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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一三三話:提督総嬢の愛馬は凶暴です(色々な意味で)


「改めて自己紹介させてもらうぜ。船団フラット総代大佐、エミル・フラットだ」


 兜を脇に抱えて、雷光号(らいこうごう)の甲板に降り立ったフラットの代表はそういった。


「――大佐?」


 しかも頭に総代という謎の肩書きが付いている。


「そこがすごくややこしい話なんですが」


 俺の疑問を、クリスが補足してくれた。


「フラットでは、階級は大佐までなんです」

「なんでまた」

「大佐って響きが格好いいからだ!」

「お、おう……」


 それでいいのか。船団フラット。


「その代わり、大佐の上に色々とつくんです。大佐の上を説明すると――」


 以下、クリス曰く、

 准将に相当するのが、若衆大佐。

 少将に相当するのが、若頭大佐。

 中将に相当するのが、番頭大佐。

 大将に相当するのが、組頭大佐。

 そして元帥に相当するのが、彼女が名乗った総代大佐なのだという。


 なんというか……。


「建て増し感が、すさまじいな……」

「おう! 我が軍ながら破綻もせずよくここまでやれたよな」


 自分のことなのに随分と達観した様子で、フラット総代大佐は笑う。


「んで、そっちがルーツと、シトラスと――」

「巡洋艦『雷光号』艦長、アンドロ・マリウス大佐だ。こちらが秘書官のアリス・ユーグレミア少尉、奥の鎧姿がニーゴ兵曹長だ」

「へぇ! ってことは、あんたが噂の海賊狩りか!」

「え、ご存じなんですか!?」


 アリスが驚きの声を上げる。


「知ってるもなにも、お隣さんだろ。噂は嫌でも飛び込んでくるよ」

「そ、そうでした……」


 そういえば、そうだった。

 船団フラットはいつつの船団の最後。

 ここで『海賊狩り』の認定をもらえば、俺の旅は終わることになる。


 もっとも、当面はこの箱庭脱出に集中しなければならないが。


「フラット総代大佐」

「エミルでいい。その代わりこちらも好きに呼ばせてもらう」

「ではエミルで――その装備でよもや単独行動ということもあるまい。そちらの拠点に案内してもらいたいのだが」

「ああ、いいぜ。んじゃ――」


 再び兜を被ろうとするフラット――いや、エミルを押しとどめる。


「搭載艇一隻分くらいなら収納できる。ニーゴ」

「おう」


 ニーゴが操縦室にひっこむ。

 彼が操作しているようにみせかけるためだが、実際はもちろん二五九六番として直接動かしているわけだ。


「巡洋艦にしては立派な可動梁(クレーン)を持っているな……」

「もともと交易船でな」

「なるほど、クリスタインのお抱えってことか」

「そういうことだ」


 そう言っている間にも、横付けされた水雷艇が雷光号に収納されていく。


「助かるぜ。もう燃料が心許なくてな」

「だろうな……」


 『鬼斬(おにきり)』の場合は座礁、そして籠城という順番だったので気にしなくても良かったが、常に動き続けなければいけない、それも機動力重視の水雷艇では燃料の残量は常に意識しなくてはならないものであったろう。


「それにしても――」


 釣り上げられていく船体を眺め、俺は驚嘆した。


「すごいな、これは」

「お! わかるか!」

「ああ。無駄のない船体に最大出力の機関。そして必殺の銛とそれを使えるようにするための各種装備といったところか。俺が今まで見た船の中で、もっとも機動力と攻撃力を重視した船になるだろうな」

「そのとおり! さすがシトラスのクリスタインが『海賊狩り』に推挙するだけはあるなっ!」


 エミルが破顔して言う。

 もっとも、逆に言えば防御力はまるで考えられていない。

 おそらく最も小口径の砲が命中しただけで、この水雷艇は行動不能に陥ってしまうのではないだろうか。


「でも、オレらにはこれがある。一騎当千の水雷艇。騎士の象徴にして最大の武器ってやつだ」

「騎士――だと?」

「そうだ。騎士だ。その口ぶりだと聞いたことがあるのか?」

「ああ、まぁな」


 久しぶりに、懐かしい言葉を聞いた。

 封印される前の俺が率いていた魔王軍の場合、騎士とは馬に乗って戦う者を指し、のちに機動甲冑で戦う者となっていった。


「こういう小型の船には名前はつけないと聞いたが……型ぐらいはあるだろう。名前は?」

「いや、これはオレ専用さ。そして他の船団ならともかく、うちの船団は名前をつける習わしなんだ」

「ほう?」

「船団フラットの技術を結集し、熟練の騎士が一心同体となったとき文字通り一騎当千となる水雷艇……憶えておきな。その名前は――」


 随分ともったいぶってエミルはいう。

 おそらく、故事や過去の英雄の名前でもつけているのだろう。

 まちがっても、あの忌々しい勇者の名だけはやめてほしいのだが――。


「『轟炎(ゴゥファイヤー)』という!」

「……ご?」

「『轟炎(ゴゥファイヤー)』だ!」

「……そ、そうか」


 ものすごく聞き慣れない言葉であったが、おそらく俺が封印された後に興り、俺の封印が解けた頃には廃れた言語、古代語なのだろう。

 割と使う言葉か? そんな疑問を表情に浮かべて隣にいるアリスたちを見る。

 しかし、クリスもリョウコも首を横に振っていた。

 アリスのみが、困った様子で笑顔を浮かべている。

 察するに、この命名規則はエミル独特のものらしい。


「どうした?」

「いや、船団フラットは独特だなと思ってな」

「そうだな。古い戦法をずっと使っているのは確かだからな」

「古い戦法?」

「昔、オレたち人間が海賊と戦うには、こういう小型の船でやりあうしかなかったんだよ」

「なるほど――な」


 それは、戦う船の歴史なのだろう。

 まだ駆逐艦、巡洋艦、そして戦艦を持てない――いや、造れなかった時代。

 人は、捨て身覚悟で海賊と戦っていたというわけだ。


『大将、収納終わったぜ』

「あ、ああ」

「んじゃ、行くか?」

「いや、まずは『鬼斬』まで戻る」

「『鬼斬』も来てんのか。まぁ、リョウコがいる以上そうなるよな」


 そういうわけで、一度『鬼斬』に戻る。


「これはまた、えらい変わり様だな……あんたがやったのか?」

「ああ。生き残るためだ、リョウコの了承も得ている」

「それを否定するつもりはないね。っていうか、こっちの拠点でもその腕を振るって欲しいもんだ」

「わかった。最善を尽くそう」


 再び『鬼斬』を曳航する状態になって、俺たちはエミルのいう拠点へと進んだ。

 その間にも、この区域の観測は怠らない。

 どうやら、先の水の壁があった区画と同じく、ここも昼のみ、そして天候の変化はほとんどないとのことだった。

 案内人のエミルといえば、操縦室へと入らなかった。曰く、普段から露天している水雷艇に乗っているため甲板にいた方が落ち着くのだという。

 そして、いくつかの島を通り過ぎたとき――。


「みえてきたぜ」

「あれは、我が艦隊の!」


 リョウコが声を上げる。

 どうやら、エミルの艦はリョウコを救出しにきた艦隊と合流できたようで、数隻の艦が寄り添うように停泊していた。

 ただしどの艦も著しく損壊しており、もはや自力で航行できるようにはみえない。


 そして、その艦隊を護るように、一隻の軍艦が佇んでいた。


 今まで見てきた、どの軍艦ともその様式が異なっている。

 全体的に大きい割に、武装は少なく、装甲も厚そうにみえない。

 その代わり、後部に見慣れぬ施設があった。

 最後尾が大きく角張っている上に、水門のようなものが設えてあったのだ。


「あれがオレたちの水母戦艦――」

「水母戦艦?」

「水雷艇母艦機能付き戦艦の略称だ。まぁ戦艦っつっても単艦だとウィステリアんとこには足で負けるし、装甲の厚さはジェネロウスには勝てねぇし、シトラスんとこにはこてんぱんだろうよ。ルーツんとこだって、乗り込まれたら多分終わりだ」

「単艦では――といったな?」

「ああ」

「推測するに、水雷艇の母艦能力があると?」

「そういうことだ。水雷艇が出ればどこの船団にだって負けねぇよ。改めて紹介するぜ。あれがオレたちの水母戦艦――」


 エミルが胸を張る。

 だが、先ほどの水雷艇の事を考えると――。


「『轟基(ゴゥベース)』だ!」

「――なんだって?」

「『轟基(ゴゥベース)』」


 ああ、やっぱり。

 クリスとリョウコを再び見る。

 今度は表情に出すまでもなく、ふたりは一緒にしないで欲しいと言わんばかりに大きく首を横に振ったのであった。



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