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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一三〇話:ボスモンスター対ラスボス(魔王)

 

「ここも行き止まり――ですね」


 最後の角を曲がったところで、アリスがそう呟いた。

 タリオンの箱庭、水路の迷宮。

 本拠地である浮城『鬼斬(おにきり)』を中心に探索の範囲を広げていった俺たちは、ついに全領域を踏破した。

 十字路、三叉路、袋小路に螺旋回廊――。

 元が広いので錯覚しがちであったが、この迷宮、決して単純な作りではない。

 それに加えて、ただの水の壁から機動甲冑は出現するわ、魚影すら見えなかった水辺から急遽生物型、機械型を問わず自動人形が飛び出てくるわで、俺たちはあるときは艦砲で、またあるときは甲板上を白兵戦で切り抜けてきたのであった。

 罠?

 もちろんあった。

 小島に凝滞している機動甲冑という大がかりなものから、近づけば爆発する難破船の偽物まで、よりどりみどりだ。

 だがそれらの罠は、文字通り全部踏みつぶしてやった。

 そして、すべての通路を踏破したわけだが……。


「まさか、出口がないとは――予想外でした」


 リョウコが困惑した様子で呟いた。


「入り方が入り方だったので、ある程度予想していましたが……隠し通路でもあるのでしょうか」


 より冷静に、クリスがそう訊いてくる。


「それはありうるな。ただそれよりも別の可能性を考慮した方がいい」


 おさらいになるが、箱庭を攻略するにはみっつの方法がある。


 ひとつは、設定された敵を全滅させること。

 ひとつは、設定された期間を経過すること。

 ひとつは、特定された場所に到達すること。


 そのどれかを達成すれば、入ってきたときと同じように、外へと繋がる光の渦が出現するはずであった。


「まさか、時間ではないですよね……」


 眉根にしわを寄せて、クリスがそう呟く。


「いや、時間では無いと思う」

「というと?」

「その気になれば、いくらでも生存できる環境だからだ」


 もし本当に制限時間型で、罠として中に入った者を全滅させることを意図しているのなら、魚や海藻の類いが獲れない環境を作ればいい。そうすればさして間を置かずに、中に入った者たちは飢えて死んだことだろう。


「そしてすべての通路を踏破したいま、設置された出口という線も消えた。だから、条件は敵の殲滅だろう」

「殲滅なら、なぜこうやって生き残れるようにしてあるんですか?」

「それはもっと簡単だ。『希望を抱かせたところで絶望に叩き込む』つまり――」


 最低限、生存できる状況は残しておく。

 だが、脱出するためには敵を殲滅しなければならない。

 箱庭の中で延々と生き延びることはできるがしかし、脱出することもまた、延々とできないわけだ。

 だから、こちらが全滅することを覚悟して、敵の殲滅に乗り出すしかない。

 往々にして、その結果は――ということになるが。


「本っ当に性格悪いですね、この迷宮の制作者!」

「ああ、そうだな……」


 脳裏に親指を立ててにこやかに笑うかつての友が浮かぶ。


「まぁそこまで悪いやつでは――」


 ……そういえば、お世継ぎ大作戦なるものがあった。

 ある日俺が遠征から戻って自室に入ったら、中に各地から集められた魔族の少女たちが女給服姿で待っていて、一斉に服を――。


「――悪いやつではあったな……!」

「マリウス殿?」

「あ、いや。文献を思い出しただけだ」


 ちなみにその少女たちは全員就職希望先を聞き、あるものは郷里へ返し、またあるものは魔王軍へと編入していたりする。

 タリオンはひとりくらい手元に置けとうるさかったが、いきなり自室を後宮状態にされた当時の俺にしてみれば、迷惑極まりない話であったのだ。


『んじゃま、引き続き出てくる敵をぶったおせばいいわけだな』


 と、二五九六番――余談だが、リョウコがいるうちはニーゴ呼びである――が呟く。


『んでも、いままでで、何匹倒したっけなぁ……』


 マリスがいれば正確な数字が即座に出てくるのだが、生憎彼女は船団ジェネロウス付けの身だ。

 だが、体感的には……。


「そろそろ、兆候があってもおかしくないのだがな」


 俺たちが倒した分の他に、『鬼斬』が沈めた分も含めればかなりの数になる。


『兆候? なんかあんの?』

「そうなるとだな――」


 ふと、影が差した。

 見上げるよりも早く――。


「――! なにかが上から来ます!」


 ニーゴより先に、アリスが叫ぶ。


 巨大な水しぶきがあがった。

 雷光号(らいこうごう)の目前に巨大な何かが降り立ったのだ。


「後退! 同時に主砲、速射砲、装填!」

『もうやった!』


 水しぶきがおさまり、その姿が露わになる。

 そこにいたのは――。


「……機動甲冑!」


 だが、


『なんだこれ、でけえ!』


 通常の機動甲冑の、約二倍の大きさであった。

 つまりは、強襲型の雷光号と同じ規模を誇るということだ。

 同じ大きさなら、船団ジェネロウスでもみたことがある。

 だがあちらは見た目だけでわかるくらい、つぎはぎだらけの張りぼてだった。

 こちらは違う。

 一目でわかるくらい均整の取れた体格。

 高出力機関搭載特有の、表面装甲から立ち上る陽炎。

 そして重量と切れ味を両立させた、凶悪な意匠の剣。

 そのどれもが、高度な技術と熱意で造られているのがわかる。


「ここまで、やれたか……」


 機動甲冑は、なにも大きければ大きいほどいいというわけではない。

 巨大になればなるほど出力を増すことが出来るが、その分構造の負荷、取り回しの難しさ、なにより整備性の劣化が目立つようになる。

 それ故、俺が封印される前まで、機動甲冑の大きさは平均的な魔族の身長の、約十倍を目安としていた。

 だが目の前のそれは、強襲形態の雷光号とほぼ同じ大きさを誇っている。

 装甲の改良、関節の根本的強化、そして整備の改良。

 これらすべての基準を満たしたのだろう。

 ――見事だ。

 今や敵ながらもそう思う。

 俺は、口の端の笑みを隠せているだろうか。


「主砲、速射砲、撃て!」

『おう!』


 轟音と共に、すべての艦砲が火を噴く。

 だが――。


「損傷ありません!」


 前方の表示板をみつめていたアリスが、そう報告した。


「総員安全帯装着! 雷光号、強襲形態!」

『あいよっ!』


 雷光号が後退しながら、強襲形態へと変形する。


「へ、変形ですって!?」


 そういえば、リョウコはまだ通常形態の雷光号しかみていなかった。

 が、今は詳しく説明しているひまがない。


『敵さん来た! はええ……!』


 後退しながらの変形を隙と判断したのだろう。

 大型の機動甲冑が追撃に入り、その巨大な剣を振りかぶる。


『うおっ!』


 とっさに剣で弾いたが、それでも衝撃は吸収しきれず、一歩引いてしまう雷光号。


『こいつ、つえぇぞ!』

「彼我の出力が近いのか……!」


 いままではこちら側が常に有利であったが、ついにそれが覆されたということになる。


『大将、どうする!?』

「くっ……!」


 対策なら簡単だ。

 俺自身が出撃すればいい。

 だが、そうなればリョウコに俺が魔王であることを明かす必要がある。

 それはいま、避けたいところであったがしかし――。


「ニーゴ殿! 関節を狙うのです!」


 予備の座席から、リョウコ本人が叫んでいた。


『狙うっていってもよ!』


 巨大機動甲冑を切り結びあいながら、ニーゴがそう叫ぶ。


「いいですか、剣筋をなぞるのではありません。必要最短距離を見極めて、一気に斬るのです」

『いっきに――斬る』

「そうです。貴殿は剣の筋がいい。きっとできるはず!」

『ありがとよ、刀の嬢ちゃん! 大将?』

「ああ、やってみろ!」

『おう!』


 一度強く打ち合ってから、雷光号が少し距離を取った。

 そして剣を両手に持ちかえると、深く腰を落とす。

 敵機動甲冑の動きが一瞬止まった。

 おそらく、こちらの真意を計ろうとしたのだろう。

 だが、その判断は命取りだった。


『こ・う・かぁー!』


 狙いを定めていた雷光号が、機関を最大にふかして一気に接近する。

 巨大機動甲冑が防ごうと剣を構えるが――。


『おせぇよ!』


 斜め下から斬りあげるように、雷光号が剣を振るる。

 それは狙い違わず巨大機動甲冑の胴体部分、装甲と装甲の隙間を斬っていた。

 巨大機動甲冑は痙攣(けいれん)するように震え、そして徐々に崩れ落ちていく。


『……やったぜ』


 念のためか、追撃のために構えていた剣をゆっくりと降ろして、ニーゴがそう呟いた。


『刀の嬢ちゃん、ありがとよ。おかげで勝てた』

「礼には及びません。私はただ、助言しただけですから。それよりも、お見事でした。ニーゴ殿」

『――おう! ところで刀の嬢ちゃん』

「はい」

『なんでひっくりかえってんの?』

「それはですね――」


 端的にいうと、安全帯の装着に慣れていなかったため、固定が中途半端だったのだ。

 幸い、安全帯を手で掴んでいたため放り出されることはなかったが――代わりに安全帯でがんじがらめになっているリョウコであった。


『わりぃ、ちと振り回しすぎたか』

「いえ、いまのは必要なことでしたから! ちゃんと固定しなかった私が悪いのでどうかお気になさらず!」



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