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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一二八話:箱庭に潜む悪趣味なモノ

 

 探索は、順調に進んだ。

 大型の敵は雷光号(らいこうごう)の主砲、および速射砲で片付け、甲板に飛び乗る小型の敵は俺、ニーゴ、そしてルーツ少将(場合によってはクリスとアリスも参戦)が殲滅するという流れで進めることが出来た。

 その際、俺は箱庭に出る敵の種類を解説することにしていた。

 どのような敵か事前に情報を共有しておけば、それだけ殲滅にかかる手間も時間も節約できるからだ。


「あれは簡易型自動人形。いわゆる歩兵型だな」

「四つ足のは騎兵型。動きが素早いのもそうだが、突撃が強烈なので気をつけろ」

「片方の腕が妙に大きいのは弓兵型だ。接近する前に撃たれる可能性が高いから、アリスかクリス、あるいは俺の遠距離攻撃で沈めるまでは回避に専念してくれ」


 機械系は、おおむね理解が早かった。

 見た目と機能が一致しているからだろう。

 ただし、みたことが無い機能というものは説明せねばならない。


「あの、マリウス殿。騎兵というのは?」

「……そうだな。そこから説明しないといけないな」


 今は陸地がほとんど無いため、騎兵はその概念ごと消失していた。

 というか、馬がいない。

 タツノオトシゴの別名が確かウミウマであったはずなので念のため確認してみたが、安堵すべきというかなんというか、馬大のタツノオトシゴは存在していないようであった。

 もっとも、そのことに安堵した俺は随分と奇妙な目で見られてしまったが。


 さて、機械型の敵の方はわりと早く情報共有が出来た。

 問題は生物型の方になる。

 なにせこちらは、機能と外観が一致しない。

 たとえば――。


「一見すると、無害ですが……」


 それをみつめながら、クリスがそういった。


「そうみえるだろう」


 空から舞い降りたかのように甲板に現れたそれは、一見すると兎くらいの大きさの白い毛玉に見える。

 これがどうも、魔族問わず人間問わず、かわいくみえるらしい。


「ルーツ少将、あれと戦ったことは?」

「いえ、ありませんが……」


 当惑した様子で、当の本人がそういう。

 その視線は、クリスと同じく毛玉をみつめていた。


「そうか。なら、ちょうどよかった。――ニーゴ」

「おう、こいつを構えればいいんだな」


 ニーゴが、急ごしらえの大盾を構える。


「俺が合図したら全員その中へ、いいな?」

「はい」

「わかりました」

「承知致しました!」


 アリス、クリス、そしてルーツ少将が頷いたのを確認して――俺はあらかじめ用意しておいた金属の端材を毛玉に投げつけた。


「いまだ! いそげ!」


 全員が大盾の影に隠れた直後、不気味な破裂音が響く。

 本来なら障壁の魔法でどうにか出来るのだが、俺の事情を知らないルーツ少将がいる以上、そうはいかない。


「――よし、いいぞ」

「こ、これは……」


 それをみて、ルーツ少将が絶句した。

 毛玉は、もう影も形もない。

 代わりに、ニーゴの大盾にびっしりと細いトゲが突き刺さっていた。


「そういうわけだ」

「うわぁ……」


 クリスが年相応な声を上げた。

 それだけ、衝撃的だったのだろう。


「このように、ちょっとした衝撃を与えるだけで破裂する」

「条件は、ものをぶつけることだけですか?」


 唯一冷静なアリスが、そう訊いてきた。


「いや、抱き上げても駄目だ。今回それを試さなかったのは――わかると思うが、回避がむずかしくてな」

「ですよね……」


 よほどの重装甲でない限り、負傷は免れない。

 いや、負傷というよりも――。


「すげえ、盾がタワシみたいになってら」


 自分の構えていた盾のトゲだらけになった表面をみてニーゴがそういった。

 この通り、金属製の盾にも突き刺さるわけだから負傷どころかという話である。


「そういうわけだ。この箱庭で得体の知れないものを見つけたときは、それがなんであれまず俺に知らせてくれ。くれぐれも、勝手に触ったりしないようにしてほしい」


 実例を間近で体験したためであろう。

 真剣な顔で頷くアリスたちであった。

 ――まぁこれは極端な例なのだが、それは伏せておく。

 箱庭では初見でわからないものが多すぎるからだ。

 そして逆に、見た目で無害と判断できないものもある。


『なぁ大将、本当にあれはやらなくていいのか?』


 箱庭の海を歩き回る手足の長い緑色の巨人を見送りながら、二五九六番がそういった。

 海面から大腿部がみえるので海底までの深さがだいたい想像出来るのが、ありがたい。


「ああ、あれはいい。もちろんこちらが攻撃すれば反撃してくるが、基本的に向こうから仕掛けることはないからな」


 大股でゆっくりと闊歩する巨人を、操縦室の表示板越しに見送りながら、俺。


「あれは、環境保全型といってな、この箱庭の環境を――水質、空調などだ――循環させるために存在している。それを知らずに攻撃すると、巨体を活かした反撃をしてくる罠でもあるがな」


 もちろんそう簡単に倒されては困るので、かなり頑丈に造ってある。

 俺や強襲形態の雷光号でも倒しきるには相当苦労するだろう。


「さっきのトゲ爆弾もそうですけど……この箱庭を造った方、相当性格悪くないですか?」

「それは――褒め言葉として受け取るだろうな」


 クリスの感想に、俺はそう言葉を返す。

 我が配下、タリオンなら――我が意を得たとばかりに、にこやかな笑みを浮かべるに違いない。


「ん? マリウス殿はこの迷宮の制作者をご存じなのですか?」

「ああ、発掘品の調査をしている際、たまたま文献をみつけてな」


 ルーツ少将の指摘に対し、流れるように設定を話す俺。

 その辺りの説明については、彼女が探索に同行すると決定してから一通り話してあるので、すぐに納得してくれた。


「なるほど、見た目にはよらないというわけですね」

「そういうことになるな。……あれとも、戦ったのか?」

「いえ、相手に戦意がありませんでしたので。あれよりもむしろ――」


 警告音が鳴った。

 何者かが、水面から甲板に飛び乗ったのだ。


「大将、あいつらだ! あの青いやつ!」


 即座に艦と分離したニーゴが、そう叫ぶ。


「ついにきたか」


 腰に提げた光帯剣の様子を確認しながら、俺。


「アリス、クリス、それにルーツ少将は待機! 俺とニーゴでいく!」

「私もいけます!」

「だめだ、理由は後で話す!」


 光刃刀を得てやれると判断したのだろう。

 そんなルーツ少将を押しとどめ、俺とニーゴは甲板へとあがった。


「わかっていると思うが、絶対に艦内へ入れるなよ」

「ああ。甲板に乗られているだけでも持ち悪いかんな!」


 確かに、ニーゴにとってみれば自分の身体に虫が這い回るような気分なのだろう。

 幸いにして数は多くない。

 これなら掃討にも時間はかからないだろう。

 ――前回よりも、確実に。


「あれ?」


 すぐに気付いたらしい。

 ニーゴがそんな声を上げた。


「こいつら、前より弱くね?」

「そうだ。この違い、よく憶えておけ」

「お、おう……?」


 程なくして、掃討は終了した。

 当然だろう。あの司令塔を襲ってきたやつらより数も少なく、また弱いのだから。


『終わったぞ。甲板にあがってきてくれ』


 魔力を使った艦内放送で、アリスたちを呼ぶ。

 その間にもう一度辺りを見回し、増援や仕留めぞこなっているものがいないかどうかを確認する。


「これはまた、徹底的にやりましたね……」


 すべての敵の首がはねられていることを確認して、クリスがそんな感想を漏らす。

 次いでアリスが小首をかしげ、


「あれ? 前にみたときはもっとこうどろどろしてませんでした?」

「するどいな。生物型は完全に行動不能――つまり死ぬ――になると、循環させるためにその細胞組織が崩れるようになっている」

「なるほど、だから新鮮な状態でみせたかったと。でも、なぜそれまで私達を艦内で待機させたんです?」


 クリスが、当然といえば当然の質問をする。


「それは、だな……非常に言いづらいのだが……」


 一度、言葉を句切る。

 それほどまでに、これはおぞましいものなのだ。


「この生物型はな、相手がいわゆる女性である場合、戦闘ではなく繁殖を優先する」

「それって、まさか……」

「おそらく想像しているとおりだ。そして、それを邪魔するものを全力で排除しようとする。傍目には、強化されたようにみえるだろうな」

「それでは――」


 ルーツ少将の顔が青ざめていく。


「ま、まさか、急に司令塔を狙いはじめたのも――」

「一度でも、相手に姿を見せたな?」

「最初は陣頭指揮を執ったのです。ですが、その途端攻撃が苛烈になって――その原因が、私だったんですね」

「そういうことだ」


 ルーツ少将が、静かに膝をつく。

 それほど、衝撃であったのだろう。


「なんということ……」

「あまり気に病まない方がいい。知らなければ、仕方のないことだ」


 それでも、納得は出来ないのだろう。

 ルーツ少将は刀の柄を握りしめ、俯いたままであった。


(そんなものが、あったんですね……)


 ルーツ少将に聞こえないようにとの配慮だろう。

 クリスが、小声で俺に囁く。


(試作の段階で、俺は止めたがな。人を滅ぼすのに効率的この上ないという上奏であり、事実ではあったが――相手の尊厳を踏みにじるそれは、その……)


 最後までいうのを、少しためらう。

 なぜなら、クリスもアリスも――。


(人間と同じになってしまう……ですね。マリウスさんたち魔族を虐げた存在と、一緒になってはいけないと)


 おなじ人間だというのに――。

 アリスは、躊躇無く踏み込んできていた。


(……そうだ。あくまで当時の話だし、攻め込まれる側にとっては名誉のあるなしなどなにも変わらないことは重々承知しているが――)


 それでも、誇りは持つべきだ。

 それが、当時の俺の決断であった。


(でも、マリウス艦長が封印された後は、そこまでする義理はなかったということですね)

(そういうことなのだろうな……)


 あるいは、これを解き放たねばならないほど、戦局が追い詰められたものになったのか。

 どちらにしても、これがいる以上は……。


「なので、もう一度いう。これが出たときは、俺とニーゴに任せてくれ。万が一組み敷かれたりした日には――悲惨なことにしかならない」

「わかりました!」


 決意も新たにといった様子で、ルーツ少将が凜と答える。


「アリスとクリスも……いいな?」

「はい」

「もちろんです」


 深く頷くふたりに、俺は安堵する。

 これなら、不用意に飛び出すこともないだろう。


「それに、同じ押し倒されるならマリウスさんの方がいいです」

「俺は押し倒さないがな!?」

「なら私はどうですか?」

「なおさら押し倒さないがな!?」

「ずるいです、私だってアリスさんよりふたつだけしか年が違わないんですよ」

「どのみち押し倒さないという意味だ……!」


 おぞましい生物型を前に、気を紛らわせたいというのは、わかる。

 だがもっとこう……なんというか、こう……!


「ルーツ少将、なにかいってやってほしい――ルーツ少将?」

「はわわ……」


 想定外の事態だった。

 ルーツ少将が、熟したイチゴもかくやといった勢いで、真っ赤になっていたのだ。


「お、押し倒すというのは、その、夫婦(めおと)となったあとにするという――その――」

「別に夫婦じゃなくてもするのでは?」

「ですね」


 クリスとアリスのそのとんでもない会話がとどめとなったのだろう。


「はうぅ……」


 ルーツ少将は、卒倒してしまった。


「意外と免疫がなかったんですね」

「ちょっと、おおっぴらすぎたのかもしれませんね」

「ちょっとどころではなかったと思うのだが……」


 アリスもクリスも、なんとうか、こう――。

 もう少し、慎みを持った方がいいのではないかと思う、俺であった。



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