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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一二二話:最初に作るもの

「なるほど。砂洲はそうなっていたんですか……」


 俺の報告を聞いて、クリスは沈痛な面持ちのまま頷いた。

 雷光号(らいこうごう)の船室。

 アリスもクリスも奮闘した結果、ひどく疲れた様子であった。


「島で埋葬されるというのは、最上級の弔いになります。リョウコさんにとって、どうしてもやりたかったことなのでしょう」

「普通は――水葬か?」

「そうですね」


 クリスの代わりに、アリスが答える。


「島を持つ船団の方が珍しいですから。通常はそうなります。島があっても、そこに住む人がいる場合は複雑なことになりますし」

「なるほどな……」


 陸地が少ないとそういうこともあるわけか。

 あらためて、いまの世界の状況をかみしめる俺であった。


「さて、状況の確認だ。アリス、負傷者の状況は?」

「重傷者と軽傷者が半分といったところです。ですが、重篤者――命に係わる人は幸いにしていませんでした」


 と、アリス。

 相当疲れているはずなのに、その声には疲労の色が見られない。

 それは隠しているというよりも、いまは倒れていられないという矜持のようであった。


「戦闘に参加できる人数は?」

「十人いるかいないかといった感じですね」


 今度はクリスが回答する。


「よって、リョウコさんたちを戦力としてあてにするのはやめた方がいいと思います」

「だろうな……」


 それは、俺もそう結論づけていたことであった。


「では、こちらからも。ルーツ少将の戦艦『鬼斬(おにきり)』を一通り見て回ったが――」


 さすがに浸水した区画は見ていないが、無事であった部分はのこらず確認し、一部は応急処置を施してある。


「よほどの改装を行わない限り、自力での航行は不可能だ」

「でも、やるんですよね?」


 と、クリス。

 そのこっちの考えていることを言い当ててみせた表情は、年相応っぽかったが、いまは指摘しないでおく。


「時が来ればな。だが、現状では無理だ。たとえ艦を修理しきっても、動かす人員がいない」


 雷光号のようにほぼ自分で動くようにすることも不可能ではないが、それにはかなりの時間がかかる。

 それに、そうなった艦をそのままルーツ少将に渡すと、五船団の均衡が崩れかねない。


「それじゃあ、どうするんですか?」


 アリスが当然といえば当然の質問をする。


「要塞にする」

「よ――」

「要塞!?」


 アリスとクリスが、ほぼ同時に聞き返した。




 ■ ■ ■




「『鬼斬』の修復――ですか?」


 座礁した戦艦の甲板で、ルーツ少将はそんな声を上げた。

 司令塔の方はアリスたちが奮闘してくれたおかげで一段落ついており、いまはアリスが雷光号から持ち込んだ食材によって乗組員たちの栄養状態は急速に回復しつつあった。


「それは是非ともお願いしたいのですが……残念ながらいまの私たちでは運用できる人員が足りないのです。それに残弾も無きに等しいので――」


 さすがは指揮官にして次代の司令官。

 現状把握は済ませているようであった。


「ああ、だから改装しようと思う」

「改装ですか。具体的には?」

「要塞化」


 ルーツ少将は、しばらく言葉を発しなかった。


「よ、要塞ですか……しかしそこまでの大工事、日数がかかるのでは?」

「それなんだが、雷光号にはその手の発掘品が積んであってな。数日もあれば工事は完了するはずだ」

「数日――信じがたい日数ですが、発掘品ならありえるのでしょうね」

「それで、勝手で申し訳ないのだが改装時は司令塔で待機してもらえないだろうか」

「それは当然でしょう。そんな短期で戦艦一隻を改装するのですから」

「そう言ってもらえると、助かる」


 こういっては悪いのだが、少し新鮮味を感じる俺であった。

 アリスもクリスも慣れてしまったのか、最近は何をしても特に反応が無くなってしまったからだ。


「それで、改装はいつからですか」

「明日にでも――ん?」


 そこではたと気づき、空を見上げる。

 おかしい、()()()()()()()()

 見上げる空は、()()()()()()()()であったのだ。


「なんだ……これは……」


 この箱庭に突入したのが昼前のはず。

 そして遭遇戦を経て、ルーツ少将たちを発見し、救出戦を行ったのまでは速かったが、その後の負傷者への治療、そして戦没者への追悼はかなりの時間がかかっていたはずだ。

 なのにまだ、()()()()()()()()


「ここに来てから、ずっとそうなのです」


 疲れた様子で、ルーツ少将はそう続ける。


「この空、私達がここに囚われてから全く変わっていません。おかげで、いつここに取り込まれたのかも、わからなくなっていて……」

「そうだったのか……」


 だが、それはおかしい。

 箱庭は、あくまで空間を圧縮していただけだ。

 それゆえ天候はそれが設置された場所に左右されるはず――



 ――



『天候も操作できれば、より訓練に向くのではないかと思うのです』

『だが、どうやっておこなう?』

『魔法で空間に干渉したのがこの箱庭です。ならばさらに干渉して、異空間に置くというのはどうでしょう? 入り口のみを、現実世界に置くのです』

『――見込みは?』

『まだ立っておりませんが、いずれは必ず』

『そうか。では、邁進せよ』

『仰せのままに!』



 ――



「完成させて、いたのか……」


 天を仰いだまま、俺はそう呟いていた。


「――マリウス大佐? それはどういう意味ですか?」

「いやすまない、こちらの話だ。それよりも、早急に時計を作ろう。暦も読めるものを、な」

「……助かります」

「改装は、その後で行おう」


 とりあえず、最初に作るものは決まった。

 まずは、狂いかけている時間感覚をたださねばならない。


「となれば、アリスとクリスを呼ばねばな」

「ユーグレミア少尉とクリスタイン元帥を?」

「ああ、ちょっと――な」


 なぜならば。

 現在の暦は、俺もわからないからだ。


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