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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一四三話:誰が真正面からいけといいましたか

#今回はクリス視点です。

 皆さんこんにちは。クリス・クリスタインです。

 今日は揚陸戦艦『鬼斬改二』の指揮所で、船団シトラスと船団ルーツ間での今後の方針を軽く話し合う予定でした。

 予定でしたが――。

 いま現在、場の空気が最悪です。


「すみません、もう一度仰っていただけますか」


 多少引きつった顔で、リョウコさんが聞き返しました。

 それに対し、アリスさんはいつも通りの笑顔で、


「ですから、なんでエミルさんと仲が悪いままなんですか?」


 その、真っ正面から踏み込んだアリスさんのひとことに。

 今度こそ確実に、場の空気は凍り付きました。





「ええと、その……アリスさん?」

「はい」


 困った様子のリョウコさんに対し、アリスさんは空気が読めないかのようににこやかなままです。

 私の知っているアリスさんはそんなことをしないので、これはなにかあるとみていいのでしょうが――。

 正直、居心地の悪さはたまったものじゃありません。


「その……我々の船団の歴史はご存じですよね?」

「はい。クリス――タイン司令官からからだいたいは伺いました」

「ではなぜ、そのような質問を……?」

「それは――エミルさんをみていて、船団ルーツはともかくリョウコさん自身をそれほど嫌っているようにみえなかったので」


 それは私も薄々感じていたことです。

 マリウス艦長もそれを気にしているようで、どことなくエミルさんと話したそうにしていましたし。


「まさか。それこそありませんよ」


 ですが、リョウコさんは即座に否定しました。


「エミルさんはその――幼少の頃から知っています。初め出会ったときから、水着の中にぬるぬるの海草を放り込むようなひとだったんですよ」


 そ、それは……。

 前から入れられたのでしょうか、後からでしょうか。

 どちらにしても気分は最悪になるでしょう。


「もしかして、挨拶代わりにお尻を撫でられたり?」

「――! はい、そうです 幼い頃のことでしたが、屈辱でした……!」

「あとは背後から忍び寄られて水着を脱がされたりとか?」

「ええ、それもあります。肩紐を左右に引っ張って腰の辺りまで……あの、誰かから聞きました?」


 妙に具体的になったので不安に思ったのでしょう。

 リョウコさんはそう訊きました。

 みれば、幕僚のみなさんも、思い思いの方向に目をそらしています。

 おそらく、いまのリョウコさんの肢体で想像してしまったのではないでしょうか。

 とはいえ、私も気になりました。

 まさか、あらかじめ調べていたわけでもないでしょうし。


「いいえ、聞いていないです」


 アリスさんはゆっくり首を横に振りました。


「では、なぜエミルさんの行動を当てられたんです?」


 興味深げにリョウコさんが訊くと、アリスさんは再びニッコリ笑って、


「子供達の面倒をみていたときのことを思い出しただけですよ、気になる女の子に悪戯をする男の子と一緒だなって」

「な――!?」


 リョウコさんの顔が、たちまち真っ赤になりました。


「ま、まってください。エミルさんはその……男性ではありませんよ!?」

「女の子同士でもよくあることです。仲良くしたい気持ちが、空回りするんですよ」


 アリスさんは断言しました。

 なるほど、そういうものなのですか……。

 私が幼少立った頃は、ずっと家で勉強していたのでそういう環境にはありませんでしたし、意識を向けたことはありませんでした。

 もし私が、司令官を継ぐのがもっと遅かったら――そういったことを経験できたのでしょうか。


「きゅ、急にそんなことを言われても困ります……」


 アリスさんから視線をそらせて、リョウコさんはそう呟きました。


「リョウコさんはどうなんですか? エミルさんと仲良くするのはいやですか?」

「いや――ではありません。ですかしかし……それで私に、どうしろと――?」

「船団同士ののわだかまりは、よくわかっています。それでもいまの事態に対し、みなさんが出来るだけ協調的になろうとしていることも」


 指揮所をざわめきが支配しました。

 リョウコさんの幕僚たちが、アリスさんの洞察に感嘆の声を漏らしたからです。


「それでは、足りませんか?」

「はい。繰り返しますけど、エミルさんの方が敵意を持っていないのなら、リョウコさんも歩み寄るべきだと思います」


 今度は指揮所が静まりかえりました。

 皆、リョウコさんの返答に注目したのでしょう。


「そういう……ことでしたら……でも、本当なのでしょうか?」

「もし違ったら、船団ルーツの医療担当として移籍してもいいです」

「ちょっ! アリスさん!?」


 たまらず口を挟んでしまいました。

 マリウス艦長もそうですが、アリスさんだって、私が護衛艦隊には無くてはならない存在です。


「いくら海賊狩りとして独立性を得ていても、司令官の前で勝手な口約束はしないようにお願いします」

「ごめんなさい――いえ、もうしわけありません。クリスタイン司令官」

「もう……マリウス艦長にも怒られますよ? リョウコさんも――」

「大丈夫です。いまのは聞き流しましょう」


 幸いにして、リョウコさんは相手の言質を取るような方ではなかったのが助かりました。

 これが普通の司令官であったら、あれやこれや難癖をつけて契約に持ち込んだことでしょう。


「それでは……?」

「そこまで仰るのなら、いいでしょう。ですが、船団の皆の手前、こちらから――というのも気が引けます」

「多分、フラット側も同じだと思いますよ」

「そうかもしれませんが、こちらから提案なり妥協なりが、敗北にみえるものもいるのです。集団と個人で、感情というものは違いますから」

「――そうですね。確かにそれは道理です」


 自分の声が、底冷えしているのがわかりました。

 私個人での感情ではシトラス以外の四船団にいる知人友人達には、特に悪い感情をもっていません。

 しかし、船団単位でみればそれは――親の敵のひとつです。

 もちろん、私も似たような感情を向けられているでしょう。

 そしてそれは、船団の防衛を担っている司令官として、当然の責務だと思っています。


「クリス――タイン司令官?」

「……ああ、なんでもありません。失礼しました」


 どうも、アリスさんにはいまの感情を見抜かれてしまったようです。

 こちらをみる視線が、少し哀しげでした。


「それより、私も気になります。船団同士の面子というものは、なかなか難しいものですよ。どうするんですか?」

「そうですね……それなら」


 すぐに思いあたったのでしょう。

 アリスさんは両方のてのひらをぽんとうちあわせると、


「お祭りをしましょう!」

「おま――」

「つり――?」


 こんな敵地のどまんなかで、お祭り。

 さすがはマリウスさんの秘書官、まったく想像できませんでした。



「折角拠点が出来て、みんなもゆっくり休めるようになったんです。それなら、次は娯楽ですよ」

「そ、そうでしょうか?」

「それに無礼講のお祭りなら、お互い言いたいことを言いやすいんじゃないでしょうか?」

「な、なるほど……たしかに」


 理屈ではあっています。

 あっていますが……。

 なんというか、こんな真正面からの提案、とても私からは出せそうにありませんでした。

「ですが、ルーツ式の祭りをやるにしても、フラット式のをやるにしてもお互いに角が立ちます。そこはどうするのですか?」

「簡単ですよ。シトラス式にすればいいんです」

「なるほど!」


 巻き込まれた!?



「しかしお祭りとは……」

「クリスちゃんは見たくありませんか?」

「なにをですか?」

「マリウスさんの法被——」

「……!」

「そして褌——!」

「……!!」


「その発想はなかったという顔、やめろ」

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