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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一二六話:抜刀少女

 その辺の海、しかも『箱庭』という迷宮にも自生している海草で壊血病を解消できるというのは、朗報であった。

 もっとも、肩の力がぬけてしまったのもたしかであったが。

 それはさておき、元戦艦、現浮城の『鬼斬』に必要な食料をはじめとする物資の積み込みは終わった。

 これにより、この箱庭の攻略が可能になったわけだ。


「あの……クリスタイン元帥」


 雷光号に乗り組む直前で、リョウコ・ルーツ少将がクリスの前に進み出ていた。


「なんでしょうか」


 傍らには、旅の支度とおぼしき荷物がある。

 それがわかっていても、立場上クリスは訊かなければならなかったのだろう。


「不肖ながら、私も探索に参加したいのですが」

「それは――」


 クリスがこちらをみる。

 それに対し俺は頷くと、


「ありだと思う。行方不明のもう一隻を発見したとき、その乗組員を説得できるからな」

「ですが、『鬼斬(おにきり)』の士気低下が懸念されます」

「その問題ですが――」


 ルーツ少将が反論しようとしたときだ。

 その背後に、幾人かの人影が現れた。


「我らからも、お願いしたい」

「それがしからも!」

「どうか! どうか!」


 ルーツ少将の背後で乗組員たちが、揃って頭を下げていた。

 中には怪我をおして、むりやりこの場にいる者もいる。


「ここの護りは、我らだけで十分。御息女を、どうかよろしくおたのみ申す!」

「わかりました! わかりましたから――」

「すぐに寝てください! まだ無理しちゃいけない身体なんですよっ!」


 当然ながら、アリスに怒られる。

 だが彼らも必死で、アリスの指示でニーゴに運ばれてもなお、懇願し続けていた。


「もう、仕方が無いですね……!」


 クリスが帽子を被りなおす。

 それが照れ隠しの仕草だと、短くないつきあいでわかってはいたのだが――。


「いいのか、クリス」

「良いも悪いもないです。乗組員の皆さんがそういうのなら、むしろ一緒に来てもらわない方が士気に関わりますから」

「そうだな。とはいえお互い気になるだろうから、探索中は定期的に様子をみるため、ここへ戻ってくるようにしよう」

「そうですね。それでいきましょう」

「なにからなにまで申し訳ない……」


 ルーツ少将が、申し訳なさそうな顔で礼を言う。


「私がもう少し、指揮官として優秀であれば――」

「いや、なんの備えもなしにここまで保ったのはルーツ少将の手腕だ。それは誇っていい」


 クリスやアステル、それにドゥエならばともかく、往事の魔王軍の将が同じ条件でここに囚われた場合、何人が生き残ることができたか……。


「そう仰っていただけると、多少心が軽くなります。ありがとうございます。マリウス殿」


 こうして、ルーツ少将も探索に加わることになった。


「お邪魔致します……これが、雷光号(らいこうごう)!」


 艦内に入って、まずあがったのが歓声だった。


「艦橋が無いと思ったら、司令塔で一括管理しているとは……! そういう設計もあるのですね」

「正確には、操縦室だがな」


 雷光号の装甲は、区画ごとに厚い、薄いということがない。

 それ故どこにいても安全であるし、仮に装甲が撃ち抜かれるようならどこにいても危険ということになるわけだ。


「あの、他の乗組員の方は下の甲板に?」

「いや違う。雷光号はここにいる人数で運用できるようになっているのでな」

「たった四人で巡洋艦を運用できるんですか!」


 ルーツ少将の反応が素直なのが、かえって新鮮だった。

 最近のアリスはちょっとやそっとの改造では驚かなくなっているし、クリスに至っては驚きより先に実戦での運用法法を訊いてくる有様だったからだ。


「一体どんな設計で……いえ、そんな設計の艦はどこにもないはず――」

「実は、この艦そのものが丸ごと発掘品でな」

「そんな発掘品があるとは……世界は広いですね!」


 いままで出会った指揮官の中でも、ルーツ少将は破格の素直さだった。

 その素直さが却って危ういと思ってしまうのは、将をさらに統括する魔王という立場だったからだろうか……。


『ほんじゃま、出航するぜ~』

「だ、舵輪も機関の調整弁もなしに動くんですか!?」

「発掘品だからな」

「しかも、ニーゴ殿が……船体と一体化している!?」

『ああ、合体してるんよ』

「が、がったい!?」

「発掘品だからな」

「し、信じられません。こんなにも静かに……しかも排煙もないなんて!」

「発掘品だからな」

「それでいて、この加速力とは――!」

「発掘品だからな」


 自分で言ってはいけないのだろうが……。

 便利な言葉であった。


「ええと……リョウコ――ルーツ少将、少し落ち着いてください」

「あ、はい! 申し訳ない、クリスタイン元帥!」


 さすがは将といったところだろか。

 クリスの一言で、ルーツ少将は平静を取り戻す。


「さて――」


 自分の席で俺は今後の方針を決めるべく口を開いた。


「こんな有様だが、ここは基本的に迷宮だ」


 規模が大きすぎてわかりづらいが、分岐や曲がり角、それに各種罠が備えてある――はずだ。


「迷宮――ああ、巨大な遺跡と判断すればいいわけですね」


 と、クリス。

 たしかに、いまの世界ではそういう判断の方がしっくりくるのだろう。


「なるほど、異常気象の調査用ではなく、遺跡探索用の装備を調えて臨めばよかったのですね……」


 悔しそうに、ルーツ少将が呟く。


「入り口からして、偽装された罠になっているんだ。仕方の無い話だろう」


 俺だって、なにも知らなかったらルーツ少将と同じ装備を選んだはずだ。


「そういうわけで――ニーゴ」

『おう』


 ルーツ少将の手前、二五九六番をニーゴ呼びする。

 向こうもそれがわかっているのだろう。特に訂正せずに応えてくれた。

 ともあれ、正面の表示板に周辺の地図が浮かび上がる。

 中央の光点が、我々の雷光号だ。


「基本的なやり方だが、地図を作りながら侵攻する」


 それは一番時間がかかるやり方だが、堅実だ。

 とくに、構造がよくわからない迷宮では必須といってもいい。


「戦いの基本は砲撃戦となる。その後で——」

「ざ、残弾は――大丈夫なのですか?」


 予備の座席から、ルーツ少将が不安そうな声を上げる。

 彼女たちの場合途中で弾薬が尽きてしまったという恐怖心がまだぬぐえないのであろう。


「心配しなくていい。補充は十分にある」


 まさか適時生成できるので実質無限大とはいえない。


「ただ、相手も艦砲で対処できるような大きさの敵を出さないときがある」

「そのときは、我々の出番というわけですね!」


 そのために来たとばかりに、ルーツ少将が勢い込む。


「ああ、そうなるな」


 言い忘れていたが、最初に出会ったときのように鎧は着込んでいない。

 曰く、あれは指揮官としての象徴として使うものであり前線では却って危険らしい。

 どうやら、俺の危惧したとおりあの鎧は重りにしかならないようであった。


「ただし、我々が『鬼斬』で掃討したあの青色のが出てきたら、女性陣は艦内で待機すること」

「前回もそうでしたが、何か理由でも?」


 クリスが当然の質問をする。

 だが、どうにも答えにくい。


「それは、だな……」


 俺が言葉を濁したときだ。


『おいでなすったぞぉ!』


 ニーゴが警告を発した。

 海から飛び出た小型の何かが、雷光号の甲板に降り立ったのだ。

 幸いにして、青色のあれではない。

 平均的な魔族サイズの、機動甲冑を模した自動人形であった。


『まずで落とせるやつを落とす!』


 雷光号に搭載されている速射砲が撃ち抜ける敵をつぎつぎと潰す。

 しかし元々甲板の敵を掃討するためのものではないため、射線の都合というものがでてきて何体かは残らざるをえない。


「白兵戦! 俺とニーゴは前、アリスとクリスは後方から投擲武器か近距離射撃!」

「私はいかがいたしますか!」

「まかせる!」


 全員で甲板にあがる。

 残った敵は三体。

 となりで構えるニーゴは雷光号の操艦もあるのでこの前のようには動けないだろう。

 だから、俺が殲滅させるつもりで積極的に攻めるしかない。

 まずは、ひとつ。

 光帯剣は防御不可避の剣であり、そこに装甲の厚さ薄さは関係ない。

 相手が鎧を着込んでいようが得体の知れない生物であろうが、ただ斬るのみだ。


「なんだこれ、やりづれえ!」


 やはり操艦と同時では処理が追いつかないのか、はたまた同じ機動甲冑を意匠としているためか、苦戦しているニーゴを援護し、連携で倒す。

 これでふたつ。

 後は、最後の一体――!


 そこで、ルーツ少将が風のように駆けた。

 その勢いたるや、まるで騎兵の突撃のようである。

 だというのに。

 腰に提げた剣――いや、彼女曰く刀か?――を抜いていなかった。

 なぜ、抜かない!?

 そんな疑問が口に出る直前。

 ルーツ少将は、強く踏み込むと同時に刀を抜き放った。

 ――いや、正確には。

 抜き放つと同時に、相手を斬っていた。

 斬られた最後の一体は一瞬硬直し、そしてまっぷつたつになって崩れ落ちる。


「なんだ……今の剣技は……」


 その剣筋は、あまりにも速かった。

 この俺ですら、目で捉えられなかったほどだ。

 静かに、ルーツ少将が刀を納める。


「はえええええええっ! なんだそれ! なんだそれ!」


 ニーゴが感極まった様子でそう叫んだ。

 普段から空いている時間をみては剣の使い方を習っている彼からしてみれば、みたこともない剣技というのは宝の山に等しいのだろう。


「なぁなぁ、剣の姉ちゃん! 今の技、なんていうんだ?」

「抜刀術です。それと私のは剣ではなく、刀っていうんですよ」

「抜刀術だな! ありがとよ、刀の姉ちゃん! あと、今度それオイラにも教えてくれ!」

「ええ、構いませんが……」


 ルーツ少将の顔が、少しだけ曇る。


「なにか、問題があるのか?」

「ええ……」


 俺の質問に、ルーツ少将は素直に答える。


「私の技、使えてあと数回なんですよ」


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