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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一五四話:最終区域、侵攻


「これで、全部だな」


 雷光号の操縦室。

 海図を広げる机の上にすべての欠片を並べて、俺はそう訊いた。


『ええ。あとはこれを組み合わせるだけです』

「ふむ……?」


 いわれてみれば、この欠片は組木細工のようにひとつの何かを分割しているかのようだった。

 何度かの試行錯誤の上――手の中で形を変えるなど、こざかしい真似をするものがいくつかあったのだ――鍵の欠片を組み合わせる。

 それは、卵のような形をしていた。


『あぁ、やっぱり組み上げられましたか』

「どういう意味だ、それは」

『どういう意味でしょうねぇ』


 すっとぼける機影だった。

 おそらく、手の中で形を変えたことを指しているのだろう。

 だがそれが、何を意味しているかはまだわからなかった。


「それであとは――!?」


 鍵全体が、ほのかに光を帯び始める。

 これは……魔力炉?

 俺のつくるそれはとは、随分と設計が異なっているようだが、まさかここまで小型化出来るとは――。


「マリウスさんっ!」


 俺の作業を黙ってみていたアリス、が珍しく大きな声を上げた。


「光の柱、目視できます!」


 アリスの指さす先、それはあった。

 あの岩の頂上でしか視認が出来ず、位置を頼りに近づいても方角を狂わされた光の柱だ。


「ようやくか……」

『ですねぇ。いやぁ――長かったです』


 再び意味深に呟く機影であった。




□ □ □




「全艦、配置につきました」


 雷光号の通信士席で、アリスがそう報告する。

 あのあと全員が各自の艦に帰り、一斉に行動を開始した。

 現在の陣形は、俺達の雷光号が中央最前、右後方に揚陸戦艦『鬼斬改二(おにきりかいに)』、左後方に水母戦艦『轟基(ゴゥベース)』となっている。


「クリス?」


 事前に打ち合わせ済みではあったが、提督席のクリスに確認を取る。


「お任せします。マリウス艦長」

「了解した。各艦、機関最大出力。微速前進」


 微速前進する場合、本来機関を全開にする必要は無い。

 しかし、何かあったとき急速な機動を求められる場合があるため、俺は敢えてそのような指示をだしていた。


『いよいよですねぇ』


 機影がそう呟く。

 それは、どういう意味なのだろうか。


「突入します!」


 全員が、それぞれ身構える。

 前回、そして前々回は中空に出現した。

 今回は――。

 振動は、ごく小さかった。

 だが、異変はあった。

 突如として、操縦室が前方に傾いたのだ。

 これは川――いや、滝?


「報告!」

「水面が傾斜しています。勾配7度!」

「す、水面が傾いてる?」


 珍しく、クリスの声が上擦っていた。

 彼女にしてみれば、いままでみていた水面といえば海だったので、傾くというのは理解の範疇を超えているのだろう。


「各艦に伝達! 全速後退!」

「了解しました!」

『って大将! 海? 海の流れがやべえ! オイラが全力で下がってんのに進んでるぞこれ!』


 雷光号がそうなのだから、『鬼斬改二』と『轟基(ゴゥベース)』はたまらない。

 さして間を置かず、雷光号が最後尾となり、両艦が前へと飛び出てしまった。


「やむを得ん、雷光号、両艦と距離を保て。機影、説明しろ――機影!?」


 そこで初めて気がついた。

 操縦室にいたはずの、機影がいない。


「雷光号、全室走査を許可する! 機影を探せ!」

『確認した! でもどこにもいねぇぞ!』


 ニーゴが声をひっくり返しかけながらも、そう答えた。


「アリス、発光信号! 『鬼斬改二』と『轟基(ゴゥベース)』に機影がいるかどうか確認!」

「それぞれから返信! どちらにもいないそうです!」


 いま、アリスは二箇所から同時に飛んできたきた発光信号を、同時に読み取った。

 それがどれだけの離れ業なのか、いうまでもない。

 ——そこへ。


『こちらですよ、みなさん』


 それは不自然すぎるくらいに、()()()()()()()


「機影の姿を確認しました! わたし達の前方に浮かんでいます!」


 アリスの報告通りだった。

 戦艦一隻分の距離をおいて、機影がこちらに向かいながら浮いている。

 距離が縮まらないのは、意図的に併走しているからだろう。

 なのに、声は目の前で話しているかのように聞こえてくる。


『鍵の欠片を集める。これはまぁ智恵が回れば人間でも出来るでしょう』


 いままでの皮肉気な口調ではなく、どこか淡々とした調子で機影は続ける。


『続いて鍵を組み上げる。これは魔力が無いといけませんが――まぁ少しでも素養があれば誰でも出来ます』

「――貴様ぁ!」


 アリスとクリスが、声を荒げる俺をみる。


『どうしました』

「ここを、俺以外が踏破できないようにしていたな!」

『お仲間は、通しますが?』

「そういう問題じゃない!」


 過去、この迷宮に囚われた者は――。

 この階層から、外には出られなかったということになる。


『別にいいではないですか。仇敵でしょう?』

「俺達と直接矛を交えた者はな! いまの人間には関係の無いことだ!」

『おやおや、すっかり丸くなりましたねぇ……それも含めて、やはり最終確認しなくては』

「――なんだ、それは」

『なぁに、かんたんなことですよ』


 そのときの機影の声は、いつものとおり皮肉気な口調に戻っていた。


『ボクを倒せればいいんです』

「……なんだと?」

『何度も言わせないでくださいよ?』


 言葉に皮肉ではなく愉悦を込めて、機影は続ける。


『ボクを、倒せればいいんです』


 直後、機影の背後――つまり俺達の前方――の水面が、爆発したかのように盛り上がった。

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