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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一二七話:サムライガールブレード・ビフォー・アフター

 雷光号(らいこうごう)の船室に戻ってからのことだ。


「これをみてください」


 ルーツ少将が刀を抜いて作業台の上に置いた。

 それだけでもおおまかにわかってしまうほど、状態はよくなかった。

 これは……。


「整備不足か」

「やはりわかりますか」


 刀身に微妙にゆがみが生じていた。

 つまりは、それだけ酷使させてしまったということだろう。

 刃そのものも、あと少しで欠けそうであった。

 あの鋭い斬撃である。

 一部でも刃が欠ければ、その切れ味は一気に下がってしまうだろう。


「本来は複数回の修羅場をくぐっても耐えられるひと振りなのですが……無理をさせすぎてしまって。おそらく後数回使用すれば刀身が折れてしまうでしょう」

「だろうな……だが」


 その設計は美しかった。

 片刃にしたのは、長さと強度と重量の均衡を取るためだろう。

 刃に絶妙なそりを持たせたのは、鞘から抜きやすくしたのだろうか。

 おそらく、そこから着想を得てあの抜刀術が生まれたに違いない。


「なぁ、大将……これ、もったいねぇよ」


 興味津々といった様子でのぞき込んでいたニーゴがそういう。

 どうも、ルーツ少将の剣技をみてから刀そのものに惚れ込んだらしい。


「そうだな。少し、借りてもいいか?」

「ええ。構いません」

「助かる。では――」


 魔力による走査を応用して、その構造をみてみることにする。


 ふ。

 ふは。

 ふはは。

 ふはははは!

 ふはははは……は?


「なんだ、これは……!?」


 柔軟な鉄と堅硬な鋼を組み合わせ、刀身がそう簡単に折れないよう粘りを持たせているのは、わかる。

 光帯剣に至る前、もしくは魔力があまり豊富でない者の武器を考案する際、俺も同じ構造の剣を作ったものだ。

 だが、それらを極めて薄く伸ばし、何十層にも重ね合わせるというのはどういうことか。


「理論的には、より強靱な構造になるのはわかる。わかるが……」


 常軌を逸している。

 量産性、あるいは作成までの手間を一切考えず、ただひたすら戦い続けるためだけに作られた武器――そういうものが存在することに、俺は戦慄を覚えた。


「そちらの船団では、皆このような刀を使っているのか」

「ええまぁ……私のはだいぶ手がかかっているそうですが」

「だろうな」

「でも、もっと上の刀もありますよ。私のそれは、五段階あるうちの上から二番目といったところでしょう」

「どれだけだ……!」


 さらに手間暇をかけた刀がこの上にあるだと――!

 船団ルーツの人員が、ことあるごとに白兵戦を仕掛けていた気持ちがよくわかる。


「それで、その……どうでしょうか?」


 ルーツ少将が心配そうに聞く。


「そうだな。これは――」


 何度か走査しなおしてみる。

 その結果を照らし合わせ――俺は答える。


「これは、元通りにするのがかなり難しいな……」

「やはりそうでしたか」

「すまない。期待を持たせてしまった」

「いえ、どうかお気になさらず。わが船団でも完全に直せる者は限られておりますので」

「そうか……だが……」


 模倣はできる。

 模倣はできるが、同じ性能を確保することが出来そうにない。

 で、あれば――どうすればいい?


「どうする? 元の形は保証できないが、直すか?」

「いいのですか?」

「ああ。ただ何度もいうが、元通りになる可能性は非常に低いが」

「構いません。この刀にとって忌むべきことは折れて戦えなくなることですから」


 こちらをまっすぐ見つめ、ルーツ少将は続ける。


「であれば、多少姿形が変わっても刀にとっては本望でしょう」

「そうか……わかった」

「どうか、よろしくお願い致します」

「承ろう」


 ルーツ少将から、刀を託される。

 さて、どうしたものか……。



 □ □ □



 自室に籠もって、俺はひたすら唸っていた。

 形を変えて直すのなら、簡単だ。

 具体的に言えば刀身の無事な部分だけを摘出してしまえばいい。

 だがそうすれば、この刀は必然的に短くなる。

 ルーツ少将は断言していなかったが、鞘走りを利用する以上、ある程度短くなってしまえばあの抜刀術は使えまい。

 おそらくルーツ少将は抜刀術以外の剣技も使えるのだろう。

 だから極端な戦力の低下はないとみていい。

 だが、あの絶技は惜しい。

 それゆえ、できれば長さを損なわずに刀身を直したかった。


「失礼します」

「――アリスか」


 扉の前で律儀に待つアリスに入室を促す。


「クリスは?」

「リョウコ少将をお話ししています。なんでも、何度かお話ししたことのある仲だそうです」

「そうだったのか……」


 そういえば、クリスが何度かリョウコと言いそうになっては、ルーツ少将と呼び直していた。

 おそらく、船団同士の交流で顔を合わせたことがあったのだろう。


「それで、アリスはどうした?」

「マリウスさんのことが気になったんです。いつになく難しい顔でしたから」

「そうか……」


 顔に出るほどだったか。

 思わず手で隠してしまう。

 もちろん、いまやってもまるで意味の無いことであったが。


「そんなに難しいんですか?」

「元の構造が複雑――いや、手が込んでいるからな」


 俺は簡単に現状の問題点をアリスに説明する。


「うーん……」


 アリスのいいところは、専門外のことであってもしっかりと考えることだ。

 秘書官としてみなくても、その姿勢は好ましく思う。


「それなら、マリウスさんが同じ性能の刀を造ればいいのではないでしょうか?」

「俺ではこの切れ味は再現できないぞ」

「切れぐあいなら、出来ると思いますよ?」

「……どういう意味だ?」


 アリスは直接答えずに、俺の腰に提げられたものを指さした。


光帯剣(こうたいけん)……? そうか!」

「そのままだと鞘が意味ありませんから、改良の余地がありますよね。わたしだと、リョウコ少将の剣術にどう対応するのか想像できませんけど――」


 思わずみつめた俺をみつめかえして、アリスはいう。


「マリウスさんなら、できますよね?」

「ふはは! むずかしいことをいってくれるな……!」


 だが、できないわけではない。

 要は片刃の、峰の部分が実体化している光帯剣を造ればいいわけだ。

 それならば――!



 □ □ □



「またせたな……」

「いえ、一晩しか経っておりませんが――」

「ちょっと頑張ってみた」

「そ、そうですか」


 刀って、造るだけでも相当時間がかかるものですが……と、ルーツ少将が呟く。

 だがいまは箱庭という迷宮を攻略中の身だ。

 急ぐにこしたことはなかった。


「まず、ルーツ少将の刀そのものだが――」

「はい」

「すまない。長さを詰めるしかなかった」


 そういって、俺は作業台の上に短くなった刀を置いた。


「擦り上げですね。ありがとうございます」

「これ以外に刀身を活かす方法がなくてな」

「いえ、仕方のないことですから」


 ルーツ少将の言いたいことはわかる。

 少し長めの短剣くらいになってしまっては、例の抜刀術が使えないのだろう。


「なので、それとは別にこんな武器を作ってみた」

「えっ!?」

「元の外装はこちらに移させてもらった」

「拵えに合わせたんですか!?」


 あとでわかったことだが、刀の外装のことを拵えというらしい。

 そして、普通は刀身に合わせて造るもので、拵えに合わせて刀身を造ることはまず無いそうであった。


「見た目は、刀と変わりませんが――まさか、一晩で一振りを打ったのですか!?」

「いや、刀――というかだな……とりあえず、抜いてみてくれ」

「ではお言葉に甘えて――こ、これは……」


 ルーツ少将が絶句するのも無理はない。

 鞘から引き抜くまでは、船団ルーツの様式にのっとった――つまりは今まで通りの外装であった。

 だが、その刀身はおそらくルーツ少将が今までみたことがない刀身であったのだ。

 なにせ、俺が考えて作ったものだから。


「刀身に刃がついていないようにみえるのですが」


 そう、ルーツ少将が今抜いた刀は、峰しかない。そのため、見た目は粗雑で無骨な刀にみえる。


「刀身から手を離して、柄を握り込んでみてくれ」

「こうでしょうか――なっ!?」


 俺を除く、その場にいた全員が息をのんだ。

 峰から、刃状の光が現れたからだ。

 そのため元の刀より幅広となってしまったが、鞘に収める関係上、我慢してもらうしかない。


「こ、これは――」

「基本は、光帯剣と一緒だ」


 自分のそれを引き抜き、光の刃を形成させて俺。


「だが、それだけだとルーツ少将の抜刀術が使えなくなる。なので、峰に沿って極めて薄い光の刃が出現するようにした」

「な、なるほど……!」


 光の刃を形成したまま、一振り、二振りと刀を振るって、ルーツ少将。

 刀そのものの重量、ならびに重心は細心に計り、しっかりと移植してある。

 これで、鞘から刀身を走らせる抜刀術を存分に振るえるというわけだ。


「光の刃が形成されるのは、鞘から完全に抜かれていることと、柄をある一定の握力で握ることが条件だ。握力の方は、後で調整させてくれ」

「は、はい。よろしくおねがいします――」


 現時点での握力を測っているのだろうか、光の刃を現出させたり、収納させたりしながら、ルーツ少将が頷く。


「なぁなぁ大将、オイラには? オイラには!?」

「安心しろ。貴様用のも開発中だ」

「うおおおおお! まじか!」


 俺よりひとまわり、ルーツ少将に至ってはふたまわり(さらにはクリスだともうひとまわり)体格の大きいニーゴ用に、長めに作らなければならないのが少し難しかったが、それほど長くはかかるまい。

 いや、まてよ……?

 折角だから、ああするか――。


「マリウス殿」

「あ、ああ。どうした?」


 改まった様子でのルーツ少将の声に、俺は思索から引き戻された。


「此度の件、まことにかたじけない」

「いや、俺は戦力を最良の状態で引き出せるようにしただけだ」

「それでも、我々にとってはかえがえのないことなのです。私達、船団ルーツに属するすべての闘う者にとって、刀は我が魂に等しきもの」


 俺が新たに造った刀――名付けるとしたら、光刃刀(こうじんとう)といったところか――を両手で捧げるように持ち、ルーツ少将は続ける。


「それを丁寧に直してくださった上に、新たな刀まで造っていただきました。ゆえに――」


 両手で捧げ持つ形から、主君に向ける儀礼用の構えに持ち替え――。


「ゆえに、約束致しましょう。私はこの迷宮を出るまで、貴方の刀となります。どうか存分にお使いください」

「ああ、よろしく頼む、ルーツ少将」

「はい! こちらこそよろしくお願い致します!」


 こうして、俺はルーツ少将に新たなる刀を提供することが出来た。

 本人の習熟速度は異様までに速く、光の刃が形成される握力を調整しただけで一日と経たずに光刃刀を使いこなせるようになっていた。


「すばらしいですね! 損耗を気にせず剣技を繰り出せるのがこんなに気持ちいいとは思いませんでした!」


 ……どうも、彼女をいけない道に引きずり込んでしまったような感じがするのだが――気のせいであってほしい。


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