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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一五七話:この上ない吉報


 鬼斬雷光号(おにきりらいこうごう)の腕を伝い、大破した機影の機動甲冑に乗り移る。

 光と雷の魔法を帯びた刀で両断されたせいか、表面の温度は高く、所々で蒸気と黒煙を噴き出していた。

 頭部にたどり着き、面頬部分を蹴り飛ばす。


「生きているな?」

『……ぎりっぎりってところですがね』


 あちこちが焦げた機影が、黒煙を吐きながらそう答えた。




『いやー、完膚なきまでにやられましたねぇ……そうだとは思っていましたが、やはり()()でしたか』


 あれだけの激闘を経た後だというのに、機影の口調はいつも通りだった。


「その件について、貴様に訊きたいことがある」

『手早くお願いしますよ。なにせあんまり保たないもんですから』


 声が固くなってしまう俺に対し、機影は皮肉気な口調を崩さずに言葉を返す。

 それは、ある意味ありがたいことではあった。


「ではまずは……貴様の製造者は、ダン・タリオンだな?」

『――えぇ、そうですよ』


 この迷宮は、『タリオンの箱庭』と呼ばれている。

 その根幹は、中に入る者の身体を魔法で縮小させるひとつの装置だ。

 使い道は、製造者が好きなように設定できる演習場、もしくは対象を閉じ込める巨大な罠。

 今回は後者としての運用だったが、それを造り、設置できる者は俺をいれてもそう何人もいない。


「タリオンは……我が臣下、ダン・タリオンは生きているのか!?」

『亡くなったという連絡はうけてませんねぇ……』

「本当だな?」

『この後に及んで嘘はつきませんよ』

「そうか――そうか!」


 それは、いままでの旅の中で最大級の収穫だった。

 ――生きている。

 我が臣下が、いまも何処かで生きている……!


「次の質問だ。この箱庭は、なんのためにある?」

『だいたい想像がついていると思いますがねぇ……封印が解けた魔王がここを訪れたら、それが本物かどうかを確かめ、確定したら連絡をする。そのためだけに存在しています。――ああ、もう確定した情報は送ってしまいましたので悪しからず』

「どこだ!? どこへ向かって送った!?」

『知りませんよそんなの。【○○したら××せよ】と作られたボクらが、どこの誰に情報を送ったかなんて、わかるはずもないでしょう? いってみれば、ボクはただ狼煙をあげただけ。それを受け取るのは先方の仕事です』

「たしかに、そうだな……」


 そのように単純な造りであれば、機構は長期間誤動作を起こさずに稼働し続けることができる。

 タリオンらしい堅実な設計だ。

 心から、そう思う。


『あー、そろそろ限界なんで、あとひとつくらいでいいですかね?』


 再び黒煙をうっすらと吐いて、機影がそういった。

 先ほどから気になっていたが、機動甲冑の頭部から一歩も外へ出ようとしていない。

 それはつまり、身体がもう動かないということなのだろう。


「では最後の質問だ。この箱庭は役割を終えたのだろう。なら、このあとどうなる?」

『別にどうにも』


 機影の返答は、簡素だった。


『いまから貴方がここの管理者です。壊すなり活かすなり、好きにどうぞ』

「そうか。それは――助かる」


 ここで散っていった者は相当数に及ぶ。

 その場所を破壊するのは、どうも忍びなかった。


『組み上げた卵形の鍵があるでしょう? あれが制御装置のようなものです。使い方は逐一説明しませんが、貴方ほどの者なら、どうにかなるでしょうよ』

「つまりそれを使って脱出しろということだな」

『ですからあとはご自由に。おっと、そろそろ時間のようです』


 機影が大きく、息を吐くような仕草をした。

 生物とはかけ離れた姿ではあったが、そういうところはまるで生き物のように動く。

 それがまた、タリオンの作品らしかった。


『それでは()()、ごきげんよう。この先なにがあるかはわかりませんが、どうかご壮健で』

「なにか、言い遺したいことはあるか?」

『なにをいうかとおもえば、随分とご温情なことを……ですが……そうですねぇ……』


 機影が、溜息をついた。

 それは長い間、この箱庭に存在し続けていたことを思わせるような、深い重い溜息であった。


『……あー、アリスさんの大きなおっぱいと、クリスさんの柔らかそうなおしりにはさまれたかったわ~』

「最期にいいたいことがそれか――っ!」


 機影は、返事をしなかった。


「――機影?」


 機影は、返事をしなかった。


「……そうか。それが、本心だったのだな」


 うかつなことに、一体いつから稼働していたのかを、聞きそびれてしまった。

 だがそれはきっと、俺達魔族の感覚でも長い時間であったのだろう。


「ご苦労であった。ゆっくり休むがいい」


 久々に魔族式の敬礼をする。

 本来魔王はそれを受ける側であるが、俺自身がするとそれは、散っていった兵士達へと送る最上級の弔いとなるのだ。

 蹴り飛ばした面頬に魔力を流し込み、元の形に戻す。


 俺は静かに、踵を返した。

 視線の先には、鬼斬雷光号が静かに佇んでいた。


「アリス、聞こえるか」

『あ、はい! なんでしょうマリウスさん』


 ニーゴが気を利かせてくれたのだろう。

 アリスの声が艦から響く。


「発光信号を頼む。リョウコとエミルの艦を呼んでくれ」

『了解しました!』


 俺はこっそりと肩を鳴らす。

 これから、生き残った者すべてを、この箱庭から脱出させる仕事が待っていた。

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