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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一三五話:食料っていったじゃないですか

 島そのものは、見通しの悪い熱帯雨林に覆われていた。


「うーん……これは確か毒があったはず……実をとって、ほぐして、流水で一昼夜さらしてからなら使えないこともないですけど」


 海岸の木からなる実は、アリスによればかろうじて食べられるといった感じであるらしい。


「一応抑えだけど、中心部をみてから――だよな?」

「ああ」


 エミルがそう訊いてくるので、俺は頷いて答える。

 手軽に収穫できるのは良いが、食べるまでに少し手間がかかりすぎる。

 そういうわけで、他の食物を探すべく、島の中央部へと向かう。

 先頭は前もって決めたとおり、俺だ。

 下草が多いので、光帯剣(こうたいけん)で切り払う。


「なんだそれ、めっちゃかっちょいいな!」


 反応するとは思っていたが、予想以上にエミルが食いついてきた。


「遺跡から出てきたものを、ちょっと改良してな」

「オレもつかってみていいか? な、な!」

「ああ。峰や平の概念がないから気をつけろよ」


 光帯剣は、光を刀身の形に束ねて対象を灼き切る剣だ。

 その構造上、片刃剣の峰打ち、両刃剣の平打ちという概念がなく、どこで斬っても斬れてしまうという特性がある。

 それゆえ、剣に不慣れなものが扱うと、自らを斬ってしまうという弱点があった。


 そして、もうひとつ。

 光帯剣には刀身の重さというものがない。

 光を刃にしている以上、手に感じる重さは柄のそれだけとなる。

 ゆえに子供でも扱えるわけだが、そこに前述の刃のどこを触っても斬れるという特性が加わると、途端に危険極まりないものになる。


 簡単にまとめると、剣という武器を使い慣れている者ほど違和感を感じてしまう武器、それが光帯剣というわけだ。


「うひょー!」


 すごく楽しそうに、エミルは光帯剣を振るった。


「いいなこれ! 銛全部ぶっぱなしたら予備の武器として使えるって訳だよな!」


 なるほど、携帯性に目をつけたのか。

 たしかにエミルの武器は射出機能のついた銛という巨大な武器である。

 その爆発力は確かに強力なのだが、エミル自身では一度だけ、予備の銛を他の人員に背負ってもらっても三発が限度と、非常に燃費が悪いうえに、エミルのいうとおり射出しきるとなにもできなくなる。

 それゆえ普段は射出機構ごと抱えて槍のように振るう訳なのだが、光帯剣を使えるのなら全弾を放っても戦い続けることが出来るというわけだ。


「なぁ、これって簡単に造ることできるのか?」

「簡単というわけでもないが……そうだな、三日くらいあれば」

「いいこときいた! オレのために一振り造ってくれ。たのむ!」

「いまのものより造りが簡素になるが、かまわないか?」

「ああ、まったくもってかまいやしないぜ!」


 試し斬りとばかりに下草を刈り取りながら、エミルは破顔してそういう。


「しっかしすごいな、こいつは!」

「いや、貴様もすごいとおもうが……」


 まず、初めて手にするはずの光帯剣をまったく躊躇せずに使いこなしているところがすごい。

 そして次に――あの重い射出機構付きの銛を『背負ったまま』で、光帯剣を振り回しているところがすごい。

 あれは一度俺も担いでみたのだが、魔族が背負っても相当の負荷がかかるはずなのだ。

 だというのに、エミルはまるでその重さがないかのように光帯剣を振るっている。

 体格的にはアリスほどではないがリョウコよりも細身だというのに、どこからその体力が出てくるのか……。

 かなり、謎だった。




■ ■ ■




「そら、おいでなすったぞ!」


 木の枝から降ってきた猿に似た自動人形に――、

 真っ先に反応したのは、エミルだった。

 件の発射機構付きの銛――エミルに言わせると、機撃銛(きげきせん)というらしい――を槍のように構え、一撃で胴体中央部を貫く。

 ちなみに、銛は発射していない。

 全身の筋肉をバネのように使い、機撃銛で両手槍のように刺突したのである。


 両手で持っているとはいえ、発射機構という重しでしかないものを、しかも膂力が必要とされる頭上の敵へと向けて繰り出す。

 並大抵の鍛錬ではなかった。


 ちなみに降ってきたのは四体であり、一体はいまエミルが撃破した。

 残りの二体は、それぞれクリスとアリスの銃撃によってひるんだところを、これもそれぞれ前に出たリョウコ、ニーゴによって撃破される。

 そして出遅れた最後の一体は、俺が両断していた。


「ヒュー! やるじゃん!」


 エミルが歓声をあげる。


「剣の構造もそうだけどよ、かなり腕がいいな」

「鍛錬は怠っていなかったからな」


 単純な消費時間を考えれば、人間の十倍近い寿命を持つ俺達魔族の方が最終的な経験値は上回る。

 もっとも、鍛錬だけに時間を割くわけにもいかないし、天寿を全うできる魔族というのはごく少ないが。

 ――いまの魔族は、どうだろうか。

 いまだに、俺は他の魔族の生き残りと遭遇していないが。


「どうした? さっさと探索を続けようぜ?」

「あ、ああ。すまない」


 軽く頭を振って、再び隊列の先頭に出る。

 その際、アリスとクリスが意味ありげな視線を送ってきた。

 ごく短時間とはいえ、俺が急に惚けた理由を察したのだろう。

 だから、俺は大丈夫だといわんばかりに頷いてみせた。

 ふたりを不安にさせるわけにはいかない。

 そんなやりとりを経て、俺達は探索を再開した。


「ん――木立が途切れそうだな?」

「そのようだな」


 沿岸からみた島の大きさから計算するに、そろそろ島の中央部分だろうか。

 うっそうと茂った熱帯樹林を抜けるとそこは――。


「なんだこりゃ」

「――畑のようだな」


 そんなわけはないのだが、島の中央部は開けており、開墾された土地のように土が露出していた。そしてその真ん中には、


「なんか、緑色のものが生えていますが――」


 クリスが目をこらしながらそう呟いた。


「――なんですか、あれ」


 眉をひそめるのも無理はない。

 地面から、緑色の脚が生えているのだから。

 おまけになぜか、妙に艶めかしい。

 そして困ったことに、俺はそれを知っていた。


「一応、食べられる野菜ではあるな――」

「なんていう名前なんですか?」


 アリスが、無邪気に訊く。

 いや、知らないのだから当然か。


「あれは……あれは……ッ」


 名前を知っているが、それを口に出すわけにはいかない。

 なぜなら、俺の信用に関わるからだ。

 さて、どうしたものか……。


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