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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
幕間

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第一一七話:【番外】聖夜のナイスガイ・魔王

 船団ジェネロウスを離れる前のことだ。

 俺たちは聖女アンの計らいで、島の中央にある図書館、その最深部の閲覧を許された。

 この部分にある蔵書はアン曰く、年代的に重要なものではあるが、その分一般に公開されると船団の信仰を揺るがしかねない可能性があるため封印されているのだということ。

 そのため持ち出しおよび一般への流布は禁止されているとのことであった。


「それを閲覧することを許してくれたんだから、マリウス艦長はだいぶ信頼されたようですね」


 と、本の(ページ)をめくりながら、クリス。


「俺自身の信頼というより、マリスへの信頼なのだろうな」


 棚から引っ張り出した気になる本を閲覧用の机に積み上げながら、俺。


「恐縮です。我が主」


 俺と同じように本を積み上げながら、マリスが一礼した。

 どうでもいいが、俺が積み上げたそれより軽く三倍はあるのだが、すべて読むつもりなのだろうか。


「ところでアリスはどうした?」

「そういえば、姿が見えませんね」


 クリスが周囲を見回す。


「アリス秘書官でしたら、もっとも秘匿度の高い奥の部屋の方に(おもむ)いたようですが」


 マリスがそういって指さした空間から――。

 アリスが、息せききって戻ってきた。


「た、大変ですマリウスさんクリスちゃんマリスちゃん!」

「いったいどうした、アリス」

「この、この本にですね……」


 アリスが置いた本は、深い緑色の本であった。

 その題名は古い言葉でこう書かれていた。


『聖夜のイイ男たち』


 それを脳裏で読み上げた途端、背筋に冷たいものが走ったのは何故だろう。


「アリス。この本がどうかしたのか?」


 努めて冷静に、俺はそう訊いた。


「この本に、マリウスさんそっくりな記述があったんです」

「な――」

「なんですって!?」


 クリスが腰を浮かせた。

 マリスはなにも言わなかったが、目を丸くしている。


「どこだ、それは!?」


 俺はその本を開く。



 □ □ □



「うー。(かわや)、厠」


 今、厠を求めて疾走しているのはごく一般的な文官。

 強いて違うところをあげるとすれば、世界を救おうと思っているところかナー?

 名前はダン。


 そんなわけで――。



 □ □ □



「マリウスさん。その頁じゃないです」

「だろうな」


 本文中に懐かしい名前を見つけたが、それほど珍しいものでもないで偶然の一致だろう。


「それより、聖夜ってなんですか?」


 クリスが首をかしげる。


「今はその風習がないのか」

「アリスさん、聞いたことありますか?」

「いえ、わたしもないです」


 マリスも首を横に振る。そういえば、彼女には俺の周りの情報は記憶として与えているがあまり古いものは伝えていなかった。


「俺も先代の魔王陛下から伝聞で聞いただけだがな。とある聖人が救世主の誕生日を祝って、その夜に付近の子供たちへ贈り物を配って回った風習があったそうだ」

「だから聖夜というわけですか」

「ああ。それを知っていたのは先代の陛下のみであって、俺の代ではやらなかったが――」

「でも、その聖人マリウスさんみたいですね」

「なにをいう。俺はそこまで馬鹿正直ではないぞ」

「そんなことありませんよ。わたしはいままで、色々なものをマリウスさんからいただきましたから……家となる船も、お仕事となる秘書官の地位も――なにもかもを、です」

「……そうか」


 いわれてみれば、そうだった。

 だが、そうであっても俺があの聖人と同じというのは、やはりなにかが違うと思う。


「だからきっと、この記述はマリウスさんのことだったんですよ!」

「いや、だからまずはその記述をみせてほしいのだが」

「あ、はい! ここです。ここ!」

「どれ……」


 アリスが開いた頁を、皆でのぞきこむ。



 □ □ □



 (せい)

 (せい)(せい)

 (せい)(せい)(せい)

 (せい)(せい)(せい)(せい)! (せい)(せい)(せい)(せい)(せい)

 (せい)(せい)(せい)(せい)(せい)! 聖ー聖(せーい)(せい)(せい)(せい)


「さぁ、はじめよう! 聖夜を!」


 深夜。

 全身真っ赤な装束に身を包んだ男が、鐘楼の屋根で高らかに宣言する。


「俺の名前は、ザンダ・クロス! 今宵の歓びを、貴方と共に!」



 □ □ □



「これのどこが俺だ!?」

「似てますよ!」

「名乗りを上げる前の高笑いとか、そっくりですね」

「絶対に違う!」


 クリスまでもが、そんなことをいう。

 そもそも高笑いか、あれは!?


「ともかく! これは間違いなく俺ではないからな!」

「そんなことありません!」

「私もアリスさんの意見に賛成です」

「むしろ名誉侵害でどうにかしたいのだが!?」

「でしたら、多数決を取られてはいかがですか?」


 と、マリス。

 なるほど。二対二で拮抗させてうやむやにしようという肚か。なかなかにいい手を思いつく!


「ならばよい」

「では、この聖人さんがマリウスさんだと思う人!」


 アリスが勢いよく提案し――。

 三名が、挙手をした。


「マリースッ!?」

「私も、同意見だと思いましたので」


 アリスとクリスが手を打ち合わせる中、しれっとした顔でマリスはそんなことをいう。

 そんなわけで、その奇声を発する謎の男は俺ということにされたのだが……。

 案の定、それ以上調べてもなにもでてこないのであった。


「マリウスさんのことだと思ったんですけどね……」

「なにが哀しくて聖夜に奇声を発しなければならないのだ、俺は」


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