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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二章:旅の仲間

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第十二話:旅の仲間

『思うんだけどよ』


 帰投中、二五九六番が呟いた。


『派手にぶっ放しまくったのはいいけど、誰もみてないんじゃオイラたちの手柄にはならないんじゃね?』

「今回は、それでいい」


 戦闘に使う操縦席ではなく、くつろぐときに使う長椅子で休みながら、俺はそう答える。


「今回の戦いは俺達にとっては決戦だったが、船団にとっては普通の遭遇戦であったことにしたい。でないと、離れられなくなるからな」

『あー……すげー戦果をあげると、ずっとそこにいてくださいって言われちまうってことか』

「そういうことだ」


 いずれはそうなってもいい。だが、今はあの古銭の謎——俺を封印したあの忌々しい勇者が浮き彫りになっている——を、ひいてはあの忌々しい勇者が天の使いであり、封印された俺が魔王ではなく、旧き神とかいう荒唐無稽なものになっていることも解かねばならない。

 そうすれば、俺が封印される前の世界と、封印から目覚めた今の世界との違いを探るとっかかりとなる。

 つまりは、俺が封印されてからこの世界に何が起きたのかが、わかるはずであった。


「だから今回は、彼らの言っていた報酬をもらうだけでいい」


 正規の護衛艦隊をさしおいて、目の前で五隻を沈めてみせたのだ。それなりの報酬は期待できるだろう。


「あとは——」

『あとは?』

「いや、なんでもない」


 長椅子から、ちらりと見る。

 未だに通信士席に座ったままの、アリスを。

 いま彼女は、俺達の会話に参加するわけでもなく、ただじっと船団を示す光点を見つめている。

 アリスは、この先どうするのだろうか。

 あの船団で、働き口がみつかったら。



 ■ ■ ■



「お疲れ様でした」


 前回停泊したときは無人だったが、今回は歓待を受けた。


 軍服に似ているが、それより威圧感のない服を着、供をふたりつれた男。

 おそらく、この船団の政治を司っている者であろう。


「撃沈は、五隻です」


 俺は簡潔に報告する。

 ちなみに、交易のときのように変装も済ませておいた。

 目立つ行為をしはしたが、それ以外のことで目立つのは、あまり得策ではない。


「はい。護衛艦隊からも報告が上がっておりますので、それに関しては疑いようもございません。つきましては——」


 一呼吸置いて、男は続ける。


「明日、行政区画の第一甲板にお越し願えますでしょうか。報酬と、今後についてお話ししたく」

「わかりました」


 細かい時刻と場所の説明をし、男たちは去って行く。


『どーなんのかね』

「さぁな」


 さすがに、こちらを害することはないだろう。

 よしんばあったとしても、そうなれば——アリスには申し訳ないが——この船団を破壊してしまえばいい。


「さて、このあとだが……」


 実を言えば、特に予定が無い。

 ……いや。

 あった。ひとつだけ——。


「あの」


 さきほどからずっと俺の後ろにいたアリスが、声をあげた。


「あの、マリウスさん。今日はもう、予定はありませんよね」

「ああ。そうだな」

「でしたらその……最初に上陸したときの——続きをしませんか?」

「構わんぞ」


 そもそもこの騒動で中断された形になっていたのだ。

 ならば、きちんと遂行するのが道理だろう。



 ■ ■ ■



 係留した二五九六番をあとに、アリスはどんどん進んでいく。

 こころなしか急ぎ足なのはきのせいかもしれないが、前回はあちこちを見回していたのに、今回はまっすぐ前を向いていた。

 やがて、あまりいかがわしくない普通の服がならぶ区画に到着する。ここでもアリスはまっすぐに進み——。


「マリウスさん」

「なんだ?」

「ちょっと試着してきますので、ここで待っていて貰えますか」

「ああ、わかった」


 どうも、アリスは既に新しい服を選んでいたようだ。

 そういうわけで、店先の前で待つ。

 前にこれが良いと言っていた、女給の服か、あるいは作業服か——。

 まさか、あの派手な位置に飾ってある、露出が極端な服であるまいか。

 それはないと信じたいが……。


「おまたせしました」

「ああ」


 振り返って、俺は絶句した。


「似合って、いますか?」


 似合っている。似合っては、いる。

 なにせそれは、俺が似合うかもと選んだ服であったからだ。


「アリス——お前は」


 アリスは、秘書官の制服に身を包んでいた。

 真っ白なブラウス。銀糸で縁取りをされたケープ、そしてタイトなスカートに薄手のタイツ。

 前にも言ったが、俺の軍の女性士官の制服に雰囲気がよく似ていた。

 だがそれは、秘書官の制服だ。

 いまでは形骸化しているそうだが、秘書官の制服と言うことはつまり……。


「わたし、決めました」


 胸に片手を当てて、アリスは続ける。


「料理人は夢ですけど、今はマリウスさんのお手伝いをしようって」

「いいのか?」

「はい」

「本当にいいのか。これからも先ほどのように、戦いに出ることもあるぞ」

「それでもです」


 まっすぐに俺の目を見つめて、アリスはそう答える。


「それに……ほら。マリウスさんと二五九六番ちゃんだけだと、発光信号を読み取る人、いないですし」


 なるほど、確かに。


「あと、マリウスさん、戦うこととか船を操縦するのはすごいですけど、他の事は詳しくないみたいですし」


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!


「ちがいないな! 確かにその通りだ」


 アリスが不安に思うのも無理はない。

 確かに今の俺は、一般常識が欠けているようにみえるだろう。

 それに、ここでアリスとわかれるとしたら、通信士を雇う必要がある。

 そこでまたいちから事情を説明するのは、考えてなくともばかばかしい話だった。


「わかった。アンドロ・マリウスの名において、貴様を雇おう。アリス」


 俺は宣言する。


「はい。よろしくお願いします、マリウスさん。アリス・ユーグレミア、がんばります!」


 アリスには言わないが、魔王の俺が自分の名を出して雇うということは、元々の意味では騎士に叙勲するということになる。

 このか弱い人間の少女が新たな騎士だと知ったら、元来の配下たちは大いに驚いたことだろう。

 だが不思議なことに、俺は今までの屈強な騎士たちを配下に収めたときと同じように、奇妙な高揚感を覚えていたのであった。

■今日のNGシーン


「おまたせしました」

「ああ」


 振り返って、俺は絶句した。


「似合って、いますか?」


 似合っている。似合っては、いる。

 なにせそれは、俺が似合うかもと選んだ服であったからだ。


「アリス——お前は」


 アリスは、競泳水着に身を包んでいた。


「マリウスさん、こういうのが趣味なんですか」

「ちがう! まて! それは俺ではなく作者の趣味だ!」

「——本当ですか?」

「……ほ、ほんとうだぞ?」

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