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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一三九話:予想外、二倍


「『汝、鍵を求める者よ。これを欲するならば――モノマネをせよ』」

「は?」


「『汝、鍵を求める者よ。これを欲するならば――一曲披露せよ』」

「は?」


「『汝、鍵を求める者よ。これを欲するならば――恥ずかしい話を披露せよ。略してハズバナ』」

「は?」


 こういった具合で、鍵の欠片の探索は順調に進んだ。

 ただ、遠征の都合上どうしても欠点が出てくる。

 それは――。


「拠点との距離がだいぶ伸びてきたな……」


 新たな島を探索すべく航行中の雷光号で、海図をみやりながら、俺はそう呟いた。


「『轟基(ゴゥベース)』と『鬼斬』を移動させてもいいんだがな。当座の食料はだいぶ潤沢だし」


 今回は同乗したエミルがそう提案する。

 最近は、『轟炎』(ゴゥファイヤー)を艦載状態にして航行することも多い。

 エミルは渋るが、燃料がこころもとないのもあって、応じてくれるようになっていた。


「ですが、移動しながらでは危険でしょう」


 表情を曇らせながら、リョウコがそう反論した。

 現在の『鬼斬』は浮城だ。

 だから移動するときは雷光号か『轟基(ゴゥベース)』で曳航するわけだが、その間に襲われた場合、中にいる人員が危険にさらされることになる。

 もちろん、曳航する側も普段通りに動けるとは限らないだろう。


「では、新たに拠点となる場所を考慮しながら探索を続けるか」

「そうなりますね……」


 俺の提案に、クリスが頷いた。


「理想的なのは、近場に食料の取れる島がある砂洲だよな」

「島まるごとを開拓するという手もあるが……それをしながら移動となるとな」

「そう、そいつはちょっと不便だろ」


 となると、エミルの言う条件を満たさなければならないだろう。


「マリウスさん、島です!」


 そこで、会話に参加せず探索に注力していたアリスから報告が上がった。


「なにかあったか?」


 アリスの声に緊張がはらんでいたのを察して、俺はそう訊く。


「はい……まもなく正面に見えますが――」

「これは――」


 その風景を操縦室の表示板からみて、俺はしばし言葉を失った。


「なんだ、ありゃ」

「荒れておりますね……」


 エミルとリョウコの言うとおりだった。

 いままでの島は、鬱蒼とした熱帯雨林が茂っているか、砂洲しかなかった。

 だが、遠くにみえる島は不毛の荒れ地が広がっているようにみえる。


「上陸しますか?」

「ああ。いままでにないということは、なにかしらの進展が見込めるだろう。ただし、最大限の警戒を怠らないように」

『オイラはどうする?』

「ニーゴは雷光号で待機。緊急時は支援砲撃を頼む」

『あいよ』


 普段は植物により視界が悪いので誤射の危険性が高かったが、この島ではその心配が無い。

 ゆえに有事は雷光号からの射撃が有効であると、俺は判断していた。


「総員、上陸用意。いくぞ」



□ □ □



 荒れ地の島は、全体が瓦礫で覆われているようであった。

 だが、それは岩では無い。


「なんだろうな、これ」


 瓦礫を蹴っ飛ばしながら、エミルがそう呟く。


「土器に近いな」


 だが、土器ほどもろくは無い。

 推測だが、金属の特性があるようにみえる。


「想像以上に訳がわかりませんね。どうしますか、マリウス艦長」


 クリスに訊かれて、しばし考える。

 島の規模は中規模といったところか。

 上陸地地点からすべてを見渡せるわけでは無いが、遠くにみえる小山の上からなら可能だろう。


「ひとまず、あの小山をめざそう」


 隊列を組んで、俺達は進み始めた。


「なんか……歩きにくいですね」


 アリスが均衡をとりながら、そう呟く。


「そうか、瓦礫なんて滅多に歩かないか」


 船の上や普段の島なら、瓦礫の上を歩くことなど、滅多に無いだろう。


「その様子だと、こんなところを歩いたことあるみたいだな」

「まぁ、昔の話だ」


 エミルの指摘に対し、俺はそうごまかす。

 少し、話しすぎたのかもしれない。

 だがこの風景は、俺にとっては見慣れたものであったのだ。

 そんな話をしているうちに、小山の裾野にたどり着いた。

 近づいてみてわかったが、これは山というよりも大きな岩のようだ。

 傾斜がきつく、登るのは俺以外はきつそうだった。


「なんか変な岩だな――うわっ!」

「どうした!」


 岩の向こうに回り込んだエミルが声を上げたので、俺達は慌てて後を追う。


「みろよ、こいつただの岩じゃねえ、人面岩だ!」

「――たしかにな」


 魔族の場合は『人間』という言葉を使わないので、顔面岩と呼ぶはずだ。


「それより、マリウスさん! 石碑です!」


 アリスの言うとおり、人面岩のすぐ手前に、小さな石碑があった。


「鍵が無いようですが、石碑にはなんと?」


 クリスの緊張感をはらんだ問いに、俺はどう答えるか一瞬悩んだ。


「……言葉の勉強にはいいかもしれんな」

「というと?」

「『はずれ』だそうだ」

「そうきたか!」


 エミルが一杯食わされたといった様子で、天を仰ぐ。


「でもよ、はずれとなるとよ。……いろいろと、まずいんじゃねぇか?」

「それは――」


 エミルの言うとおり、これが罠だとしたら?

 直後、地面が揺れた。


「なんだ……?」


 即座に全員が警戒態勢をとるなか、人面岩が激しく震え――。

 隆起した。


「回避ッ!」


 肩が埋まっているとおぼしき場所が、大きく盛り上がる。

 頭でこの大きさだ。

 全身は強襲形態の雷光号よりひとまわりは大きいだろう。


「さっがれ! ぶっぱなすぞ!」


 エミルが機撃銛の安全装置を解除した。

 先端部から蒸気が噴き出し、引き金が露出する。

 そしてそれを、躊躇せずに引いた。

 轟音と共に銛が放たれ、人面岩の右目に命中する。

 効果は絶大で、人面岩は大きくのけぞた。

 威力的には、俺が放つ魔力の槍と同等だろうか。


「走れ!」


 エミルとリョウコは充分だが、アリスとクリスが少し遅い。

 このままでは、間に合わないな。

 そう判断した俺は――。


「すまないが、抱えるぞ」

「えっ?」

「ちょっ!?」


 ふたりを両脇に抱えて、俺はさらに加速した。

 大昔、魔族運動会で似たようなことをしたが、さすがに口に出すほど余裕は無い。


轟炎(ゴゥファイヤー)、出るぞ!」


 そう言い終わる頃には、エミルは雷光号から降ろしていた単座水雷艇を発進させていた。

 続いて俺達も転がり込むように乗艦する。


「雷光号、緊急発進!」

『おうよ!』


 その間にも、人面岩はその身を島から出しつつあった。

 もはや人面岩ではない、巨大な石人形だ。


「続けて主砲斉射! 連射を維持しろ!」

『まかせな!』


 雷光号の主砲が火を噴く。

 だが、この近距離で当てているのに、表面がわずかに削れただけだった。


『かてぇぞこいつ!』

「関節を狙え!」

『狙えっつっても、以外と素早いぜ!?』


 そう、巨大石人形は意外にも動きが俊敏で、自らの弱点である関節を防御姿勢で防いだのだ。

 そして大地の上に完全に立ち上がると、島に手を突っ込んで――。


『なんか投げてきやがった!』


 俺がいう前に回避行動をとりながら、二五九六番がそう叫ぶ。


「なるほど、そのための荒れ地か!」


 金属の性質を持つ巨大な瓦礫を投げつけられては、雷光号とて無事では済まない。


轟炎(ゴゥファイヤー)より発光信号、『銛が撃てない』です!」


 携帯用の発光機で知らせてくれたのだろう。

 前の機動甲冑では脚に鋼線を張って転倒させていたが、相手はまだ島の上だ。その戦法は使えない。


「返信、どうしますか?」


 発光信号で返している時間はない。

 ならば――。


「伝声管開け!」


 こんなこともあろうかと、船団ウィステリアのアステルが使っていた拡声器を応用し、雷光号に組み込んだのだ。

 それにより、近距離であればこちらの声が相手に届くし、相手の声もこちらに届く。

 これで、発光信号を通常の言語に翻訳する手間が省けるわけだ。


「エミル、聞こえるか?」

『うおっ!? どっから声が!?』

「いまは原理を気にするな。それより高さが足りればいけるか?」

『ある程度ありゃいけると思うが、どうするんだよ!?!』

「雷光号、強襲形態! 轟炎(ゴゥファイヤー)を拾い上げて構えろ!』

『大将冴えてんな! まかしとけ!』


 周囲の海を蒸発させながら、雷光号が強襲形態へと変形する。


『なんじゃそりゃあああああ!?』


 そういえば、エミルにみせるのはこれがはじめてだった。


「話はあとだ!」


 雷光号が轟炎(ゴゥファイヤー)を拾い上げ、両手で保持する。

 その様子は、巨大な拳銃を構えているかのようであった。


『エミル、照準と引き金は任せる。当たると思ったときに撃て!」

『わかったっ! んで、どこをねらえばいい!』

「のど元だ。首関節のわずかな隙間があるだろう。あそこを打ち抜けば全体的に動きが遅くなるはずだ」

『了解だ! 雷光号、ちょい右! やや上!』

『あいよ!』

『よっしゃどんぴしゃだ!』


 相性がいいのだろうか、エミルの大まかな指示で二五九六番は的確に射撃位置を修正した。


『食らいやがれ!』


 轟音と共に、装填した銛が発射される。

 それは狙い通りに、巨大石人形の首関節、そのわずかに隙間に飛び込み、深く突き刺さる。

 狙いと、俺の読みは的中したようだ。

 巨大石人形の動きが、目に見えて遅くなった。

 あとは――弱点をひたすれ攻めればいい。


「照準、各関節部! 主砲斉射三連、撃て!」


 両肩の主砲が火を噴いた。

 動きが鈍くなった関節部に次々と命中し――。

 巨大石人形は、荒れ地の島に倒れ伏したのだった。


「やりましたか!?」


 リョウコが座席から腰を浮かせつつ、そう呟く。


『おいばかやめろ、そういうと大抵起き上がってくるんだよ!』


 こちらは被った兜を脱がずに、エミル。

 だが、その心配は杞憂のようだった。

 銛と主砲弾を受けた関節部が限界に達したのか、そのままばらばらになったからだ。


「エミル、轟炎(ゴゥファイヤー)を降ろすぞ。あと再上陸する。ついてきたい者だけついてきてくれ」


 結果として、全員がついてきた。

 俺は破壊された石人形を丁寧に調べる。

 人面岩状態だったときには確信が持てなかったが、破壊されたとはいえこうやって動いた以上は――。


「金属の特性も持ち合わせるか。これは――」


 つまり、この島全体が()()なのだろう。


「はずれどころか、あたりかもしれんな……」

「どういうことですか?」


 クリスが不思議そうに聞き返す。


「素材だ。これで戦艦一隻分は補修できる」

「と、ということは……!」


 リョウコが声を弾ませた。


「『鬼斬』をもう一度改修できるということですね!?」

「そういうことだ」


 前回は色々と制限があったため浮城への改修しかできなかったが、これで戦艦に復帰できるだろう。

 それは大きな前進となるはずだ。



本日のNGシーン



『汝、鍵を求める者よ。これを欲するならば――モノマネをせよ』

「一番マリウス、とっとと先にやらせて貰う。――『クハハハハ!』」

『反則! お仕置き!』

「二番クリス、司令官としての矜持をみせましょう。『おはようございます、プロデューサーさん。朝から元気なのは――』」

『反則! お仕置き!』

「三番リョウコ、参ります。『問おう、貴方が私のマスターか』」

『反則! お仕置き!』

「四番エミル、ブッコミいくぜ!『此こそは、我が父を滅ぼせし邪剣! クラレント・ブラッドアー――』」

『F○te率高いな! お仕置き!』

「ご、五番アリス、ちょっと気怠い午後に新入生の対応をする若い保険医のモノマネをします!『あら、どうしたの? ……そう、転んじゃったのね。それじゃ、怪我したところをみせてちょうだい――ああ、ちょっと皮がむけて赤くなっているわね。大丈夫よ、お姉さんが痛くしないようにしてあげる――さぁ、もっとよくみせて……』」

『合格! 百億万点!』

「「「「なんでだ!」」」」


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