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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一五三話:重い話と、ある意味もっと重い話


『え~、エロい話を振ったら割と重めの話が出てきましたので……』


 すっかり調子が狂った様子で、機影はそう続けた。


『次は【笑える話】で行こうと思います。はいアリスさん早かった』


 場が一瞬――本当に一瞬の間だけ――静まりかえる。

 機影を含めた俺達全員が固唾を見守る中、アリスはまるで世間話をするかのように口を開いた。



□ □ □



 そういうわけで三回目の襲撃でしょうか?

 その海賊船の船長さんはちょっと変わっていて、わたしたちの喉元に刃物をつきつけてこういうんです。


「ボクはね、みんなを笑顔にするのが好きなんだ。ほら笑って、笑って」



□ □ □



『だからそういうのじゃねえんだよ! なんでそんなくっそ重い思い出話がぽんぽんでてくるの!』


 それは俺も同感だった。


『なんなんです、あなた! そんなんで、人間を憎悪していないのが、甚だしく謎なんですけど!』

「え?」

『そんなこといわれても困りますって顔されてもこっちが困るんですよ!』


 それも同感といえば同感であった。

 どうも、俺が想像していた以上に、アリスは強い心を持っているらしい。

 つくづく、封印前に側近にいてほしかったと思う。


「あ、それじゃこっちはどうでしょう。確実に笑いですよ」

『……【笑う】でも【笑える】でもなく、【笑い】なのが非常に気がかりですが、どうぞ』

「えっとですね、何回目の襲撃かもう忘れてしまったんですけど、笑いを誘発させる毒を撒いて、相手を制圧させるというやりかたの海賊がですね――」

『やめんかああああああ!』


 ぷりっ。

 そんな音と共に、新たな鍵の欠片が排出された。


「……これで、あとひとつだな」


 それを指でつまみ上げて、俺はそう訊いてやった。


『ええ、ええ。おっしゃるとおりですよ』


 リョウコとエミルがやや抵抗感のある顔をしているなか(おそらく動物の排泄物と同一視してしまったからだろう)、機影が声に皮肉をたっぷり載せてそう答える。


「それで、最後のひとつはどんな題にするんだ?」

『こうなりゃ、あれです。明るい話題を選んだのに次々と重いのがくるんですから、わざと重いのをやればいいんですよ。そうすりゃ逆転して少しは軽くなるでしょうよ』

「なるほど。道理だな」


 だが、アリスにそんな単純な理論が通じるだろうか……?

 そう思ったが、口には出さないでおく。


『というわけで! 最後のお題は【泣ける話】! 思わず涙腺崩壊するようなものをお願いしますよ――はい、やっぱりアリスさんはやか――クリスさんだと……!?』


 そう。

 真っ先に手を挙げたのは、この中で最年少のクリスだった。


『こ、これは予想外ですねぇ……。それではクリスさん、行ってみましょう』


 機影に促され、クリスは小さく息を吸った。


「あれは父が亡くなって、半年ほど過ぎた――雨の日のことでした」

『おや意外と本格的っぽいぞ』


 俺もそう思った。

 おそらくアリスもリョウコもエミルもそう思っただろう。

 全員が事情を知っているせいで固唾を飲むなか、クリスはとつとつと言葉を紡ぎはじめた。




 ふ。

 ふは。

 ふはは。

 ふはははは!

 ふははははは!

 ハハハハハハハ!

 ハーハッハッハッハァ……グスッ。

 ↑フン、魔族が安心して暮らせるまで、泣くのはやめるのではなかったか? ――いや、泣くことが出来るのもまた、大事なことだったな……。





「――この出来事を、ただの夢物語といってしまうのは簡単なことです」


 自らは感情を表に出さず、クリスは淡々と結びの言葉を述べる。


「けれども私は、父が私に向けて遺してくれたものだと――心から信じています。だって、その方が素敵ですから、ね」


 そこで、はじめてクリスの口の端に笑みが浮かんだ。

 誰も、言葉を発しなかった。

 正確には、出来なかったという方が正しいのかもしれない。

 そんな中――、


「クリスちゃあああああああああん!」


 真っ先に屈したのは、アリスだった。

 涙目になり、上半身をすべて使ってクリスを抱擁する。

 そしてそれに、リョウコとエミルが加わった。

 全員水着姿で抱きついているものだから、それはもうすごいことになっている。


「ぜ、全方向ふかふか……大人になったら、私もこうなるんです……?」


 それは発育の度合いによるが……個人的には、クリスの夢は叶って欲しいと思う。


「さて――」


 自分でお題を出した機影はというと。


『……くっ……うっ!』

「――泣いているのか」

『ふぐっ……ううっ……!』


 表情を見られたくないのか(もともとないものだが)そっぽを向く機影。

 その、瞬間だった。

 ぷりっ。


「…………」


 その場に似つかわしくない、嫌な音だった。

 しかし、それはそれ。これはこれ。

 俺は最後の鍵の欠片を、丁寧につまみあげる。


「これで、鍵は揃ったな」

『ええ、ええ。そろいましたよ。そろいましたとも!』


 これで、この領域から出ることできる。

 その先にあるのは新たな領域か――それともついに、箱庭の外か。

 どちらにしても、先に進めることには違いない。

 あと、もう少し……!

 決意を新たにして、俺はそれを握りしめた。



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