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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一四四話:宴会ですよ、宴会!


「なるほど、そうきたか……」


 急速にできあがりつつある特設会場の様子を見上げながら、俺はそう呟いた。


「はい。こうすれば、なんとかなるかなって」


 俺の隣で同じように見上げながら、アリスが答える。


「祭りというより、宴会だな」


 報告を受けたときは一体なにが起こったと本気で混乱したが、言われてみればかなり合理的だった。

 なにより、かつて俺が諸魔族を結束させるときに使った手でもある。


「ただ、これからは事前に俺に話を通しておいてくれると助かる」

「そうでした……ごめんなさい、マリウスさん」

「いや、いい」


 むしろ、ああでもないこうでもないと悩んでいたところにこうやって切り込んでくれて、助かっている。

 もっとも、何度もあれば困ることにはなるが……。


「で、これがアリスの船団でのやり方なのか?」

「えっ」

「えっ」


 お互い、顔を見合わせる。


「ごめんなさい、マリウスさん。わたし、自分の船団の風習についてはよくわからないんです。その……子供のときに壊滅していますから」

「ああ、そうか――そうだったな。すまない」

「気にしないでください。マリウスさんのせいではないんですから」


 アリスはそういうが、気まずいものは気まずい。


「それではこれは――」

「クリスちゃんにお願いしました」

「ああ、だから……」


 クリスはいま、雷光号に設けられた臨時の司令官室――空き室に事務机と事務用品と長く座っても疲れない椅子を詰め込んだもの――に籠もっている。

 実働はルーツとフラットの有志が行っていたが、指揮はリョウコでもエミルでもなく、クリス自身が臨時で執っているらしい。


「つまり、シトラス式か」

「はい。その方が角が立たないかなって思いまして」

「それで正しい。……いや、それが正しい」


 宴会の形式は、支配被支配構造がはっきりしていない限り、当事者間が交互におこなうか、両者と全く異なる第三者による形式の方が望ましい。

 それは俺が何度も失敗してから得た経験だったのだが、アリスはそれを感覚的に見抜いていたようだ。

 ――いや、もしかするとアリス自身もその短い人生で経験したものなのかもしれないが。


「まぁ、こういうものは双方の司令官級には参加させない方が角が立たないからな」

「ええ……そうなんですけど」


 やや歯切れの悪いアリスの返事に片方の眉をあげる。

 つまりそれは――。


「うわははは! 敵地のど真ん中で祭りたぁおもしろいな!」


 エミルが、おもっきり参加していた。


「なにをやっているんだ、エミル……」

「おーう! きばらしだよ、きばらし! にしても、なかなか面白いこと考えるな!」


 当然片方の司令官が準備に参加しているとなると――。


「そこ! 足組の一番上にのぼらないでくださいっ!」


 もう片方の司令官も当然、現場に参加せざるを得ない。


「おお、悪い悪い!」

「悪いじゃありません! 本当にもう……!」


 なんというか、ものすごい光景だった。



■ ■ ■



「前置きは無粋なので、省略します。それでは、皆さん――乾杯!」


 クリスのものすごく簡略な挨拶で、一同が杯を掲げる。

 そういうわけで、アリスの言う祭――宴会が開かれた。

 タリオンの箱庭は真っ昼間が継続していて雰囲気が出ないというので巨大な天幕を造り、その中の中央に小さな櫓が置かれる。

 その櫓は簡易的な灯台となっており(こういうのは篝火が当たり前だと思っていたが、船上生活が多いいまの人間にとって、そういう火は厳禁らしい)、その周りには立食用の卓がいくつか置かれ、それぞれに料理や飲み物が置かれている。

 クリスかアリスのどちらがねらってやったのかわからないが、立食用の料理は卓ごとに異なっていた。これにより好みの料理を取るのにいくつかの卓を回らなければならない仕組みになっていた。

 料理と言えば――。


「よくこれだけの種類を揃えられたな……」

「はい、頑張りました!」


 そこは自分の独壇場であり、全力を尽くせたからだろう。アリスが元気よく頷く。


「『鬼斬改二』と『轟基(ゴゥベース)』の調理師さんとも相談して、ルーツとフラットで人気のお料理も再現してみたんです」

「それは……すごいな」


 保存食と数少ない現地で採れたものを掛け合わせて、よくここまでの種類を揃えられたものだと思う。


「原型を留めないようにお料理すれば、大抵のものは使えますから」

「お、おう……!」


 原材料を訊くのはやめよう。

 心から、そう思った。


「さて――」


 会場内を見回す。

 それほど広くはないが、船団ルーツ、フラットの主立った面々が全員参加しているのでよく探さないと目当ての人物は見つからない。


「マリウスさん、あそこです」

「ああ、助かる」


 先に見つけてくれたアリスのが教えてくれた卓に、リョウコとエミルがいた。

 距離があるので聞き取れなかったが――その気になれば魔力を通して聞くことが出来るが、やめておいた――何事かを話し合っている。

 その周囲を、お互いの幕僚が少し距離を置いて見守っていた。


「どうやら、引き合わせるよう誘導する必要はないみたいだな」

「そうですね」


 エミルは俺に、リョウコはアリスとクリスに、それぞれ歩み寄れると吐露していた。

 それならば、もう大丈夫なのだろう。


「それでアリス、一番おすすめの料理はどれだ?」

「あ! それなら例の脚みたいな根菜をですね――」


 談笑するリョウコとエミルから背を向けて、俺はアリスの進めた料理のある卓へと場所を移した。

 ――ん? 例の脚みたいな根菜……?


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