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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一五六話:鬼斬雷光号・抜刀!


 その瞬間、誰もが言葉を発しなかった。

 最近は俺のやることにすっかり驚かなくなったアリスすら、目を丸くしてこちらをみている。

 さすがに、誰も合体機構を作ったとは思いもしなかったのだろう。

 だがこれで雷光号は予備の魔力炉と直結し、その機関出力を二倍に。

 推進器を増やし、傾斜をかけた装甲によって対砲撃性を向上。

 いまは残弾が少ないため戦艦の大口径主砲が使えないが、剣とは別に大ぶりの刀をそなえることによって、接近戦能力を大幅に向上し――、


『なんじゃこりゃあああああ!?』


 ――当の本人が、一番驚いていた。


『身体が軽い!? 合体したから重くなってるはずなのに軽い!? どうなってんだこりゃ!?』

「機関の出力が上がったからな。――! さがれ、鬼斬雷光号(おにきりらいこうごう)!」

『おう!』


 小気味よい加速が身を包む。

 そして先ほどまで鬼斬雷光号が立っていた場所を、斬撃が通り過ぎた。

 どうも機影の方はさほど驚かなかったようだ。

 あるいは、余裕がなくなったことに気付いたか。


『これならやれる――やれるぜ、大将!』


 いままで片手で持っていた剣を背部に格納し、もう片方の手で持っていた刀を、両手で構えて、鬼斬り雷光号は深く腰を落とす。


『せいっ!』


 打ちあうこと、一合、二合、三合。

 今度は打ち負けたり、よろめいたりすることはなかった。

 ただ――。


「五分五分、か……!」


 機影の自動甲冑も、その足取りはしっかりしていた。

 計算上は過剰出力になると踏んでいたのだが、そんなことはなかったようだ。


『んん……あいつもはええなぁ……』

「たしかにそうだな」


 半月状の関節など、俺からは理論だけが先行しているようにみえるのだが、そうでもないらしい。

 あとは、流線型の装甲だが、それとみてわかるような継ぎ目がないのがもどかしい。

 これを斬るには、それ相応の技量が必要だが――。


『……なぁ、大将。この形態で、鞘ってねぇの』

「あるにはあるが……」


 背部から、帆柱を変形させた鞘を射出する。

 すると鬼斬雷光号はそれを受け取り、静かに納刀して……構えた。

 ――これは、リョウコの抜刀術か!

 そこへ折良く、鬼斬の前半部分――揚陸艦『鬼斬』といったところか――から、発光信号が届く。


「リョウコさんからです! 『ニーゴさん、線です。もっとも綺麗な線を描くことを考えるんです。あなたの腕なら、それができるはず』!」

『もっとも綺麗な線――そうか』


 行く先々で剣を習っていたことが活きてきたらしい。

 ニーゴが鞘を手に持ち、静かに構える。


『大将、めっちゃふかすぜ? いいな?』

「ああ。おもいきりやれ。総員、安全帯を怠るな」


 アリスとクリスが、それぞれの席に自分が固定されているかを確認する。

 ここまでだってずいぶんと振り回されてきたが、めっちゃふかすと訊いてくるほどだ。

 念には念を入れておきたい。


「俺からもひとつ」

『おう』

「貴様のその刀な、只の刀ではない」

『っていうと?』

「ほしがっていただろう? リョウコと同じものを」

『――マジかよ! 使い方は?』

「自動だ。貴様の剣の腕にあわせて、自動で解放される」

『よっしゃ! それなら――』


 鬼斬り雷光号が、再び腰を深く落とした。

 同時に、俺の魔力がものすごい勢いで消費されていく。

 直結したふたつの魔力炉が、その機関を最大にふかしていたからだ。


『いくぜ』


 直後、先ほどとは比べものにならない加速によって、俺達の身体は座席に押さえつけられた。

 水面が連続して爆発し、その上を滑るように鬼斬雷光号が突撃する。

 機影の自動甲冑が、迎撃するかのように鋭い突きを放った。

 それは正確に、俺達がいる操縦席を狙っているのがわかる。

 なぜなら、巨大な切っ先が目の前に迫ってきたからだ。

 だがそれを、鬼斬り雷光号は皮一枚で避けた。

 その直前、巨大な刀が鞘走り――あまりの速さに、空気中の水分が凝固して刀身が雲を引く。


 まさにそれは、一閃だった。


 鬼斬雷光号が引き抜いた刀が、紫電を帯びたかのように輝いている。

 いうまでもないことだが、それはリョウコの光刃刀(こうじんとう)を応用したものだ。

 刃に雷と光の魔法を凝縮させ、斬る。

 これにより金属の物理的な切れ味に加えて、凝縮された光が装甲を焼き切り、その内部を雷が壊すという、凶悪な仕様となったのだ。

 それでも、あの流線型の装甲は斬撃を弾くか、ずらす可能性を秘めていた。

 しかし――。


『――やってやったぜ』


 鬼斬雷光号の刀の腕は、確かなものであった。

 まるで時間を操作する魔法でもかけたのかのように、機影の自動甲冑の胴体に真横一文字に熱線が浮かびあがり――。

 内部から爆発が起きて、大きくのけぞる。


『おっと!』


 そのまま崩れ落ちるところを、鬼斬雷光号が支えた。


『さぁ、大将。行ってくるんだろ?』

「……ああ」


 気付いていたか。


「クリス、アリス。ここを任せる」


 俺は操縦席から立ち上がり、外へと向かう。


「わかりました」

「おきをつけて、マリウスさん」


 ふたりの声を背中に受けて、俺は外へと身を躍らせた。


 決着はついた。

 あとは機影に訊くべきことを訊かなければならない。

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