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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一五九話:帰還、歓待、そして不穏。

■I字バランスできる?

「できますよ? はい」

「——アリス。年頃の娘がいきなりするんじゃない」

「わ、私もできますよ」

「クリス、対抗するんじゃない」

「なぁ、大将、オイラも何故かできたんだけど、どうなってんの? 鎧だろ、オイラ」

「フッ、よくぞ聞いてくれたな。それは股関節を引き込み式にしているからだ」

「引き込み式」

「しかも装甲と連動するようにしてある」

「装甲と連動」


「ちなみに、マリウスさんはしないんですか?」

「俺がして嬉しいやつはおるまいよ」

「(いるんですけどね、私を含めて何人か)」


 揚陸戦艦『鬼斬改二(おにきりかいに)』揚陸指揮所。

 俺達はそこで、帰還に伴う最後の打ち合わせをしていた。


フラット(ウチ)から寄っていけって、な!」

「いえ、是非我らが船団ルーツからお願い致します」


 箱庭の外に出たということもあって、少し気が緩んだろう。

 エミルとリョウコが、そんな言い合いをしている。

 だが、俺としてはもう方針が決まっていた。


「エミルにはすまないが、リョウコの方からだ。方角的にルーツ、フラット、シトラスと行きたいからな」

「ありがとうございます!」

「行って戻っちゃ、さすがにワリがあわねぇか。わかったよ」


 おそらく本気でこっちを先にというわけではなかったのだろう。

 エミルはあっさりと引き下がった。


「んじゃ、オレらはこの海域で待機するわ」

「先に戻っていても構わないが」

「そういうわけにもいかねぇよ」


 おそらくそれは、船団フラットの流儀なのだろう。

 それならば、俺からいうことはなにもなかった。



■ ■ ■



 そういうわけで、リョウコの『鬼斬改二』と共に船団ルーツへと向かう。

 その間エミルを待たせるわけだが、幸いなことにルーツとフラットの船団間は、他の船団――シトラスとウィステリア、ウィステリアとジェネロウス、そしてジェネロウスとルーツ――のように数日から十数日かかる距離では無く、おおよそ半日ほどであった。

 これだけ近いからこそ、両者が争っていたのではないかと思うが、いまは黙っておこうと思う。


「『鬼斬改二』より発光信号。『まもなく船団ルーツ』だそうです」


 船団ルーツの中枢船に到達した途端、祝砲が立て続けに放たれた。

 事前に哨戒していた小型艦とやりとりしていたことを加味しても、ものすごい歓待ぶりだった。


「御曹司が! 御曹司が生きておられた!」

「御息女-! ご無事でなによりです!」

「救出活動をおこなった雷光号に敬礼! 少将閣下を生きて連れ帰ってくださった雷光号の全乗組員に敬礼!」


 中には泣き崩れている者もいる。

 その気持ち、わからなくもなかった。


「すごい歓待ぶりですね……」

「後継者が生きて帰ってきたんだ。こうもなろう」

「ですね」


 いまいちぴんと来ていないアリスであったが、俺とクリスにとっては痛いほどよくわかった。

 程度の差こそあれ、組織における後継者問題とはそれほど重要なものなのだ。

 ゆえに、報酬も莫大なものになった。


「かなりの金額……のようにみえるのだが」

「はい、商船だったら数隻は買えますよ」

「軍艦だって、戦艦は無理だとしても雷光号と同じ規模なら一隻分はありますね、これ」

「そこまでか……」


 アリスとクリスの解説を聞いてから、目録をしまう。

 正直、それだけの額の現金を貰っても、扱いに困る。

 そもそも、雷光号に積み込んだらそれだけで大荷物となる。

 なので――。


「なんと――それでよろしいのですか?」

「ああ。大金を持ち歩いてもどうにもならんからな」


 俺が提示したのは、現金の代わりに船団ルーツにある古文書の写しを貰うことだった。

 その作業は短期ではできないであろうから、今度寄港したときまでとしてある。


「確かに我々の船団はウィステリアの次に古い船団ですが……その、あまり歴史の編纂に興味はなくて……代わりに、戦略・戦術の研究は盛んですが」

「それで構わない」


 たしかに船団ルーツの戦い方は、独特すぎて体得には相当の時間がかかりそうである。

 しかしそれを研究するとしないとでは、大きな差が生まれてしまうだろう。

 それに、いくら歴史の編纂に興味がないとしても、まったくないわけではあるまい。

 ――重臣タリオンがいまも何処かで生きているという事実を得た以上、いかなる手段を用いても歴史を知る必要があった。

 俺が封印されてから、この世界に何があったのか。

 いまは断片でも、それが知りたい。


「……マリウスさん?」

「――ああ、少し考え事をしていた。すまない」


 アリスの声で、我に返る。


「それでは、担当の者にはその旨を伝えておきます。あとは、免状を」


 リョウコにいわれて、俺は海賊狩りの免状を出す。

 すると彼女の後に控えていた者が恭しく印を差し出し、それを受けてリョウコが免状に判を押す。

 これにより、俺は五船団中四船団で自由に航行できるようになったわけだ。


「感謝する」

「いえ、こちらこそ。なにからなにまでお世話になりました」


 深々と頭を下げる、リョウコ。


「このお礼は、必ず」




■ ■ ■




 船団ルーツを離れ、箱庭のあった小島へと向かう。

 もう箱庭へ入る機能は停止しているので問題は無いはずだが、まるで新たな遭難者を防ぐように、エミルの水母戦艦『轟基(ゴゥベース)』は鋭く静かに佇んでいた。


「よぉ、早かったじゃねぇか」

「いつまでもまたせるわけにいはいかないからな」


 リョウコのところほどではないが、エミルの艦にも負傷者はいる。

 幸いなことに、アリスの初期対応と箱庭内での環境の改善で、至急搬送が必要な者はいなかったが。


「ほんじゃま、いくとすっか」

「ああ」


 『轟基(ゴゥベース)』先導のもと、雷光号は船団フラットへと舵を切った。


「船団フラットはどんなところなんでしょうね?」


 楽しみといった様子で、アリスがそう呟く。


「船団の形としては、シトラスとあまり変わらないですよ。ただ、住んでいる人のしゃべり方が独特です」


 と、クリスが解説してくれる。


「そういえば、どことなく独特の言い回しがあったな」


 操縦席で、俺。

 あれはなんというか、魔族諸族の方言とも異なっているように思える。


「エミルさんたちは、まだ他の船団と交流がありますから、わかりやすい方なんです」


 少し頭が痛そうな様子で、クリスがそう指摘する。


「若い水兵達、特に船団の外に出たことがないひとたちは、本当にすごいんです」


 クリスがいったことは、正しかった。




■ ■ ■




 船団フラット。

 その中枢船『偉大なる轟(グレート・ゴゥ)

 中枢船に名前がついているのも初めてだったが、それ以上に――、


「偉大なる轟って、なんだ……」

「さ、さぁ……」

「深く考えない方がいいですよ」


 そして中枢船の名前以上に難解だったのが――。


「アレかよ! お嬢(ヘッド)を生きて連れて帰った(フネ)ってのはよ!」

「おう! なんでも水雷艇(バイク)一隻(いちだい)積ま(のせ)ねぇので実行した(ブッコンだ)ってよ!」

「マジパネェな!」

「マジパネェだろ!」


 最後のやりとりが特にわからなかった。


「すまんクリス、訳してくれるか」

「マジが本当、パネェはすごいって意味――らしいです」

「なるほど」


 魔族であれ人間であれ、孤立した環境に置かれると独自性をもちはじめるものだが、船団フラットはそれが顕著であるようだ。

 そして――。


「お嬢!」

お嬢(ヘッド)!」

「お嬢が帰ってきた」

「マジパネェ!」


 エミルの人気がものすごく高かった。

 ルーツでのリョウコの人気もすごかったが、あちらは当初こそ盛り上がったものの、あとは静かに仕えることをよしとしていた気風があったので整然となっていたのに対し、こちらはもう徹頭徹尾お祭り騒ぎとなっている。


「おかえりなさいませ、エミル様」


 中枢船『偉大なる轟(グレート・ゴゥ)』の港湾部でエミルを出迎えたのは、山のような体躯の大男だった。

 女性は水着、男性は上をはだけている者が多いいつつの船団の中、この大男は軍服を着込んでいる。

 それでいて、あせひとつかいていなかった。


「帰ったぜ。待たせたな、ユウザ」


 ユウザと言われた大男は、ニカッと笑う。

 エミルと近い地位にあるだけあってか、その言葉はわかりやすい。


「なんの、エミルお嬢様なら不運に(ハードラックと)巻き込まれる(ダンスっちまう)ことはないと踏んでいましたから」

「は! こいつめ」


 ――前言撤回。


「でもよユウザ」


 顔を引き締めて、エミルは問う。


「ちょいと盛り上がりすぎだろ。なにかあったか?」

「ええ……」


 ユウザも顔を引き締めて――何故かそこで、クリスをみた。


「ちょいと騒動が起こって(トラブって)まして……こちらに」

「――隠し港か?」

「ええ、皆さんもどうぞ」


 なんでそんなものがある。

 そういいたいのを堪えて、エミルたちのあとをついていく。

 どうも、隠し港というのは中枢船に住んでいる者達からはみえないように設えているらしい。

 エミル曰く、血の気が多い連中がぶちきれないように、なんらかの事情で損傷を負った艦船はそこで停泊させるのだそうだ。


「こちらです」


 ユウザが、俺達を隠し港に招き入れた。

 ニーゴの動きが、一瞬止まった。

 アリスが、静かに息を呑む。

 俺も、思わず目を見開いた。


「なぜ――この艦がここにある」


 その艦は、この世界でも今時珍しい帆船だった。

 全長は雷光号と同じくらいであったが、全幅はその半分に近く、そのため快速性が高いようにみえる。

 実際、雷光号と速さの勝負を競い合った仲だ。

 『暁の淑女号』――いや、いまは『超! 暁の淑女号』か。


 だが、俺はこの艦と乗組員達に、船団シトラス内外の監視を依頼した。

 何かあったときに、それを真っ先に見つけ、護衛艦隊に知らせるという非常に重要な役どころだ。

 なのに、いまは船団フラットに停泊している。

 ……つまり、船団シトラスになにかがあった……?


「――クリスっ!」


 俺と同じ結論に到ったのだろう。

 彼女のその顔は、明らかに血の気が引いていた。


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