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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一二五話:ビタミン摂取に関するあれこれ


 それは探査のため、雷光号(らいこうごう)に必要な物資を積み込んでいるときのことだった。


「マリウスさん、いま思ったんですけど……」

「どうした、アリス」


 例の魚の漬け物――ここからでも若干匂いが漏れ出ている!――が詰められた樽をどこに置くのか苦心しつつ、俺。


「魚のお漬け物じゃなくて、塩漬けにすればしょっぱいだけでクセには悩まなかったかもしれませんね」

「それを先にいってくれっ!」


 既に数樽分あるんだが!

 数ヶ月は余裕で探索できるのだが……!

 ――とはいえ、こちらもひとつ抜けていたところがある。


「こちらからも、ひとつ問題がある。壊血病の方はどうする?」

「えっ……?」

「えっ、ではない」

「そっちは、あれを食べれば大丈夫では?」

「あれ?」


 妙な間があく。

 どうやら、久々に文化の違いがぶつかりあったようだ。


「ちょっとまってくださいね」


 アリスが一度、奥に引っ込んだ。


「おまたせしました」


 手に持っているのは、かぎ爪のついた長い棒だ。

 そして、雷光号の舷側から、海面を見渡す。


「あのへん……ですね」


 なにをするのか訊く前に、アリスはかぎ爪を海に差し入れ、すぐに引き上げる。

 かぎ爪の先には、細やかな葉を持つ蔓状の海草が引っかかっていた。


「これは――」

「レモングラスです」

「お、おう……」


 それは、海草ではなく、香草の名前だったような気がするのだが。

 あと、元の香草は香りだけでその栄養分はレモンは異なるものだったはず――。


「この葉の部分を少し摘んで食べてみてください」

「ああ……」

「見た目よりすっぱいので気をつけて」

「わかった――本当に、酸味が強いな」


 口に入れた直後は葉特有の青臭さが仄かに感じられたが、噛みつぶすと憶えのある酸味が口の中に広がった。

 仮に絞って並べた場合、少なくとも味覚からではレモンと区別はつかないだろう。


「これを真水でよく洗って絞れば、お料理にもお菓子作りにも使えるし、毎日なにかにつけるようにして食べれば、壊血病の方は大丈夫ですよ!」

「だろうな……」

「――もしかして、マリウスさんが封印される前と後で、変わったものなんですか?」


 微妙な雰囲気の変化を感じ取ったらしい。

 アリスが、そう訊いてくる。


「そうだな。もとは土の上に生えている香草だった」

「香草だったんですか……! ちょっと意外です」

「薬効というか、栄養分か。それもレモンと同じものではなくてな。主に香りを利用するものだった」

「だいぶ違っていたんですね」

「もしかしたら、名前だけ引き継いでいるのかもしれないな」


 というより、その可能性の方が高い気がする。

 俺がいままで遭遇してきたものも……。


「それで、このレモングラスとやらは収穫しやすいのか?」

「はい、大抵の沿岸部にこうして繁殖しています。今は非常用みたいな感じですけど、昔はこれを採取しながら長距離航海をしていたそうですよ」

「なるほどな……まるで――」

「まるで?」

「いや。なんでもない」


 まるで、この海に住まう生き物が滅びないようにと配慮されたかのようだ。

 ……もし、そうであるのなら。

 俺が封印されて、今のように水位が上がる前もしくは直後に俺と同等の技術力と設備、そして膨大な時間を持った誰かがいたのかもしれない。

 それがひとりで成したものなのか、あるいは集団で成したものなのか、それはわからないが……。

 どのみち、偉業といっていいだろう。


 願わくば、それが生き残った魔族によるものだと思いたい。


「ちなみに、昔の人はお魚の漬け物にこれを生で添えたり、匂いをごまかすためソース代わりにかけて食べていたそうです」

「そ……そうか……」


 かえって逆効果か、下手をすれば相乗効果でもっとひどいことになるような気がするのだが……。

 昔の人間の、苦労が偲ばれる話であった。


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