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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一四〇話:戦艦をデザインしよう!


『ふんぬぐるおおおおおお……!』

「いいぞ! その調子だ!」


 大破した巨大石人形、その胴体部分を強襲形態の雷光号が引きずっていく。


「すげぇ絵面だなぁ……」


 その様子を、同じく曳航された『鬼斬』の元甲板上で眺めながら、エミルがそう呟いた。


「曳航ならともかく、陸上のものを引っ張り出す場合はこうした方がいいからな」


 俺がそう答える。

 するとエミルは頬を掻いて、


「いや、それもあるけどよ――人型になる艦なんてはじめてみたからな。察するに発掘品だろ」

「ああ」


 実は俺が改造しましたなんて、とてもではないが言えなかった。


『大将ー! こんなもんでいいかー!』

「ああ、それでいい!」


 雷光号が波打ち際まで巨大石人形の胴体部分を運び終えた。

 そのほかの部品は、既に同じ場所に移動し終えている。


「さて、これであらかた準備は整ったわけだが」

「いやちょっとまて、工廠とかないけどいいのか?」


 そりゃこんなところでそんなもん用意できないけどよ……。と、エミル。


「大丈夫だ。雷光号に必要な設備はすべて載っている」

「少人数で動かせたり、人型に変形したり、戦艦も改造できるって――発掘品の艦ってすげぇのな」

「なりゆきでいろいろ出来るようになってしまってな」


 こっちの方は真実だ。

 現に、隣にいるアリスが苦笑している。

 そしてさらにその隣では、何故かクリスが胸を張っていた。


「さて、それでは肝心の改装内容だが――」


 元甲板、現見張り台から室内に入り、俺。

 そこはいわゆる作戦会議場となっており、普段は海図を置く大机には改装前の『鬼斬』構造図が広げられている。


「元の形に戻すのが一番手っ取り早いんだが――その前にひとつ訊きたい」


 最初は俺も速度優先でそうするつもりだったのだ。

 だが、リョウコから運用に関する話を聞いて、確認したいことが出来ていたのだ。


「繰り返しになってしまうが……この艦の運用方法を教えてくれないか?」

「では、僭越ながら――」


 後に船団ルーツの幕僚を従えたリョウコが少し緊張した面持ちで軽く息を吸う。


「まず、敵と遭遇した場合は接敵するまでは通常の戦艦と同じ運用です。敵が小型なら副砲、大型なら主砲を用い、必要であれば回避行動をしながら接敵を(こころ)みます」


 なるほど、ここまでは接近することにこだわってはいるものの、通常の戦艦の扱い方と一緒だろう。


「では、接敵してからは?」

「はい。相手の舷側へ艦首から突撃し、戦える者は甲板に上がって乗り移り、白兵戦を行います!」

「――その間の主砲、副砲は?」

「はい、味方に当たらないよう注意しつつ射撃を続行します!」

「それは……」


 兵に死ねと言っていないか?


「いっとくけどマジでやるぞ」


 と両腕を組んで、エミル。


「ウチと小競り合いのとき、さすがにカタナは抜かなかったがガチで乗り込んで殴り合いになったからな」

「一体いつの時代だ……」


 あまり海戦をしなかったとはいえ、封印される前の俺の時代でも、そこまで原始的な戦い方はやっていない――はずだ。


「し、しかしこの戦法はわがルーツのいわば御家芸というもの。そう簡単には変更できません」


 小競り合いをしたという事実が恥ずかしいのか、少し頬を赤らめてリョウコはそう主張する。

 そして、その主張そのものには利がある。

 船から白兵戦要員を抽出し、相手の領土に侵攻する――いわゆる揚陸戦は領土そのものが減った代わりに、その希少価値を増している現代こそ、重要なものだろう。


「リョウコのいうことはもっともだ。だが、現状の運用が最適解とかいえば、議論の余地があるだろうな」

「う……たしかに」


 思いあたることがあるのだろう。リョウコがかすかに俯く。


「――と、なればだ」


 俺は『鬼斬』の構造図の横にまっさらな製図用の紙を敷くと、大まかな設計図を描きはじめる。


「『轟基(ゴゥベース)』のように後から小型艇を使用して乗り移るというのは、なしなんだな?」

「そうですね――直接乗り移るより、成功率は大幅に下がると思います」


 普通は逆だと思うのだが、これも文化の違いだろう。


「なら、前方に揚陸機能を持たせ、後方に砲撃能力を集中させようか……」


 焼け石に水だが、砲塔を少しかさ上げすれば零距離射撃の爆風にも巻き込まれにくくなるだろう。

 それ以前に、揚陸を甲板から行わないようする必要があったが、下段に移すとなると――。


「この衝角、いるか?」

「あってはいけないものでしょうか?」


 不安そうに訊かれても、困る。

 確かに突撃時は弾薬を消費せずに相手を損壊させることができるが――。


「普段使いづらくね? オレらと小競り合いするとき、うっかり沈めないように苦労してんだろ」

「わ、わかっているならおとなしくやられてください!」

「むちゃいうな!」


 どうやら、船団ルーツとフラットの確執はかなり深く――そして、長く続きすぎてぐだぐだなものになっているらしい。

 これは諸魔族間でも似たようなもので統一までに非常に時間がかかったから、しかたのないものなのだろう。


「だとしたら――大型化してみるか」

「でっかくしてどうするんだよ」

「目で見えるくらいになれば衝突事故も少なくなるだろう。あとは――」


 あとは、こちらの目論見をうまく組み込めるだろうか。


「なんか(わり)ぃ顔してんな」


 エミルに見抜かれて、俺は苦笑する。

 ふとみると、アリスとクリスもばれないように後ろを向いて苦笑していた。




ふ。

ふは。

ふはは。

ふはははは!

ふははははは!

ハハハハハハハ!

ハーハッハッハッハァ!

なんかひさしぶりだなこれ!




「おおお……」


 翌朝。

 それを見上げてリョウコは絶句していた。


「揚陸戦艦『鬼斬改二』といったところか」


 それの隣に停泊する雷光号の甲板上で、俺。


「艦の前半部分に、揚陸機能を集中させた。装甲甲板の下に白兵戦要員を格納できるから、安全性は格段に上がったはずだ」

「で、ですが……どうやった敵艦に乗り込むのです?」

「こうやってだ」


 そう言って、俺は遠隔装置を使ってみせる。

 すると、艦首にある巨大な衝角――なにせ上半分が完全に喫水線上に出ている――の上半分が、傘のように開いた。


「相手の艦のどてっぱらを貫いた後でも、艦をそのまま島に突撃させたあとでもいい。いま開いた隙間から、白兵戦要員を送り込めばいい」

「な、なるほど! それならば衝角そのものが防護盾にもなるわけですね!」


 得心した様子で、リョウコ。

 確かにその通りで、この『鬼斬改二』は、前半分に限っては雷光号より丈夫に作ってある。これならば、船団ルーツの無茶にみえる戦い方でも、存分に耐えてくれるだろう。


「ですが、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「ああ」

「艦橋が、小さすぎるようにみえるのですが……」

「指揮部分は前半分揚陸部分に内蔵したからな。もっと言ってしまえば、操艦もそこからできるようになっている」


 言葉にしてはいなかったが、おそらくリョウコ自身も揚陸することがあるのだろう。

 だからこそ、あえて指揮所を揚陸部分に近いところに置いたのだ。


「さらに緊急事態の時は、後半の戦艦部分を切り離すことが出来るようになっている。機関も独立しているから、揚陸艦として単独行動させることも可能だ」

「な、な、なんと……!」


 リョウコは再び絶句した。

 それでも、言いたいことはわかる。

 おそらくは――。


「そこまでするやつがあるか」


 エミルが、呆れた様子で代弁した。


「すまんな」


 なにぶん、そういう性格なもので。


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