった。それよりも――」


 紙に写した画像に目を落とす。

 確認された海賊九隻を割り出すと……。

 まず、紺色の六隻。

 これは雷光号と同じ大きさで、長銃を装備している。

 長銃といっても雷光号級の海賊が使うわけだから、その威力は侮れない。

 長銃身であることを考えると、おそらくその貫通力はかなり高いだろう。

 実際、大破着底したバスターを観察すると、装甲を貫いた小口径の弾痕が目立っていた。


「ドロッセル、実際に交戦してみてこいつらの射撃頻度はどれほどだった?」

「速射砲程度。三隻同時に弾幕を形成されると、とても不利」

「やはりそうか」

「しかもそちらの雷光号とほぼ同等の機動力だった」

「洒落にならないな……」


 おそらく単艦であればそれほど脅威ではあるまい。

 回避範囲を含めた飽和砲撃をおこない、強襲形態の雷光号でとどめを刺せば難なく撃破できるだろう。

 だが、これが三隻で組んでいるとなると話は違ってくる。

 散開されてしまうとこちらはそれ相応の戦力を用意しなければならないし、かといって密集したまま艦隊戦に持ち込めば、その機動力と貫通力の高い弾幕で、こちらが撃破されてしまう。


「だとすれば――」


 クリスが、現時点での保有戦力が書かれた一覧を手に声を上げる。


「散開したまま扇状雷撃(せんじょうらいげき)による広範囲攻撃――でしょうか」

「あるいは、犠牲覚悟で超接近戦からの投げ縄で足を止めるか、だ」

「あの戦法か……」


 それは、あの箱庭で初めてエミルと出逢ったときに目にしたものだ。

 相手の足下にまで接近戦を仕掛け、投げ縄で足を封じ、あわよくば倒す。

 そしてあとは必殺の銛を発射すれば仕留められるというわけだ。

 だがもちろん、この戦法も危険が伴う。

 一対一でさえ危険なのに、三対多数の乱戦では、なにが起こるかわからないからだ。

 それを勘案すれば――。


「クリスの戦術の方が、有効だろうな」

「だな」


 あっさりと、エミルは引き下がった。


「オレの艦隊をよくみているじゃなねぇか。やるな、クリスタイン」

「エミルさんだけじゃないですよ、リョウコさんのも、ドゥエさんのも、そしてアステルさんのも、みんなみています」


 と、クリスは返す。

 おそらくそれは、自らの経験が足りない故、クリス独自の勉強方法だったのだろう。

 それがこうして役になっていることを考えると、喜ばしいことであった。


「んじゃまぁ、水雷艇を大量積載(ガンづみ)する方向で行くか」

「もうはじめますか?」


 ずっと側に付き添っていたエミルの側近、ユウザがそう尋ねる。


「ああ。頼む」


 その言葉で、この場にいた何人かのフラット艦隊の幹部が一礼してから退出した。

 おそらく、配下への通達と準備にとりかかったのだろう。


「後はこの赤いのと白いのか……メアリ、ドロッセル、この三隻は戦闘に参加したか?」

「赤いのは参加したわ。でも、肩の大砲は撃たなかった」


 ある意味舐められていたんだろうけど、そのおかげで逃げ切れたのよね、あたしたち……と、悔しそうにメアリが答えてくれる。

 どうも、赤い機体は紺色の機体と同じく、手にした長銃のみで戦闘に参加したらしい。


「そして、白いのは動かなかった――と」

「そいつが旗艦だろ」

「でしょうね」


 エミルとクリスが断言する。

 俺も、同意見だった。


「ところでこれ――」


 じっと画像をみつめていた、クリスが気になったというように声を上げる。


「肩のところになにか文字が書いてありますね。所属でしょうか」

「いや、それは数字だ。まぞ――古代の数字だな。紺色のは――」

「一七八と書いてありますね。赤いのは一〇八、一〇九でしょうか」

「読めるのかアリス!?」

「この前教えてくれたじゃないですか」


 確かに、箱庭に迷い込んだときにアリスに頼まれ、魔族の文字を教えてはいた。

 いたのだが……。


「この前のは、ほんのさわりだけだったはずだが……」


 そのあとは、箱庭攻略が本格化してそのままになっていたはずだ。


「はい。なのでその間自習していました!」


 ――嗚呼、もしこの場に前の陛下がいらっしゃったら、たいそう喜んだことだろう。

 アリスがもし魔族であったのなら、俺より善き魔王になれたに違いない。


「そして白いのには、七八と書いてあります。あの……あっていますか?」

「ああ、全部正解だ。すごいな、アリスは」

「ありがとうございますっ!」


 本当に嬉しそうに喜ぶ、アリスであった。


「んで、この旗艦がマリウスからみるとヤベぇんだな?」

「ああ。俺も持っていない発掘品を装備していると思われる」


 背中に装備された、刀身のない剣の柄。

 それはおそらく、雷光号大の光帯剣であろう。

 急げば作れないこともないが、なにぶん資源を多く使うことになるし、なによりニーゴが扱いきれるかどうか、気になるところが多い。

 だが、相手が装備している以上、何かしらの対策は急務であった。

 さしあたっては――。


「大将、その白いやつなんだけどよ」


 そこで珍しく、ニーゴが口を挟んだ。


「後で話をさせてもらえねぇか。大将、嬢ちゃん、それに小さい嬢ちゃんだけで」

「……わかった」


 戦闘中にニーゴが口を挟むことはあるが、立案中では極めて珍しい。

 それ故、今回の会議では紺色の六隻対策だけをまとめて、俺達は雷光号へと帰還した。




『まず、大将達がみてきたアレだけどよ、間違いなく紺の一七八、赤の一〇八と一〇九、そして白き七八で間違いねぇと思う』


 雷光号の操縦室で、ニーゴは早速話し始めた。


「よもや、知り合いか?」

『いや、オイラとが格が違いすぎてあったこともねぇ』

「その辺も詳しく頼む」


 そういえば、ニーゴと出逢ったときから、知性のある海賊の話はほとんどしてこなかった。

 滅多に人前には現れず、遭遇した場合、知性のない海賊より凶悪であるということ以外、俺達は詳しく知らない。


『そんじゃ、そこからな。まずオイラの元の名前は、二五九六番だ』

「そうだったな」


 そのあと船の名前として雷光号、そして鎧姿の人間としてニーゴと名乗るようになっていたが、元はその名前であった。


『数字、四桁あるだろ。これって一番下から二番目ってことなんよ』

「ちょっとまて、ということは一〇〇〇〇番代の海賊もいるのか?」

『いる。完全に下っ端扱いだけどな』


 機動甲冑が一万機以上。

 それは、俺が封印される前の魔王軍よりも、多い。


『まぁそいつらは海の中で見張りしてたりえっと哨戒だっけ? そういうのばっかりやっってる。オイラたち一〇〇〇番代は、なんていうかな、ひとりで好き勝手に暴れるって感じかな? まぁつるむことはねぇ』

「一〇〇番代から、統率のとれた動きをとるということか?」

『ああ、そうだ。ひとりひとりはオイラ達一〇〇〇番代とそんなに変わんないから、一対一なら気合いを入れればどうにか勝てる。でも、相手は組んで仕掛けてくるからそいつをどうにかしないといけねぇ』

「やはり分断作戦が有効というわけだな」


 先ほどの会議でも、その方向で話は進んでいた。

 水雷艇を出せるだけ出して銛による飽和的な雷撃を行い、相手の足を乱れさせる。

 そして雷光号が突出してひとつずつ確保撃破する。そういう流れになっている。


『ただ、一〇八と一〇九は、だいぶ一〇番代に近い。そいつがちとばかし不安っちゃ不安だな』

「そうなるな」


 製造番号が進むほど強くなるという想像をしていたが、どうも逆であったようだ。

 当人にとってはあまり気持ちのいい話ではないかもしれないが、いずれ製造に関することも訊かなければならないだろう。


『でだ。こっからが大事なんだけよ――』


 珍しいことに、声に緊張感――いや、おびえか?――を含ませて、雷光号は続ける。


『七八番は、やべぇ。以前のオイラだったら絶対に勝てねぇし。今のオイラでも、自信がねぇ……』

「それは、鬼斬雷光号になってもか?」


 リョウコの揚陸戦艦『鬼斬改二』と、雷光号は合体することが出来る。

 それにより、近接戦闘性能が大幅にあがるのだが……。


『一対一なら、やばいままだな。七八番に増援がなくて、オイラに味方がたっぷりいれば――いけるかもしれねぇ』

「なるほど」


 どちらにしても、いまこの場に『鬼斬改二』はない。

 リョウコに、船団ルーツに援軍を要請し、到着するまで待っている間、相手の戦力が増強されるとさらに洒落にならなくなる。


「ちなみに、どう洒落にならない?」

『前に、血の気の多い一〇〇番代がそいつに喧嘩ふっかけるんのみたことあるんよ』


 当時を思い出すように、雷光号は続ける。


『一〇〇番代がどんな攻撃をしてもな、まるで元から()()()()とわかってるみたいに、よけるんよ。前とか後とか関係ねぇ、まるで全周囲に目があるみてぇに』

「――そこまでか」


 それは俺が次世代の機動甲冑に取り入れようとした、全周囲表示板の操縦室を思い起こさせる。

 かなり費用が嵩むので、財務担当の配下からは何度も注進を受けたものだが――いまとなっては、いまさらか。


「つまり――」


 話を聞いていたクリスが、口を挟む。


「北に陣取る三隻――人型だから三機ですか?――は一切無視して、南東と南西の計六隻を先に片付けなければいけないということですね」

『そういうこったな。万一北の三機が増援に来たら、オイラは逃げることを勧めるぜ』

「ということは、奇襲も含めなければいかんということか……」


 そして戦力の増強も、手配しなければならないだろう。

 そもそも、北の三機もどうにかしなければいけないのだから、対策を考えねばなるまい。

 奪還戦までに、やることが次々と増えていくが――そのどれもを片付けないと詰んでしまう。

 そこが、悩ましいところであった。


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