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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第七章:船団シトラスの簒奪

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第一六二話:船中為政者問答

 深夜。

 俺はひとり、雷光号の操縦室に座っていた。

 もとより睡眠の必要が無い俺である。

 それでも気分転換にはいいことと、アリスやクリスと生活習慣を合わせた方がいいと判断して普段は自室で休むようにしていたが、この夜は違っていた。


 ――懸念事項がある。

 今回の船団シトラス簒奪、あまりにも潮合いが良すぎる。

 まるで俺達がタリオンの箱庭を出たのを見計らって勃発したかのように感じられてならないのだ。

 なにより、相手が知性のある海賊というのが気に入らない。

 いままで遭遇した知性の無い海賊は人間が魔族の機動甲冑を模倣したものの成れの果てだが、知性がある方は魔族の機動甲冑から進化したものと思われるからだ。

 だとすれば、そこに魔族が関与している可能性は、かなり高い。

 そういえば――タリオンの箱庭攻略直前、管理者の機影は最後に何処かへ信号を送っていた。

 そして、我が忠臣ダン・タリオンがまだこの世界にいる。

 俺が封印されて何年経ったのかいまだにわからないが、彼はまだ健在なのだというのなら、それらがすべて、点と線で繋がっていないだろうか。

 そんな気がしてならない。


 居住区から操縦室への扉が静かに開けられた音で、俺は思考を中断して振り向いた。

 視線の先にいたのは――だいたい想像できたが――クリスだった。


「気分はもういいのか」

「ええ。おかげさまで」


 寝間着姿のまま、クリスは慣れ親しんだ提督席へと座った。


「アリスさんのおかげで、ぐっすり眠ることが出来ました。といっても一日に色々ありすぎて、妙に頭が冴えてしまいましたが」

「それはしかたあるまいよ」

「ですね。だから、ここに来ました。……マリウス艦長こそ、寝ないんですか?」

「知っての通り、俺は――」

「私の勘違いだったらすみません。なにか、思い詰めているようでしたので」


 俺は内心で苦笑した。

 傷心のクリスでさえ気付くほど、俺は考え詰めていたらしい。

 この様子では、アリスにはとっくのとうに気付かれているだろう。


「今回の件は、俺が原因かもしれない。そう思ってな」

「たとえそうだとしても、マリウス艦長が気に病む必要はありませんよ」

「だが――」


 それで船団シトラスは大変なことになっていると続けたかったのだが、クリスは先を言わせなかった。


「いいですか」


 寝間着姿のまま前屈みになり、こちらを上目遣いで見上げて、クリスは続ける。


「マリウス艦長が原因だとしても、それに乗ってこの騒動を引き起こしたのは、あのぼんくら政治部です」


 いままでも軽口のような調子で自らの行政府を揶揄するクリスであったが、今回ははっきりと憎悪の感情を込めていた。


「私達船団シトラスがなぜ三権をわけているかを忘れ、自ら武力を欲し、あまつさえ中枢船のみに腐心して、本来より重視すべきそのほかの船を軽んじた。これだけでもう、私が逆賊の汚名を着てでも討つ理由には十分なんです」

「だが、その原因がなければこんなことにならなかったのかもしれない」

「たらればですよ、それ。そして、原因に悪意があろうと無かろうと、乗った時点で為政者失格なんです」


 本当に頭が痛そうにこめかみを揉みほぐしながら、クリスはなおも続ける。


「これで、船団シトラスはもう、いままでのような政治形態でいることはできなくなりました。この騒動をうまく収めたとしても、新しいやりかたを考えなくてはいけません」

「クリスが、国家元首になってしまえばいいのではないか?」


 俺はわりと本気であったのだが、クリスには冗談に聞こえたらしい。


「馬鹿をいわないでください。私はどこまでいったって、軍艦乗り(ふなのり)ですよ」

「俺は冗句のつもりでいったわけではないのだがな」

「私よりもヘレナ司書長の方が適任ですし、ヘレナ司書長よりも――いえ、いまはいいです。とにかく、マリウス艦長は気に病まないでください」

「ああ、そうしよう」

「どうしてもというのなら、船団の奪還に全力を注いでください。いまとなっては、この雷光号が船団シトラスの最大戦力なんですから」

「そうだな、その通りだ」


 再編までにどれだけ時間がかかるかわからないが、当面の間はたしかに雷光号が旗艦となるのだろう。


「約束しよう、この騒動を片付けることに、全力を注ぐと」

「よろしくお願いします。――ふぁ……いけませんね。安心したら眠くなってきました」

「それはよかった。俺も、寝るとするか」


 クリスとの会話を経て、俺にのしかかっていた懸念は、いくらか軽くなっていた。


「そうですね。マリウス艦長にとっては気分転換くらいですが、それでも睡眠は大事ですよ、きっと――」


 そう言ってクリスが提督席を降りた途端、小さな足音が響いた。

 それはまるで、操縦室への扉の前から、自分の部屋へと急いで戻っているかのようである。

 もちおん足音は、できるだけ立たないよう工夫してはあった。

 だが、俺とクリスにとっては、十分聞き分けできる音量ではあったのだ。


「いまのは――」

「アリスさんですね」


 お互い、口の端に笑みを浮かべる。


「マリウス艦長、朝になったら、フラットに着く前にアリスさんにお礼を言いましょう」

「そうだな、そうしよう」


 俺も、操縦室を降りる。

 ふりかえって操縦室からみる海は、静かに凪いでいた。

「ニーゴです。ここで意味もなく一句。


 みんなして

  忘れてるけど

   オイラいる


まぁこういうときゃ黙っているのがセオリーってもんだけどな! 」

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