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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第六章:タリオンの箱庭

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第一一九話:タリオンの箱庭

「新年あけましておめでとうございます。本年も『勇者に封印された(中略)ない!?』をよろしくお願い致します」

「あの……マリウスさん。どうして私達着物姿なんですか?」

「新年初放送時、昔のアニメではこういうことをやっていてな」

「な、なるほど……」

「次の船団……ルーツと、そのあとに続くフラットですが――」


 雷光号(らいこうごう)の艦内、提督席に座ったままクリスはそういった。


「このふたつの船団はとてもやっかいです」

「……いままで以上にか」

「いままで以上に、です」


 操縦席で、思わず両手を組む。

 ついこの間まで歌と踊りと戦いで()()()()()()()()だったのだ。

 これ以上、なにがあるというのか。


「具体的は、どういう感じなんですか?」


 と、通信席からアリスが訊く。


「もともとこのふたつの船団、ひとつの船団だったんですよ」

「規模が拡大しすぎて独立したって事ですか?」

「いえ、支配層のお家騒動です」

「お家騒動?」

「あっ」


 察してしまった。


「はい。お家騒動です。それによって、ふたつの船団はお互い争いに争いました。時には他船団――私達シトラスも含みます――が仲介に出たほどだったそうです。いまは、小康状態といったところですが――」

「あっ」


 察してしまった。


「このふたつの船団、お互いが主張している領海のちょうど真ん中に、小さな島があるんですよ」

「あっ」


 察してしまった。


「そういうわけで、まず間違いなくどちらの船団からも、自分たちに荷担するよう要請して来ることは間違いありません」

「……だろうな」

「私達は、これを巧くやり過ごして中立を保たねばなりません。もし万一片方に天秤が偏ると――もう片方の船団から海賊狩りの認可がおりない――もしくは、破棄されてしまいます」

「双方に肩入れせず、それでいて無碍に扱ってもならないということだな」

「そういうわけです」


 敢えていおう。

 面倒くさい。


「このふたつの船団を無視して、帰るか……」

「止めはしませんが、双方とも歴史はありますからもったいなくはあります。おまけに戦闘記録や戦記の類いだけは信じられないくらい豊富ですし」

「ぐぬぅ……」


 それでは、行かざるを得ないではないか。


『まぁ、オイラにはできることないけどよ。大将ならそういうの――えっと、腹芸っていうんだっけ――何度もやってんだろ?』

「そうではある。そうではあるがな……」


 確かに封印される前は、いまとは比較にならない数の権謀術数を繰り広げてきたものだ。

 だが、それ故慣れてきたというのは若干意味合いが異なる。

 あれは、すり減らすものだ。

 心のどこかを、すり減らしながらやるものなのだ。

 場数を踏めば踏むほど、すり減る量を抑えることが出来るが……。

 完全になくすことは、どうやってもできない。

 だから、国をかけての腹の探り合いは連続して出来ないし、やれば心がすり減りすぎて疑心暗鬼に囚われてしまう。


 ――それを、俺は二五九六番のみならずアリスとクリスにも教えたのであった。


「なるほど……勉強になります」


 どこからか取り出した手帳に要点を書き写す、クリス。

 俺たちの中で、今後この手のものに触れるのはおそらく彼女であろうから、いま今のうちにできる限りのことを教えるのはやぶさかではないのだが――できれば、そういうものに巻き込まれて欲しくないと思う俺である。


「それなら、次の船団と次の次の船団では、みんなで分担した方がいいですね」

「いいのか?」

「いいもなにも、わたしはマリウスさんの秘書官ですよ?」

「そうだな……」


 ここのところの騒動で忘れがちになるが、アリスは俺の補佐を行い、時には交渉の最前線に立つこともあるわけだ。

 俺がその気になれば、アリスだけにそういったことをやらせることだって、出来てしまう。

 もっとも、そんなことをするつもりは微塵もなかったが。


「まぁなんにせよ、まずは目の前の船団、ルーツからはじめるか」


 領土争いに巻き込まれるのは御免だが、それに距離を置きながら協力体制を築く方法はいくらでもある。

 ひとまずは、相手の出方を見るとしよう。



 ■ ■ ■



「おねがいします! お嬢様——いえ、御曹司を助けてください!」

「……なに?」



 ■ ■ ■



「要点をまとめます」


 とって返すように出航した雷光号の中で、アリスが報告する。


「先ほどクリスちゃんが説明してくれた境界線上の小島で数日前に異常気象が発生。調査に向かった船団ルーツの御曹司が行方不明になったそうです」

「そして救援に向かった艦隊も、同じように行方不明——ですか」


 腕を組んで、クリスが唸る。


「いまの異常気象というと——なんだ? 竜巻か?」

「そうですね。それが真っ先にあがります」


 と、クリス。


「ですが、ご存じだと思いますけど竜巻はそんな長時間存在しません。最初の調査艦隊はともかくとして、救援に向かった艦隊まで巻き込まれるというのはちょっと……」

「不自然ではあるな」

「だとすると、一体何なのでしょう?」


 アリスが首を傾げる。


「さてな。いずれにしても、もう少しで目視できるはずだが」

『おう、そろそろ見えるころだぜ——なんだ、ありゃ』


 残念ながら、二五九六番の疑問に即答することが出来なかった。

 目の前に光の柱が立っていたからだ。

 その高さは竜巻より遙かに低く、せいぜい大きめの城ひとつ分といったところだろう。

 だが、その範囲は広く、まるで巨大な積乱雲がそのまま島に墜ちたかのようにみえる。


『どうする、大将!?』

「マリウスさん」

「マリウス艦長」


 二五九六番、アリス、クリスが次々と声をかける中——。

 俺は、あるひとつのことに思い当たっていた。


「総員、安全帯を着用。雷光号、強襲形態」

『お、おう!』


 雷光号が変形し、剣を構える。


『どうするんだ、これ。ぶったぎるんか?』

「いや、そのまま慎重に進め。アリス、クリス、座席にしっかり掴まっていろ」

「はい」

「了解です」


 その光の柱に対し、雷光号は慎重に進む。

 そして、それに触れた途端——。

 辺り一面が、光に覆われた。


「くっ……!」


 思わず手で光を遮る。

 が、周囲はなにも見えない。

 同時に身を包むのは、浮遊感。

 つまり——。

 落下している!


「雷光号、着地体勢をとれ!」

『おう!』


 光で全てが見えない中、衝撃が突き抜ける。

 目の前には——水!


「周囲を検索。状況を確認しろ」

『おう! 下は水だった。着地じゃなくて着水した!』

「現在潜水中! 雷光号、浮上します!」


 二五九六番とアリスから報告が飛ぶ。


「光量、落ちています。周辺を目視できます!」


 クリスが立ち上がった。

 続いて、俺も席を立つ。


「これは、滝……いえ、水の壁……!?」


 クリスが、ぽつりと呟いた。

 その言葉の通り、それが左右にそびえ立っている。

 それにより、いままで広大だった海は、まるで通路のようになっていた。


「……なんなんですか、これは」

「『箱庭』だ」

「マリウスさん?」


 アリスが怪訝な声を上げた。

 おそらく、俺の言葉そのものでなく、口調に疑問を抱いたのだろう。

 ——認めよう。

 俺は今、かなり動揺している。

『それ』が、いまもあることに。


「ここは、『タリオンの箱庭』」


 努めて冷静になろうと感情を押し殺しながら、俺は言葉を続ける。


「魔族によって作られた、いわゆるひとつの迷宮だ」



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