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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一三七話:セクハラ野菜畑と、攻略の鍵


□ □ □




 ――そういうわけで。


「なんていう名前なんですか?」


 そう無邪気に訊くアリスに、俺が真実を述べられない理由がわかっただろうか。


「残念ながら、記録にはのこっていないよう……でな?」


 まかりまちがっても、マン【フハハ!】ラゴラなどと口走るわけにはいかなかった。

 こんな馬鹿話をアリス達に話していいかといえば、答えは否に決まっている。

 アリスとクリスはともかくとして、リョウコとエミルにこの内容を話すわけにはいかない。

 俺の正体を明かすようなものだし、そもそも荒唐無稽なものとして捉えるだろう。


「んでこれ、どうするんだ?」


 地面から生える緑色の脚をつんつんつつきながら、エミルが訊く。


「採取しよう」

「食えるのかよ」


 もっともな意見である。


「根菜とあまり変わらない味がするはずだ」

「マジで!?」


 その気持ちも、よくわかる。


「大丈夫か? 抜くときに蹴っ飛ばされたりしないか?」

「それはないんだが……あえていうと、抜くときに艶めかしい声で鳴く」

「お、おう……!」


 本来の種であれば魂が凍り付くような絶叫をあげるはずだ。

 だが、それでは収穫が困難になるので、タリオンをはじめとする魔術師班が品種改良に努めたのである。

 もっとも、その結果がこれなわけだが。


「とりあえず食えることは確かなんだろ? だったらそれなりの数抜いておこうぜ」

「そ、そうですね。あまり気が進みませんが、いまは手段を選んでいるときではありませんし」


 エミルに続いて、リョウコもそういう。


「それでは、収穫をはじめようか」


 各自で、例の植物を抜くために散開する。


「うお、なんかすげぇ生々しいぞこの感覚――!」

「私より肌の手入れが徹底していますね」

「こ、これが大人の女性の感触というものですか!」


 エミルとリョウコとクリスが、それぞれそんな声を上げた。

 まさかこれが、俺の女嫌い――しかもそういう勘違い――を治そうとして造られたものだとは欠片も思うまい。

 そんななか、唯一アリスは何も言わずにその感触を確かめた後――。


「マリウスさん、これ触っちゃ駄目です」

「なぜだ……」

「あ! アリスさんのいうとおりです。触るのがくせになってはいけません!」


 クリスもいま気付いたとばかりに同意した。


「……あれ? オイラはいいの?」


 少し寂しそうにニーゴがそう呟く。


「いや、そんな鎧で感触もなにもないだろ」

「そりゃそっか!」


 エミルの指摘で、あっけらかんと笑うニーゴだった。


「それでは、マリウスさんは私達の見張りということで」

「だからなぜそうなるッ……」


 どうやら、タリオンの力作は思っていたより忠実に再現されていたらしい。

 でなければ、アリスはここまで触るなと言ってこなかっただろう。

 結局、俺は折れて周辺の索敵に時間を費やすことにした。

 確かにこの島に上陸した際襲われたわけだから、警戒しすぎるということはないのだが、どこか納得がいかない俺であった。


 もっとも――。


「なんですかこれ……なんですかこれ!」


 クリスが繰り返していうのももっともな話で、抜くたびに艶めかしい悲鳴(?)が響くものだから、やりにくいことしかたがないのだろう。

 リョウコもエミルも、クリスと違って声に出してはいないものの、やりにくそうな貌をしながら引き抜いている。

 唯一頓着していないのが、アリスだった。

 次々と引き抜いていくのものだから、アリスの周辺だけだけが()()()なっている。

 いや、なにが激しいのかと訊かれるととても困るのだが。


「しっかし――」


 ある程度引っこ抜いたあと、腰を軽く叩きながらエミルが呟いた。


「土の下はどうなっているのかと思ったら、普通の根っこなのな……」

「しかも積み上げるとちょっとあれですね……」


 いささがげんなりした様子でクリスがそう応じる。

 収穫用に用意した折りたたみ式の籠に何本もの脚が入っているのは、確かに猟奇的というか、不気味だった。


「食料のためだ。しかたあるまい――もっとも、さっさと料理するか、保存食料にしたいっところだがな」

「調理法は伝わっているんですか?」


 アリスが興味深げに訊く。


「一応普通の根菜と同じように扱えるそうだ。皮はむいてもむかなくても食べられるらしい」

「そこまで記録がのこっているのに、名前が無いなんて、不思議ですね」

「ああ……そうだな……」


 まずい。

 このままだとアリスに看破されそうな気がする。


「まぁ食えりゃいいんだよ、食えりゃ。もっとも抜くときにこんなんじゃ、ウチの男どもを連れてくるのは色々とアレだけどな――にしても妙だな」


 少し目つきを鋭くして、エミルはそう続ける。


「これ、もうほとんど畑だろ。どうなってんだ?」


 そう。

 それは俺も懸念していた。

 上陸時の熱帯雨林は下草を刈らねば進めないほどであったが、この付近、緑色の脚が生えている島の中央部分とおぼしき場所には下草どころか雑草も生えていない。

 おまけに土も軟らかく、まるで耕しているかのようであった。


「まさか、あの猿みたいなヤツが栽培していたってか?」

「可能性はある」


 タリオンの箱庭は、やろうと思えばひとつの生態系を模すこともできる。

 配置したものに()()を与えて、それを定期的に遂行させることも可能なのだ。

 ただ、それをさせる理由がわからない。

 俺達侵入者を緩やかに活かすためだけなら、いままでのように、自然に採取できるようにすればいいだけの話だ。

 ――とすれば、この辺が熱帯雨林に埋もれないようにした?

 だとすれば、なぜ。


「――んを?」


 そこで、エミルが変な声を上げた。


「なんだあれ?」

「どうした?」

「みてみろよ。畑のど真ん中に石碑が埋まってる」

「なんだと……!」


 俺は飛ぶようにエミルが指さした場所へと急行した。

 いままで、敵以外に文明を思わせる構造物は存在していなかった。

 それがあるということは、この箱庭から脱出するてがかりに他ならない。


「これは……!」


 石碑の上部に、金属片が収まっていた。


「なんだこれ。よめねぇぞ」


 その場にいた全員が集まる中、エミルが眉根を寄せてそんなことを言う。


「古代語だな」


 俺の正体を知っているアリスとクリスに、緊張が走る。

 なぜなら古代語とは、魔族の言葉だからだ。


「読めるのですか?」


 リョウコが期待を込めた目でそう訊く。


「ああ……『この箱庭を踏破せんとする者、この鍵を集めよ』――やはり鍵か」

「鍵? これが?」


 エミルがいぶかしげな声を上げる。

 無理もない。それは一般的な鍵の形ではなく、立体的な知恵の輪のようになっていたのだから。


「これは正確には鍵の欠片だ。これをすべて集めると鍵になるはず」

「へぇ……いい趣味してやがんな」


 石碑に収められた鍵の欠片を外し、拾い上げてエミル。

 それは、見方によってはただのガラクタにもみえるだろう。


「これが、この階層を攻略するために必要なんですね」


 と、アリス。


「それが欠片ということは複数あるということですが……」


 こちらは眉根をよせて、クリス。


「ああ、つまり――」


 これから、島という島を探索しなければならないという事実が確定した。

 鍵の欠片は、いったいどれだけあるのだろうか……。


今回のNGシーン

「古代語だな……フハハ! 読める!読めるぞ!」

「ラピュタごっこしてる場合かよ」

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