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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一六三話:オレたちもまぜろよ

「よぅ」


 船団フラットの中枢船に帰還すると、港には両腕を組んだエミルが待っていた。


「どうだったクリスタイン、船団シトラスは」

「そこまで到達しませんでした。バスターの大破着底位置を確認したくらいで」

「そうか……でも、これからなにをするのかは、決めたんだろ?」

「ええ。もちろんです」


 お互い艦隊の司令官であるからだろうか。

 その行動指針は手に取るように把握しているふたりだった。


「となると当面は――艦隊再編、それが済んだら強行偵察、んでもって奪還作戦といったところか」

「そうなりますね。なので私はこれから船団シトラスの関係者と協議に入ります」

「おう」


 ひとつ頷いて、エミルは歩き続けるクリスと歩調を合わせた。


「……エミルさん?」

「お、なんだ。いわせる気か?」


 にやりと笑って、エミルは続ける。


「オレもまぜろよ。正確には、オレ達もまぜろよ、か」


 クリスの足がぴたりと止まった。

 当然ながら、関係者である俺達も止めざるを得ない。


「ま、まってください。これは船団シトラスの問題です!」

「クリスタイン達だって、オレらに首突っ込んできただろ」

「あれは遭難救助だからです! 今回は内乱みたいなものなんですよ」


 実際には既に内乱なのだが、クリスは『みたいなもの』と付け足した。

 おそらく、心の何処かでそれを認めたくないのだろう。

 もっともそこから逃げ出さないだけでも、その心は十分強かったが。


「内乱だろうが遭難救助だろうが、困っているときゃお互いさんだろ。ちがうか?」

「そうかもしれませんが、場合によっては私達が叛乱軍扱いされるかもしれないんです。そうしたら、エミルさんたちはおろか、船団フラットそのものに累が及ぶかもしれないんですよ!?」

「そうだな」


 エミルは、こともなげにそう答えた。


「でもまぁこれな、オレだけの考えじゃないんだわ」

「え?」


 クリスが聞き返したときである。

 俺達は、フラットから借りている酒保の一室に到着した。

 エミルが意味ありげに、その扉を開ける。


「こ、これは――」


 そこで待っていたのは、数少ない船団シトラスの関係者だけではなかった。

 船団フラットの艦隊に属している高級幹部とおぼしき人員が少し狭そうに直立不動の姿勢で整列していたのだ。


水母巡(水雷艇母艦巡洋艦)艦長以上、全員揃っています」


 扉の側に立っていたエミルの腹心である大男、ユウザが報告する。


「おう、数えたとおりだな」


 軍の頂点にいる者の経験というものであろう。

 エミルは一目で数え上げていたようだ。


「悪いが、先にいいか。クリスタイン」

「え、ええ……」


 クリスの方が階級も高い上に司令官に就任したのも早いはずなのだが、このときばかりはエミルの放つ気迫に押されていた。


「ありがとうよ。――全員(おまえら)、聞いてるな?」

『押忍!』


 部屋を揺るがさんばかりに、野太い声が綺麗に揃って響く。


「何人かは知っていると思うが、船団シトラスで内乱が発生した。護衛艦隊は司令部と艦隊が分断され、旗艦は大破着底した。まずは民を守るために散っていったシトラスの護衛艦隊員に対し、総員黙祷!」


 全員が(かかと)を一斉に鳴らし、後ろ手を組んで目を閉じる。


「黙祷、やめ! さて、全員(おまえら)に問う。もし船団の首脳部(ヘッド)乱心した(ラリった)らどうする?」

『殴ってでも止める!』

「よくいった! オレはこの通りついこの間まで遭難していた。それを助けたのはシトラスのクリスタインとマリウスだ。ならオレ達船団フラット艦隊がやるべきことは?」

『受けた恩は必ず返す!』

「そのとおりだ! これより全艦隊をふたつに分ける! ひとつはオレ達船団フラットの防衛! もうひとつは――船団シトラスに与力し、中枢船奪還を助ける! 異存のあるやつはこの場で申し出ろ!」


 誰も、何も言わなかった。


「よし! ルーツに関してはもう何も心配はいらん、一切を気にするな。あと足の速い水母巡(水雷艇母艦巡洋艦)を三隻用意しろ。それぞれをルーツ、ジェネロウス、ウィステリアに向かわせ、事の次第を伝えに行け!」


『押忍!』


 踵が一斉に打ち鳴らされ、重低音が響き渡る。


「二十四時間後に艦隊編成の詳細を通達する。三十六時間後に作戦開始だ。それまでの間、酒でも女でも好きなようにしとけ! 以上、解散!」

『押忍!』


 踵と野太い号令がほぼ同時に響き、フラット艦隊の幹部達は、一糸乱れぬ足取りで部屋から出て行った。

 後に、残るのはあまりのことに呆然としたシトラス関係者と、俺達だけだった。


「そういうわけだ」


 俺達に向き直って、エミルはにかっと笑う。


「船団フラットは船団シトラスの中枢船の乗っ取りを行った政治部を叛乱軍とし、自らの犠牲を厭わず民の避難を最優先とした護衛艦隊に正統性があると判断した。他三船団に対し、同様の通知を行う。ウィステリアとジェネロウスはともかくリョウコのことだ、おっとり刀で駆けつけてくるだろうよ」


「い、いいんですか。そんな大事なことをこんな簡単に決めて」

「構わねぇよ」


 あっけらかんといった様子で、エミルは続ける。


「同じ飯を食った仲だ。そうだろ?」


 クリスは、虚をつかれたように瞬きをした。

 そして年相応の少女のように頷く。

 だが、それも一瞬のことで、一呼吸もおかずにまっすぐにエミルに向き直ると、


「御協力感謝致します。エミル総代大佐」


 いつも以上に綺麗な敬礼を返した。

 対するエミルも、踵を鳴らして敬礼を返す。


「この銛をお貸し致します、クリスタイン元帥。船団シトラス解放の、その日まで!」




■今回のボツシーン

エミル「船団シトラスの首脳部は民を守る護衛艦隊を切り捨てた……”普通の賢い奴”はどう考える?」

艦長A「奴ら罠でも仕掛けているのでは?」

艦長B「あの……もう少し様子を見たほうがよろしいかと……」

艦長C「死地にホイホイ飛び込むなど愚の骨頂」

艦長D「いのちをだいじに」


エミル「では、船団フラットなら?」

艦長ABCD「 ブ ッ 殺 す ! 」

エミル「それでこそ船団フラットの艦隊だ!」



魔王「怒られるからそろそろやめろ」


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