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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一四二話:新拠点とそれぞれの話


「ここ――だな」

「そうですね」

「同感だ」


 丸一日ほど(といっても相変わらず昼夜の概念はなかったが)航海して、俺達はその砂洲に到着した。

 周辺を探索していた水雷艇からの報告にあったそこは、元の砂洲と同規模であり、しかも周辺に作物の取れる島があった。

 それも幸いなことに、例のアレな形をした野菜では無く、普通の形の果物と野菜が一種類ずつ採れるのだ。

 後は釣りでどうにかなるだろう。

 そう判断して、俺達はその砂洲を新拠点とした。


「やけにでかい天幕を建てるんだな。何に使うんだ?」

「ああ、ちょっとな」


 以前船団ジェネロウスのいざこざで無人島に籠もったときことを思い出し、俺はそれを造っていた。

 あのときの要望で一番多かったものの、なかなか実現できなかったことといえば――。


「この湯気……まさか……!」

「そのまさかだ」


 そう、俺が造ったのは大浴場だった。

 簡易的な造りながらも広さだけはしっかりと確保しており、一度に戦艦二隻分――雷光号と鬼斬改二にはすでに浴場があるが、気分転換にはいいだろう――の乗組員が入りに来ても対応できるようになっている。

 あとこれは当たり前の話だが、男女別にしていることも忘れていない。


「よっしゃ、一番のりぃ!」


 先陣を切って出来たての風呂へと突撃していったのは、やはりというかなんというかエミルだった。

 どうでもいいが、着ているものを脱ぎ捨てながら入るのは、精神衛生上たいへんよろしくないので、改善してもらいたい。



■ ■ ■



 風呂のある天幕のすぐ隣には、風呂上がりに涼めるよう風通しを最優先にし、裸足で歩けるよう床を板張りにした天幕を建てておいた。

 簡素な造りながら個人用の長椅子も用意してあり、風呂に入らなくてもくつろげるようにしてある。

 その一角で俺が今後の計画を練っていると――。


「ふぃ~!」


 たいへん満足した様子で、エミルが隣の長椅子にどっかりと座った。

 幸いなことに、露出度は高くなかったが、その肌は湯に火照っており、どことなく艶めかしい。


「すげぇな。この規模の風呂って、中枢船でもそうそうないぜ?」

「よくいわれるな」


 次の雷光号改造計画を記した手帳を閉じながら、俺。

 海水を淡水に変換し、その際に生まれる熱で風呂を沸かしているのだが、その原理を説明しても理解はされないだろう。


「ふぅ……」


 二回目の溜息には、憂いが込められていた。


「どうかしたのか?」

「いやまぁ、いろいろと――な」

「察するに……船団ルーツとの確執の件か?」

「わかるのかよ」

「三割ほどは推量だったがな」


 共に行動していていて、気付いたのだ。

 リョウコの属する船団ルーツとエミルの属する船団フラットは、随分長いこといがみあっているとクリスは言っていた。

 実際、リョウコの方は時折エミルの意見に反発したり、妙に意識していたりしている節がある。

 しかしエミルの方はというと、それほどルーツに対して敵愾心をもっていないのだ。


「よくみてんのな……クリスタインは? いまは一緒じゃないのか?」

「いや、いまリョウコと今後について話しあっている」


 揚陸戦艦『鬼斬改二』の指揮所はこの三隻の中で最も広く、設備も整っているせいか、クリスとリョウコはよく利用している。

 特にクリスは本来艦隊を率いる指揮官なのだから、ああいった環境の方が指揮の仕事はやりやすいのだろう。


「そっか……なら、話せるかな」


 天幕の窓から遠くを見やりながら、エミルは続けた。

 相も変わらず時刻の概念が無いため、夕方という概念が無いのが無粋と言えば無粋だった。


「ご指摘の通りってやつだ。昔からウチと向こうさんは仲悪いけどな、オレ自身はそれほどでもないんだよ。そりゃ、やられたらやりかえすけどな」

「そこはそれということだな」

「そういうこった。ものわかりいいな、アンタ」


 集団と個で、意識というものは違う。

 属する集団では嫌っているものが、個人では好んでいるという例はいくらでもあったし、逆に集団では好んでいても個人では嫌悪しているということもあった。

 それは俺自身が経験したことでもある。


「まぁ、昔は船団のみんなといっしょだったけどな。――青かったんだよ、オレ」

「いまは違う理由は?」

「それは――」


 エミルはもう一度天幕の中を見渡した。

 まるで、誰がいないかを確認するように。


「クリスタインのおやっさんがな……」

「ああ――」

「その様子じゃ、一通り知っているってことか」


 俺は頷きで肯定した。

 クリスの父親が、五船団の会議場に現れた超大型海賊と単独で戦い、座乗する戦艦ごと相討ちになったことはクリス自身から聞いている。


「ひでぇ話だけどよ、うちの親父とリョウコの親父、要人を下がらせるときにお互い足をひっぱりあったんだと」


 当事者でなければなにをやっていると言いたくもなるが、俺自身が諸魔族を束ねようとしたときに経験しているからわかる。

 それは、よくあることだ。


「その間他の船団がどうにかすりゃよかったんだが、いつものは果敢なジェネロウスは何故か後方に下がるし、ウィステリアは足の速さが逆に要人の待避に買われちまって参戦そのものが遅れた。そんなもんだから、シトラスが孤軍でふんばることになり――ああなっちまってってわけだ」


 どこか悔しそうに、エミルはそう呟いた。


「あれでうちの親父は引退したんだ。ケジメをつけにゃならんってな。ルーツは伝統とやらでまだみたいだが、そっちはまぁ知ったことじゃない。そしてオレは――あくまでオレ自身はだが、ルーツだフラットだっていがみあっていることそのものが、ばからしく感じちまってな」


 その気持ちも、またわかる。


『憎悪よりも友好を』


 そう俺に何度も説いたのは先の陛――魔王であった。

 もっとも、そのあとに続く言葉が、


『それでも敵対する場合は禍根が残らないよう全力で叩きつぶす!』


 であったが……。


「オレは現場をみていないが――やっぱりクリスタインには悪いことをしたと思っている。それに、おやっさんの方には世話になったしな……ガキの頃、よく遊んでもらったんだ」

「そうか――」


 オスカー・クリスタイン。

 クリスの父親の話を俺は間接的にしか知らない。

 だが、クリスの自慢げな、それでいて懐かしむような表情や、アステルやドゥエ、聖女アン、そしてエミルの話す口ぶりからすると相当慕われていたのだろう。

 それは、集団を率いるものとして理想的な姿だった。


「だから、個人的にはそれほどルーツにゃ根に持ってないんだ。船団にも、アイツ自身にも」

「ならば、自分自身で伝えたらどうだ? そうすればその溜息、もうつくことがなくなるだろう?」

「わかっているんだがなぁ……立場がどうしても邪魔するんだよ」


 珍しく困った顔で、エミルはそういった。

 なるほど。先ほどの集団の感情と個人の感情か。

 血気盛んな乗組員達の手前、自分の意見を表明できないのだろう。


「あと、向こうさんはそう思っていないだろ。多分」

「そうだな……」


 たしかに、エミルの言動に対してリョウコの言動はトゲが多いように感じる。

 しかしそれはエミルと同じく個人と集団との感情の差である可能性もある。


「難しい問題だな」

「ああ、厄介なヤツだよ。これ」


 お互いに天幕の天井を見上げて、俺達は溜息をついた。

 過ごしやすいようにと設けた天窓からの空が、いまは少し眩しすぎた。


「ところでフルーツウミウシミルクはねぇの?」

「なにそれこわい」

「ないならコーヒーウミウシミルクでもいいぜ?」

「なにそれもっとこわい」

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